17.命を惜む者から屠ってやろう
※残酷表現があります。
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魔族と魔物の間にある溝を知らぬ愚かな人間にいちいち怒ったりしない。だが、吐いた唾は飲めぬと知るべきだ。視線を向けた先で、国王の右腕を切り落とした。
「ぐぁああああ!」
「陛下っ!!」
慌てて駆け寄る騎士が、止血用の布を腕があった肩に巻く。治癒が効かぬよう、傷口を焼いて塞いだので、さぞ痛かっただろう。この方法は自ら体験したため、その痛みは想像がつく。ちなみに腕を元通りに治癒するため、焼いた表面を削ぎ落す痛みも耐えた。懐かしい記憶だ。
「どうした、すぐに片付けるのであろう? 掛かってくるが良い。命を
敵を煽る笑みを浮かべ、オレは
「お待ちください、サタン様。お願いです、父をお許しください」
ロゼマリアの声に、眉をひそめる。
「理由を言え」
「たとえ悪人でも、私の父親なのです」
親だから殺せない、人間らしい感情だ。好ましいかどうかは別だが、分かりやすい理由だった。しかしそう感じたのはオレだけで、リリアーナは不思議そうに国王とオレ、足元のロゼマリアを順番に見比べる。
「サタン様、親だと、殺さないの?」
心底不思議そうな声に、抱き上げたままの少女を見つめる。金の瞳は純粋に疑問を浮かべていて、伏せたロゼマリアに首をかしげた。
「親が死ぬの、悪いこと? どうして? もう必要ない」
「お前の考え方は魔族のものだ。人間は不要な親であっても助けようとする」
「そう」
リリアーナの価値観は魔族ならば理解できる。子にとって親は自立するまでの存在だ。ある程度大きくなれば親も子から離れるし、子も親を追わない。ほとんどの種族に共通する習性のため、人間の在り様は異常な執着に見えるのだろう。
主の命令で親子兄弟であっても殺し合いをする魔族にとって、最上の存在は親ではなく恋人ですらない。主君、ただ一人だった。
痛みに呻く国王の姿に怯えた貴族は口を噤み、先ほどまでの勢いはなかった。後ろの兵士や騎士にも恐怖心が滲む。魔術師に至っては陰で震えていた。
「今は忙しい、始末は後だ」
まとめて牢へ放り込むことに決め、転送用の魔法陣を放り投げた。馬と人を分離し、持っている武器も取り上げるため、多少複雑な魔法陣をくみ上げる。裸は見苦しいため、服と靴は残した。武器はまとめて別室に積み上げる。さらに追加の指示を刻んだ魔法陣が発動した。
逃げようとした魔術師を含め、全員を地下牢へ送る。直後に地下から数人の悲鳴が上がった。透視した先で、壁にめり込んだ数人の貴族が暴れている。
「な、何が……父は?」
「お前の
他の貴族が多少壁を貫いたり、転送先の牢に突き刺さっただけの話。大した問題ではない。それよりも優先すべきは、手に入れた道具の手入れだった。
「ロゼマリア」
「はい……」
「民の管理はお前に任せる。食べさせ、使える状態に整えろ」
怯えた緑の瞳に困惑の色が浮かぶ。侍女が慌てて駆け寄り、ロゼマリアの代わりに頭を下げた。
「かしこまりました」
これで問題はひとつ片付いた。残る問題は……この世界の魔王の処分、ぼろぼろの王城の修理か。リリアーナの教育係を見つける必要もあるな。眉をひそめたオレの頭上に不躾な輩が現れるまで、今思えば平和なことを考えていた。
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