250.自己評価が低くとも能力は高い
転移した川岸は、穏やかな流れに満ちていた。ゆるゆると流れる川は遅く見える。じっと水の中を観察したククルは「やっぱり」と口角を引き上げた。
主君であり養い親でもあるサタンが、こんな簡単なことに気づかない筈はない。この水面の穏やかさは表面だけ、下の流れは速く冷たかった。水面に落ちた者が浮かび上がることはないだろう。
翼ある蛇であるククルは、拾われるまで滝壺に住んでいた。滝の裏はゆっくり休める洞窟があり、滝壺は深さがあるため巨大魚が育つ。餌が豊富で見つかりにくい環境が最適だったのだ。あの滝壺と同じで、川の下は冷たく凍りつく温度だろう。
水面付近はやや濁った青色だ。しかし下を覗き込めば、深い緑色をしていた。温度が違うため、色も違って見える。
「リスティ、だっけ? 何が出来るの」
ついて来た以上は戦力として数える。無理をさせる気はないが、どの程度の実力があるか知らなければ危険だった。彼女自身を危険に晒すのはもちろん、戦力を過剰に見積もって頼り過ぎれば自分も危うい。
「この辺りまでの魔法陣と、吸血鬼が出来ることなら平気」
持っていた魔法陣の本を開いて示す。知識を中の上くらいだと見積もり、彼女の魔力量を推し量る。思ったより少ない気がした。
「いま、何かしてる?」
「ネズミを115匹、猫3匹、蝙蝠を205匹、眷属1匹を使役してる」
「お……多いわね」
眷属や使役に魔力を割いているらしい。ならば様々な情報を常に処理し続けるということだ。彼女の魔力量が少ないのではなく、常に大半を消費するため足りないと納得した。
クリスティーヌに自覚はないが、一度捕まえた情報源を彼女は離さない。足りない場合に不要な使役を解除して次のネズミを探すのではなく、魔力が足りる限りひたすら追加する方式だった。そのため各国にネズミや蝙蝠が放たれ、目が回る量の情報を脳は処理し続ける。この状態を長く続けたことで、魔力量や情報処理能力は自然と鍛えられた。
祖父ウラノスのスパルタ教育の成果だ。黒髪の吸血鬼少女を眺め、ククルは彼女の使い道を考え始めた。損失を出さないのは最低条件、その上で結果を出してこそ、魔王の側近を名乗る資格があるのだ。
「計算は得意?」
「うん」
親友であるリリアーナが苦手とする計算や魔法陣の組み立ては、クリスティーヌが担当して来た。苦手意識もないし、計算は魔法陣の作成にも役立つため、積極的に取り組んだ分野だ。グリフォンやドラゴンに匹敵する攻撃力を持たない彼女は、役立つ存在になろうと努力した。にっこり笑ったククルが赤い髪をばさりとかき上げる。
「魔法陣の設置も計算も任せる。私は魔力を供給して、出て来た船を沈めるから」
戦闘に関する部分をすべて担当すると言い切り、代わりに計算を任せた。大量の船を転送するなら、向こうの送り手の出した計算を素早く返さなければならない。任された仕事に目を輝かせ、クリスティーヌは「頑張る」と頷いた。
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