第419話 バルジ加工 前編

※内容を思い出しやすいようにタイトルを変えました。


 俺は今グレイスによびだされて、グレイスの領主館に来ている。

 そこにいるのはオッティとグレイスなので、別にロマンスがあるという訳ではない。

 ロマンスって便利な言葉ですね。

 大人なのでオブラートに包むことを覚えました。


「魔王軍との戦いは激化する一方。もっと武器が必要よ」


 グレイスは魔王軍との戦いに危機感を覚えて、俺達に更なる武器の製作をさせるつもりだった。


「重機関銃なんかどうだろうか?」


 オッティは重機関銃を勧めた。

 もう異世界転生の定番ともいえる銃だが、やはりその火力は圧倒的な信頼がある。


「それじゃ駄目よ。オリジナリティが無いわ。数多の作品に埋もれちゃう」


 グレイスの心配はよくわからない。

 が、ニュアンスは伝わってきた。


「それじゃあ、鉄パイプ爆弾と火炎瓶はどうかな?爆薬は結構出てくる作品が多いけど、鉄パイプ爆弾になるとそんなに無いと思うよ」


 俺の言葉にグレイスは怒りの表情を見せる。


「プロレタリア文学にしたいわけじゃないわ!この作品は階級闘争っぽくもあるけど、ブルジョワジーじゃなくて、ティア1、車両メーカー、国土交通省との戦いでしょ」


「国土交通省とは戦ってないと思います」


 そこは否定させてもらおう。

 遵法精神の塊ですよ。


 俺とグレイスのやり取りを横目に、オッティが考え込んでいたあとで口を開いた。


「それいいかもしれないな」


「でしょ」


 俺に味方ができた。

 鉄パイプ爆弾は鉄パイプと火薬があれば出来る。

 ただし、鉄パイプの外周に溝を追加工する必要がある。

 これは破片を均等に四散させるためだ。

 尚、缶スプレーなんかでも代用できる。

 耐圧性能が低いので、殺傷力は低くなるけど。

 因みに1MPaの圧力がかかった部品が手にぶつかったことがあるけど、とても痛かった。

 自動車のコンプレッサーなんかはもっと強力だ。

 目に当たれば失明するだろうし、先端が尖っていれば出血もあるだろう。

 パイプ爆弾ともなれば、威力はその比ではない。

 なお、耐圧性能は厚みに比例するので、鉄パイプ爆弾に使用する鉄パイプも厚みは均等である必要がある。

 そして、溝の深さも均等にする、これ重要。

 どこでそんな知識を使うのかはわからんけど。


「火薬はどうするのよ」


 グレイスのもっともな質問に俺は自信満々に答える。


「ネットスーパー的なスキルでダイナマイトを調達できる。こいつをほぐして火薬を取り出せば十分だ。昔はそれが出来なくて、トンネル工事用のダイナマイトを盗みにいったもんだよ」


「それって70年ころの話よね。ネットで見たことがあるわ。だけど、ここでは赤軍をつくるつもりなんてないの」


「いやいや、それは60年代の話で、70年代には自作になっているよ。塩素酸ナトリウムとか使った爆薬があったね。過激派のアジトで爆薬作っていたのが数件摘発されていたはずだ。それに、黒色火薬だけでなく、ニトログリセリンやTNT火薬の作り方だってネット小説には詳しく書いてあるよ。昔みたいに警察の職質、手荷物検査でテロの教本所持が見つかるなんてリスクを負わなくてもいいんだ」


「だから、ここは千葉でもなければ群馬でもないの。階級的怒りをぶつけるような話でもないわ。再発防止対策書やFMEAは総括的ではあるけど、次の闘争のためではなく、次の生産のためにするものだから。工場でかぶるヘルメットだって、セクトを表すものじゃないでしょ」


