ようこそ【機関】へ 「危険組織」
「・・・・・う~ん」
「陽炎!!大丈夫か!?」
微かに頷く。アーロンの声は何とか聞き取れてるようだ。
同時に、近くの壁の一部が吹き飛ぶ。
「・・・ックソ!陽炎俺のそばから離れるなよ!」
「先輩?・・・わたしは・・・?」
「喋るな!ふさがった所だ。開いちまうぞ。」
「う~む・・・。むーっ・・。」
少し周りを見渡す。目はとろけていて、頭が働いてるか怪しいものだ。
「なんだか~。危なそうですねぇ。」
寝転んでる状態から陽炎は素早くアーロンの首元に手を回し、全体重を乗っけてきた。
「うぉ!?」
「先輩ぃこわぁい~。」
「やめ!!やめろ馬鹿!おとなしく寝とけって!あぶねぇよ!」
「やです。このまま一緒にいます。」
「駄々こねんな!!ダメか!?まだ意識が戻ってないな!?分かる!そういう目つきしてる!」
「ぎゅーー。先輩あったかぁい。」
「あぁもう分かったそうしてろ。下手に動かれるよりましだわ!!」
身を隠す壁の反対からアリアが言う。
「ちょっと!いちゃいちゃするなら終わってからにしてよ!!」
「したくってやってねぇよ!!みりゃ分かんだろ!!そんな事よりまだ武器は転送されないのか!?」
アリアはアーロンの言葉を聞くと罰の悪そうな顔をして
「・・・・えぇっとね・・・・」
「あぁ?どした。」
「隠れたとき。スマホ落としちゃった。駄目だね古い機械持ってくると。すーぐこわれちゃう」
「・・・このバカ野郎ォ!!」
「先輩バカバカいっちゃ駄目ですよぉ。バカなっちゃいますよぉ。」
「お前は寝てろ!!ちくしょう!終わってから起こせばよかったよ!」
アリアは、まいったなぁといった感じで呑気にしゃがみ込んで腕を組んで策を練る。
アーロンは、陽炎を抱きながらどうしようもない状況を嘆き頭を抱えている。
陽炎は、未だ意識がはっきりしない中アーロンの腕の中でどこか幸せそうだ。
そんな中、3人の隠れてる壁に次々と銃痕がまだら模様についていく。
暫くしたのち、銃音が止み辺りに静寂が訪れた。
アーロンが適当なハンドサインを送り声を出さないようにアリアと交信をとる。
(大丈夫だろうか?)
(わかんないよ。あんたが顔出したら?)
(はぁ?馬鹿言うな。何で俺が。オメェがが確かめろ。)
(こういう時はマンファースト。さっさと出て確かめなよ。)
(あぁ!?)
(はぁん!?)
「・・・・何やってんの。」
ティムが三人の隠れてる壁の間から呆れて見ていた。
手にはボーリング玉程の物体を引きずっている。
「あらぁ?ティムたん。お早う御座いま~す。」
陽炎にティムたんと呼ばれて気恥ずかしいのだろう、帽子で顔を隠してしまう。
「その持ってるものは何ですか~?真っ赤で綺麗な生暖かい首………………あぁ生首ですか。あぁ?生首ィィイ!!?」
飛び上がり、声が裏返り、ひっくり返る。同時に、アーロンのみぞおちに蹴りが入る。
「ブッフェッ…!!!」
アーロンそっちのけで陽炎は質問する。
「うわぁスッゴい。本当に生首だぁ。ティムさんがやったの?」
少々誇らしげにティムが頷く。観察すると、杖の先端は血と肉片が引っ付いてた。
「杖で殴った?魔法は使わなかったんです?」
「……使いながら殴った。」
「おぉう……。まさに魔法(物理)ですなぁ。」
アリアが前で手を合わせながら壁の影から出てくる。
「ごめんねティム一人でやらせちゃって。さて……どれどれ。」
生首をティムから受けとり360度回して観察する。
「只の人間……だね。【i'm】【魔の道】といった輩じゃない…。武器はこの世界に合わせてるから「秩序」は重んじる。」
答えを急ぐかのようにティムが答えた。
「……こいつらは【複製教会】」
思ったようにいかなかったのを悔しがるように、アリアはティムに言った。
「あぁ!もう。折角カッコいい感じで推理してたのに。」
二人をよそ眼に、周囲の状況を観察し二人の会話を聞いていた陽炎が割って入ってくる。
「あの~いいですか?この状況から察するに、その教会?は【機関】の敵ですか?」
アリアが生首を放り出し、2本の腕を腰に当て、4本で指差し。
「ビビビビッビンゴ~。陽炎ちゃん。流石ぁ。」
生首を再び拾い上げ、ぞんざいに扱いながらそのまま得意気に続ける。
