218.魂が砕けるまでの忠誠を捧ぐ
魔族の主従は二種類ある。いわゆる忠誠を誓い命をかけて仕えるか、腰掛けと呼ばれる一時凌ぎの付き合いか。真名を捧げてしまえば、この男はオレに命を握られるも同じ。
この世界の前魔王やその遺児に義理立てするなら、オレの提案はなんらかの方法ではぐらかされるだろう。娘リリアーナをこの場に立ち合わせないのは、せめてもの温情だった。
「我が主に忠誠を。アルシエルにございます。魂が砕けるまでお仕えします」
跪いたまま告げられた名が、目の前の男の真名か確認するのは簡単だ。魔力を込めて名を呼べばいい。
「アルシエルか」
リリアーナやクリスティーヌは主従の契約を交わした。そのため彼女らはオレに真名以外名乗れない。しかし黒竜王は違う。確認作業を省くことはできなかった。
込めた魔力に反発があれば、それは真名ではない。簡単に思えるが、ある程度主従間で力の差がはっきりしていなければ、誤魔化すことも可能だった。首を垂れて待つ男に近づき、その肩に手を触れる。
「忠誠、確かに受けた。以後励むが良い」
「ありがたき幸せにございます」
強力な手駒が入った。この世界の掌握まで、カウントダウンできる程度まで、時短が可能になるだろう。
魔族の中には複数の命を持つ種族もいるため、誓いの文言に「命尽きるまで」は使われない。どの種族も共通して1つしか所有しないものが「魂」だった。黒竜王は次の主人を持つ気はないと明言した。ならば覚悟に応じるのが、主君としての器だ。
「来い」
踵を返して背を向ける。誓いを立てたとしても寝返り、裏切る者もいた。油断させて背から襲う者を切り捨てたこともある。だが躊躇うことはない。
黒竜王アルシエルが裏切らないと信じるわけではなく、彼が本気で首を掻きに来るなら返り討ちにするだけ。実力の差を思い知らせればいい。魔族とはそういう種族の集まりだった。
ウラノスが棲む地下牢へ続く階段を降りると、少年は待っていた。銀髪を揺らすウラノスが勧めるまま、用意された椅子に腰掛ける。
「アルシエルだったか。ずいぶんと大きく育ったものよ。もう成竜なのではないか?」
「12951歳だ。久しいな、爺」
やはり顔見知りだったか。名を告げた当初、ウラノスは「封じられた」と口にした。これほどの実力者を封じるなら、それは魔王かそれに匹敵する実力者だ。封じられた事実に怒り狂わない目覚めは、ウラノスにとって不本意な封印でなかったことを意味した。
何も言わずに腕を組む。かび臭さが鼻をつく地下牢だが、不思議と居心地は悪くなかった。
「この子が卵の頃から知っておる。魔王陛下は何をお尋ねになりたいのか」
ウラノスは大仰な言い方で答えを待つ。少年の姿で、古臭い言葉遣いを好む吸血鬼に本題を切り出した。
「仮死状態から、我が魔力で復活させる方法を知るのであろう?」
「ほほう、奇妙なことに興味をお持ちのようですな。理由をお伺いしてもよろしいか」
ウラノスが素直に答えないことは想定内だった。
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