366.褒めて育てているつもりだが足りぬか
ずしんずしん、大地を揺らしながら歩くレイキは、頭の上にヴィネを乗せていた。地図を見て唸るヴィネが示す方向へ首を向け、再び歩き出す。何度も行ったり来たりを繰り返すレイキは、まるで道に迷ったように見えた。
彼女が歩いた後は綺麗に踏み慣らされている。ずりずりと甲羅で潰したため、木々や草が平らになった。足で踏んだ場所は小さなくぼみが出来る。指示通りに森を切り拓いたレイキは、雌だった。卵を抱いていたのだから当然かもしれない。
上空から開拓区域を確かめたアルシエルの合図があり、ヴィネは「ご苦労さん」と声をかけてレイキを労った。満足そうに身を揺らし、レイキは大切な卵を口に入れて帰っていく。
「もう卵盗まれるなよ」
ヴィネの声に一度足を止めるが、レイキはそのまま歩いていった。彼女の住処は大きな湖がある未開の地らしい。魔獣以外は踏み込まない、鉱石や珍しい植物もない森の一角だった。遠ざかる後ろ姿に手を振り、ヴィネはひとつ伸びをした。
「助かった」
通訳も疲れるのだろうと声をかけると、びっくりした顔で「俺は役に立ちました?」と聞く。頷いて褒めてやれば、嬉しそうに頬を赤く染めた。
「どうした」
「俺は戦闘もそんな強くないし、頭もすごくいいわけじゃないから、役に立ったのが嬉しい」
「己の立場を理解し、能力を把握した上で動けば、当然の結果だ。お前は頑張っている」
泣きだしたヴィネに眉を寄せると、双子が駆け寄ってきた。
「わかる」
「普段褒めない人の言葉って沁みるよね」
まるでオレが滅多に褒めないような言い方だが。不機嫌さを顔に出すと、双子は肩をすくめた。
「褒めてるつもりでも足りない」
「そう、もっと褒めて」
少し考えて頷こうとしたところに、リリアーナが体当たりしてきた。腰に腕を回して抱きつき、双子に舌を見せる。
「べぇ〜だ。サタン様は優しいし褒めてくれるもん」
「それはリリーだからじゃん」
アナトが反論し、バアルに引きずられていった。子供達のケンカに口を挟むと騒ぎが大きくなる。放置したオレの後ろに降りたアルシエルが、ぼそっと呟いた。
「羨ましいですぞ、我が君」
子供のケンカに巻き込まれたいのか? 変な男だ。だが強面でも子供好きは何人も知っている。この男もそうかも知れない。他人の嗜好に口出しは好ましくないため、何も返さなかった。
開拓に魔法を使って大地をひっくり返す予定だったが、レイキが巨体で道を通してくれた。王都となるバシレイアまで一直線だ。幅も問題なく、これならば立派な街道が作れるだろう。
人間は街道の両脇に店を構え、家を作り、集落を形成する。この道沿いを人間に与えればよいか。
指示を出すようアガレスやマルファスに命じればいい。森を開拓するキララウスの民の負担も、かなり軽減できた。
今回の魔族の襲撃は人間への被害も少なく、最終的にレイキの活躍でプラスとなった。満足できる状況に頷く。
「乗って」
若い雌の発言としては些か慎しみに欠けるが、ドラゴン姿のリリアーナに乗って城へと進路を取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます