第6話 訓練
休憩が終わった後はジャングルをシクと歩き周り、様々な植物や動物の特性などを教わった。
「いいか、アトス。 モンスター達の気配を見逃すな」
「見逃すなって言われても、俺にはモンスターの形跡とか全然分からないよ」
日本の都会で育った俺からしたら、このジャングルはどこを見ても一緒の景色にしか見えない。
「一見同じ景色にしか見えないがよく見ると全然違うんだぞ?」
そう言うとシクは地面などをキョロキョロ見始めた。
「地面なんて見て何しているのさ」
「アトス、ここを良く見てみな」
シクに言われるまま地面をよく見ると小さな足跡などがある。
「足跡が見えるか? これはモンスターの形跡とは関係無いが、ここを動物が通った事が分かる」
「動物の形跡が分かった所で何の意味があるのさ」
「今は私が居るからいいが。私に何かあった時にアトス自身の力で生き抜かないとダメだからな。その時に動物の形跡を見つけられたら狩る事が出来るだろう?」
そんな事を言いながらシクは地面にしゃがみ込んで、他にも無いか確認をしている。
「何かって何だよ。そんな事言うなよ……」
情けない顔をしていたのか、シクが俺の頭を撫でる。
「大丈夫だ。お前を残して居なくなったりしないさ。もしもの時だよ」
納得いかない表情をしながらも俺は黙る事にした。
それにしても、シクは今21歳か?
俺は転生する前が27歳で、それから五年が経過し、今は32歳……それを思うと凄いしっかりしているな。
俺自身、赤ん坊に転生した事で感情が引っ張られているのか、口調や考え方が幼くなっているのを感じる。
「アトス、暗くなって来たからそろそろ家に戻ろうか」
「分かった」
「ジャングルに慣れる為にこの訓練も毎日やるからな」
「はーい」
俺の空返事を聞いてシクの表情が険しくなる。
「はい!明日もよろしくお願い致します。お母様!」
「お前を育てて偶に思うんだが本当に五歳児か?」
「い、嫌だなー。何を変な事言っているのさ!」
「それもそうだな。忘れてくれ。戻るぞ」
……ふぅ。
やっぱり、五歳児ぽく振舞っているつもりでも、知らないうちに五歳児ぽく無い言動が出てしまう。気をつけないと。
「シク、今日のご飯はなに?」
「そうだな……。昨日狩ったイノシシのステーキにするか」
「またかよー!」
「ワガママ言うんじゃない」
こんな事を言っているが、シクの料理は美味い。このジャングルで取れる食材は似たり寄ったりの食材しか取れないが、シクの場合は何故か同じ食材を使っていても毎日味が変わって飽きが来ない。
「ふぅ……到着!」
「すぐ支度するから休んでていいぞ」
「分かった」
そう言って俺は洞窟の中に座った。
そう……洞窟だ。
この世界では、モンスターが近づいて来たら住処を移すのだ。
なので、前世みたいに家を建てるという風習は有るにはある様だが、俺達みたいに洞窟など利用したりする者も多い。
仮に建てたとしても、モンスターが来たらすぐ壊されてしまう為、家を建てる手間を考えると悩みどころだな。
この世界では、簡易的に作られた家か洞窟などに生活空間を作るだけで、いつでも引っ越し出来る状態にしている者が殆どの様だ。
村単位で住んでいる者達も居るがやはり、何が起きても良い様に簡易的な家を少し立派にしたものが多いらしい。
最初は洞穴暮らしとか縄文時代かよ……って思ったけど、住んでみると案外慣れるもので今は全く気にならない。
そんな事を考えている内に俺はいつのまにか寝てしまった。
「んん……? あれ? 俺寝ていたのか」
辺りは真っ暗になっていて隣にはシクが寝息を立てていた。
「すぅ……すぅ……」
シクは訓練では厳しかったが、それ以外では基本的優しい。
ご飯食べ損なったな……。
せっかく作ってくれたのに悪い事した。
このまま起きてても明日の訓練キツくなるだけだし、寝るか。
こうして、訓練初日が終わった。
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