「私たちは、こいつらを単純に【危険組織】と呼んでる。低脅威度の者から、目的の為なら次元丸々一つをいとも簡単に滅ぼすものまで沢山。」
「次元一個滅ぼす!?はぇ~桁が違いすぎて逆に怖くないですね。」
「ふふん。でしょ?ほぼ毎日の頻度で次元一個消し飛んでるからねぇ。まぁ?星の数ほどいる【危険団体】に比べたら一日一つ程度で済んでるだけ頑張ってる方よ【機関】は。」
「へぇ~。わたしってトンデモない世界に足を踏み入れようとしてるんですね。ついさっきまで大学生だったのに・・・。」
「アハハッ。確かにそうだね。ちなみにさっきのは推測だけど【複製教会】と思われる組織だね。全生物、宇宙も含め全てを複製(クローン)にすれば真の平和と平等が訪れると思い込んでる連中。突然変異・個性を良しとしないから、陽炎ちゃんみたいな【特異人】の存在を抹消するの。」
それを聞いて陽炎は複雑な気持ちになった。
「・・・・・もしも・・・ですよ?もしも【機関】の迎えが遅れてたら・・・。」
「いやそれは大丈夫だよ。並大抵の事じゃ【特異人】を特定することは出来ない。ちょっと私たちが目立ってたから【教会】たまたま目をつけたんだと思う。むしろ私たちのせいだね。ごめん。油断しすぎた。」
アリアとティムが一緒に頭を下げる。
「いやいや。いいですって。もう過ぎた事ですし。それより早く【機関】に行きましょ?」
「そうだね。でも、怖いな。「移動術」はスキが多いし・・・。さっきの戦闘で【教会】に加え他の【危険組織】も嗅ぎつけてくるかも。」
ここでようやく、調子が戻ってきたアーロンが口を開いた。
しかし、その表情は浮かばれない。
「・・・緊急用の「スペース」は持ってないのか?」
アリアは罰が悪そうに
「・・・・あれは・・・・そうだねぇ・・・使うかぁ・・。よし皆集まって。」
アリアのそばに3人集まる。
「ようし・・・。袋の準備は良い?」
いつの間にか顔が青くなってるティムは頷き、アーロンはうなる。陽炎はいまだ良くわかってない様子だ。
「えっとね。陽炎ちゃん。これは緊急次元移動手段。即席移動空間発生装置「スペース」。一方通行・一回こっきり。化学と魔術の英知の結晶を詰め込んだ傑作。スイッチをいれて数秒後、空間に穴が開くの。出来た次元ホールに体を突っ込めば移動が出来る。注意事項として・・・」
ここまで早口でアリアがまくしたてる。
しびれを切らした陽炎がアリアの手にある、小型のカプセルのような装置を奪い取り。
「えいっ!」
パンッ。と弾ける音と同時に、空間にひびが入った。亀裂が広がり、一刺し指程度の奇妙な穴が開く。
「わっわっ!!急いで飛び込めぇ!!!」
アリアの合図で全員がその穴に突進した。
穴に向かって体が勢いよく収束していく。ジェットコースターの比じゃない。いきなりロケットに乗せられ発射されたかのような衝撃が全員に襲い掛かる。
瞬きも許さぬ一瞬で、4人は今いた次元から姿をくらませた。
【収束点】
その部屋は辺り一面全てが真っ白だ。一見何もない様に見える。が、壁・地面の先にはあらゆる技術・魔術が施され次元が歪められている機関でも特殊な場所の一つだ。機関本部【D・フロント】に移動術を仕掛けると例外なくこの地点に移動する。
収束点の一室の空間に亀裂が入った。4人は亀裂から飛び出し大きく何回転もして転がっていった。
一番最初に、陽炎が元気よく立ち上がった。
「ふぅ・・。今の凄かったですねぇ。そいで何ですかここ!?SF映画のセットみたい!」
言い終わったところで扉が開け放たれ、次々とあらゆる姿形をした人が突入してきた。
腕が四本だったり、爬虫類のような見た目だったり、触手が沢山あったり、普通の人間だったり、浮いてたり、半透明だったり。
「動くな!!貴様らは転送の許可を受けていない!妙な動きを見せれば滅処分する!!」
慌てて両手をあげる。
「うわわわっ。待ってください。私はここに居るエージェントさんと一緒に来ました。怪しいもんじゃないです!ねっ!皆さん!」
「おえぇぇぇぇえ・・・。ウッ・・。オエッ。」
「・・・・ウプッ・・・ウゥ・袋・・袋は?」
「あぁ・・・この感覚久々だ・・・・。ウッ。かげろう・・は、やっぱ平気なんだな・・・。うぅぅ・・。」
「・・・ダメだこりゃ。」
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