第420話 バルジ加工 後編

前回までのあらすじ

バルジ加工について詳しく書くネット小説の先駆になりたい。

ということでサブタイトルも変更してます。



 バルジ加工、それは膨らまし加工とでも言えばよいだろうか。

 ネットで検索すれば画像は出てくるだろうけど、あえて説明するのであれば、パイプの先端を亀の頭の形状のようにするとなるのかな。

 えっちくない言い方なら、水道の蛇口の先端です。

 それでええやんけ。

 亀の頭がえっちいかどうかは置いとこう。


 なお、中世ヨーロッパ風異世界に転生して、そこで蛇口作ったときにバルジ加工してあるのは、再現しようとすると大変です。

 ハイドロ加工機やプレス加工機なんかはあっても圧力が足りないだろうから、やるなら鋳造になるけど、ってまあ蛇口は鋳造で作るから、バルジ加工する必要なんてないんだけど。

 余談だけど最近はシャワーヘッドが多いか。


 なお、鉄は錆びるのでそのままだと水道に不向き。

 断水後に水道水が赤くなるのは、水道管のなかの水が無くなったことで錆が発生するからです。

 なので、少なくとも蛇口には表面処理をしましょうね。


 じゃあハイドロ加工機でどの程度の圧力が有ったらバルジ加工ができるのかといえば、アルミパイプだと材質にもよりますが、拳銃弾発射時くらいの圧力が欲しいですね。

 鉄ならもっとでしょうか。

 なので、ハイドロ加工ではなくて、プレスにしましょう。

 金型も安いし。

 って、コンプライアンスの関係で詳しく説明できないのが歯痒いです。


「バルジ加工してからの圧入でもいいんだけど、鉄パイプだとシーム部の伸びが他と違うから、精度は出ないぞ」


 オッティから技術的な指摘がはいった。

 シーム部は溶接されているので、他の部分よりも硬くなる。

 当然伸びも変わってくるので、同じような形状にはならない。

 その差はインチサイズの鉄パイプだと0.2ミリくらいかな、金型の作りにもよるけど。

 圧入には致命的ですね。

 もっと外径の大きいサイズになると、真円度なんて酷くなります。

 設計者はその辺をわかっているので、公差はかなり大きくとってくれますが、パイプの設計経験が無いと真円度0.1なんていう図面が出てくるんですよね。

 どうしてその公差を見落として見積もりしちゃうかな。

 その金額で実現するのは不可能だよ。

 まあ、当然お金を貰ってない工程を追加しなくちゃならないですよね。

 不良が出ても「その金額で出来ると思う方にも問題がある」と言ってやりたい。

 まあ、まずは営業を吊るすべきなんだろうけど。

 自社の設計もか……


「じゃあどうすれば。金属接着剤でも使うか?ドアの取手に使ってたら、取手が取れて大変なことになったのを忘れたのか?」


 ええ、あの時はそりゃもう大変でしたよ。

 市場不具合ですからね。

 ドアが開かなくなるし。

 でも、ドアの取手に接着を採用する設計者が悪いと思います。


 それはオッティも覚えていたようだ。


「いや、それを採用して、あの時のような失敗はもう繰り返したくは無い。やるのは転造によるネジの加工だ」


 転造という言葉がひっかかる。


「転造?それだと厚みが足りないんじゃないか」


 俺の疑問にオッティが答える。


「なにもメートルネジを加工するわけじゃない。イメージしているのはボトル缶のキャップに施されているようなネジだ。あれだって液体が漏れる事はないだろう。転造加工なら任せておけ」


「いや、その転造加工で何度対策書を書いたと思っているんだよ」


 流石につっこまずにはいられなかった。

 あんたの条件が甘くて、形状不良が何度も出たじゃないか。


「過去の不良にこだわっていたら前進はないぞ」


「っていうか、あんたたちどんだけ不良つくってたのよ」


 グレイスは呆れ顔だ。

 だが、不良なんてほぼ毎日出るし、流出だって毎月あるからな。

 そりゃまあ、売り上げ規模にもよるんだろうけど。


「不良は友達、こわくないよ」


 なんていう青空だか大空だかの台詞がついつい口から出たが、二人から白い目で見られた。


「なんにしてもだ、バルジ加工と圧入は却下だな。それにバルジ加工ならエアコンを作った時に配管にしてあるぞ。配管でバルジ加工が無いなんて有り得ないからな」


「それもそうか」


 ホースだけあっても、バルジ加工が無いと抜けちゃうからなあ。

 ホースクランプだって締め付けてもストッパーが無ければ抜ける。

 だから、モンスターの腸がゴムの代わりになるのを発見したところで、ゴムホースのようなものを作ることはできても、水撒きに使おうとしたらバルジ加工をしなければならないわけで、そのへんの技術もなしにゴムホースが普及したなんていうのはナンセンスなわけですよ。

