第2話 獣人少女の決意

 「なぜ、こんな場所に赤ん坊が……」


 幼い顔立ちの獣人? 少女が呟く。


 「あぎゃ、あぎゃ」


 伝わらないと分かりつつも俺は声を出してしまう。


 「捨て子か」


 少しの間を置いて少女は呟く。


 俺は、少女の言葉など耳に入らず頭の上に付いている耳をずっと見ていた。


 獣人か……ますます異世界だな……


 少女の耳や顔を見ていたら目線が合う。


 「とりあえず、まずはあいつから逃げるのが先だな」


 少女はイモムシの方に目線を移して呟く。


 イモムシもやっと俺達の事を見つけた様で物凄いスピードでこちらに向かってくる。


 「気づかれたか。何やら普通のモンスターとは違う雰囲気だが、とにかく今は、逃げるしか無さそうだ」


 小さく舌打ちをして少女は俺を抱いてイモムシから逃げ出す様に走り出した。


 赤ん坊とは言え俺を抱きながら逃げる少女のスピードは普通では考えられない程早い。


 それに、信じられない事に獣人少女は地面を走るのでは無く木から木へと飛び移る様にして逃げているのだ。


 おいおい……猿みたいな子だな……


 「諦めずに追ってくるか」


 物凄いスピードで逃げているがイモムシも同じスピードで俺達を追い掛けてくる為、俺達とイモムシの間は50メートルも離れていないくらいだ。


 なんで、このイモムシ俺達を追って来るんだよ! もしかして俺達を食べようとか思っているのか?!


 「不味いな……このままでは体力が尽きて、いずれ追いつかれるな」


 非常に危ない状況のはずなのに少女は表情を一切変えず冷酷なままである。


 「しばらくの間静かにしていてくれよ?」


 少女はこちらに目線を向けて言い放つ。


 何をする気だ? そんな事を考えていたら、少女は更に早いスピードでイモムシから逃げる。


 走るスピードをどんどん上げて行き、最初は50メートル程しか離れていなかった距離も、しばらく逃げ続けていう内にイモムシの姿が見えなくなった。


 そして少女は木の陰に隠れて息を潜めた。


 「ここでやり過ごすから声を上げてはダメだぞ?」


 普通は赤ん坊に通じるはずも無いが少女は俺に呟く。


 俺は少女に言われるまま息を潜めた。


 「偉いぞ」


 無表情で少女は言うが、やはり無理なスピードでここまで逃げてきたからなのか肩で息をしていた。


 少しの間息を潜めていると、イモムシが再び姿を表したのである。


 どっか行け……どっか行け……


 このままやり過ごせる様に俺は息を潜めて心の中で願った。


 「……」


 少女も息を潜めてイモムシの行方を見ている。


 結局、イモムシは俺達に気付かないまま通り過ぎてどこかに行ってしまった。


 「ふぅ……なんとか撒いたか」


 安堵したのか深いため息を吐いた少女は再び俺に目線を向けた。


 「よく静かにしていたな偉いぞ」


 表情は変わらないが声色が先程より柔らかく感じる。


 「とりあえず帰るか。安心しろお前は私が育ててやる」


 俺の表情が不安そうに見えたのか少女は俺に向かって言ってくれた。


 そして少女は再び俺を抱いて自分の家に向かって走り始めた。

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