 冷却用の配管も同じで中に冷媒が流れているので、ホースが抜けてしまうのはNG。

 当然バルジ加工が施されている。


「で、話は終わったの?工法なんてどうでもよくて、魔王軍と戦える武器が早く欲しいのよ」


 俺達の会話が理解できずに、疲れた感じのグレイス。

 そんな彼女に俺は言う。


「工法がどうでもいいなんてことは無いぞ。これが量産になった時の出来高に影響するんだから。ましてや一回使えばそれっきりの鉄パイプ爆弾だ。何度も使える剣や槍とは違うんだから」


「それならバルジ加工なんて提案しないで欲しいわね。オッティの言う方が簡単なんでしょ。言っている事が矛盾しているじゃない」


「ぐぬ……」


 痛いところをつかれた。

 品質管理部だと工法には中々口を出せないが、保証方法は自由に決められることが多い。

 測定機にするのか、検査治具にするのか。

 三次元測定機は接触式か、非接触式かなどは決定権がある。

 会社によって違うかもしれないけど。

 まあ、そんなわけで俺は新規の仕事のたびに、結構測定機を購入していたのだ。

 なので特殊なノギス、キャリパーを扱っていた。

 既存の奴でもいけたけど、そこは客先との打ち合わせ議事録に購入と書いちゃう。

 つかったことのない道具を使うのは楽しいぞ。


「こいつは昔から仕事に自分の趣味を持ち込むからな」


「そんな感じよね」


 オッティに背中から撃たれた。

 品管なんて楽しいことないんだから、それくらい許してほしい。


「一応考えてはいるんだ。圧入にすれば無人のラインに出来る。ネジにしたら誰かが組み立てしなきゃならないだろ。爆薬と起爆剤の組み立なんて危険なんだから無人化すべきだよ」


 反論してみたが、オッティにあえなく否定される。


「ネジでも無人化出来るからな。お前はジュースのボトリングを人の手でやっていると思っているのか?」


「ぬう……」


 そんな俺達にグレイスがため息をつきながら


「それにしても、あんたたちの話を聞いていたら、過激派にならなくて良かったと思うわ。それだけの機械があったらテロし放題じゃない」


 と言った。


「まあシンパみたいなのはいるけど、工場全体を動かせるわけじゃないし、やり過ぎれば警察の目にもつくだろうね。ピクリン酸やニトログリセリン、塩素酸ナトリウムなんかを大量に仕入れたらばれるよ。黙って使うことも出来ないしね」


「それって組織的になるならばれないってことよね」


「まあそうなるかな」


「爆弾は駄目よ。せめて火炎瓶にしなさい。無関係な人を巻き込むわけにはいかないわ。殲滅戦はあくまでも警察組織とだけにするべきよ」


「いや、殲滅戦を戦うつもりもないです。ここは軽井沢でもなければ三里塚でもないので」


 グレイスは俺達をなんだと思っているんだ。

 別にテロによる人民革命なんて目指してないからな。

 それに


「それに、世界的に脱炭素の流れがあるのに、化石燃料を使った火炎瓶はないよ」


「いやいや、アルトが火炎瓶って言ったんでしょ!」


「そうなんだけど、世界的な流れに沿って環境に優しい武器がいいかなって。地球に優しい、敵に厳しい。それに、火炎瓶に使うガソリンと灯油の調達に問題が」


「そんなのオッティにやらせるわよ」


 グレイスの言葉に当のオッティは首を横にふる。


「いやー、俺プラントの仕事なんて一部しかやったことないから、原油からどうやってガソリンや灯油にするのか知らんよ」


 水素プラントの部品とかやったけど、設備がどんなものか知らんからね。

 ネットスーパー的なスキルで、ガソリンと灯油相当の炭化水素は入手できるけどさ。


「ああ、やっぱり重機関銃にしようかしら」


 グレイスがため息をついた


「やっぱり?」


「なんでその工業力があるのに銃を作らないのよってなるわよね」


 俺とオッティはお互いに見合って頷いた。


「「そんなのは他の作品に任せておけばいいんだよ!」」



 という経緯で鉄パイプ爆弾を大量生産して、魔王軍との戦いに投入したんだけど、その後犯罪組織に流れた一部の爆弾が犯罪に使用されて、王国の法律が厳しくなりました。



※作者の独り言

どこかの異世界転生でゴムホース発明してましたが、バルジ加工もしないと使えないよね。

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