「でも、派遣労働者は現代の蟹工船」


「駄目よ、この作品では赤は不良の意味、思想の色じゃないの」


 俺とグレイスの言い合いに、オッティは呆れ顔だ。


「そろそろ話を進めようか」


 と止めてくれた。

 そして、鉄パイプ爆弾については、今すぐにでも作れるということがわかったので、この会議の後試作することになった。

 鉄パイプの耐圧試験って、めちゃくちゃ高圧がかかるから、怖くてやりたくないんだよね。

 ただ、破裂すると一瞬で圧が抜けるから、爆発するようなもんじゃないんだけど。

 試験装置の覆いはアクリルで作るけど、透明じゃなくてもいいならポリエチレンの容器でも十分だ。

 ただし、エアバッグの動作時の爆風で飛んできた破片による死亡事故があったので、完全密封出来ない状態はおすすめはしないけど。

 当然エアバッグ動作時の爆発よりも、鉄パイプが破裂する圧力は遥かに高いのだから。

 それでも、鉄パイプの外周に溝を彫ったら、耐圧性能がどれくらい落ちるのかは見てみたい。

 鉄パイプ爆弾を作りたいというよりも、傷による性能低下がどんなもんかを知りたいのだ。

 外観傷ってどこまで行ったら駄目なのかを知るのは、品管として必要なことだからね。

 なお、厚みに対して10%の深さの傷であっても、そこが破裂することは無かった。

 外側の傷だからかもしれないが、見た目でそこそこ深いなと思える傷でもそんなものなのだ。

 だから、外観部品じゃない部品は、シート面でもなければ傷なんてついててもいいじゃない。


「異世界転生で鉄パイプの耐圧試験やるなんて無いけどな」


 オッティのツッコミに俺はアメリカ映画の登場人物のように肩をすくめる。


「耐圧試験をやったことのある作者なんて中々いないからね。そんなシーンの描写をするのは大変なんだよ。ま、品管や実験部門でも、耐圧試験をやったことないのに、試験結果の数値を書いちゃうやつよりはマシさ」


 俺の皮肉にグレイスの顔が引きつった。


「たちの悪いファンタジーね」


「この物語はフィクションです!」


 ※この物語はフィクションですが、現実世界でこんなことやってくれる会社がニュースにバンバン登場してくるので、作品をもっと過激にするべきじゃないかと思ってみたり。


「で、鉄パイプの種類はどうするんだ?」


 オッティの質問され、すこしの時間考える。


「手に持って投げるならインチパイプだよね。厚みは0.8、1.0、1.2の3種類で、爆散する状態を見て決めようか。長さは250ミリにすればダイナマイトと起爆剤を入れるのに丁度いいと思う。まあ、長めに作っておいて、切断しながら長さを決めればいいよね」


 インチパイプというのは、パイプの外側が1インチ25.4ミリのパイプである。

 丸パイプなら外径だし、角パイプなら一辺の長さになる。

 手で持つには丁度いいのだ。

 なお、過激派のダイナマイト闘争で使用していたのはもう少し太いはずだ。

 蓋に缶詰を使っていたからだ。

 しかし、俺たちには工作機械がある。

 溝を旋盤で彫る以外にも、プロの仕事を見せてやろうじゃないか。


「オッティ、パイプの蓋は底部はプレス品のロウ付けにして、導火線側にはバルジ加工を施して、蓋を圧入しようか」


「工業製品っぽいな」


「そうだ。過激派は蓋に缶詰を使っていた。ペンチでかしめて接着剤を使っていたが、そんなDIY感溢れる製造方法だと工程保証度は低くなる」


「工程保証度気にする過激派もいないけどな」


 総括でFMEAやって、日々の活動で工程保証度等の確認をしながらPDCAする活動家とか、どんどん進化しそうで怖いよね。

 本来組織としてそうあるべきなんだろうけど。


 さて、俺の提案にオッティは難色を示した。


「先端バルジ加工よりも、ねじを切ってやった方が組み立てが簡単じゃないか?どうしてバルジ加工なんだ」


「他の作品がやらないから」


 俺の回答にオッティはがっくりと肩を落とした。



※作者の独り言

長くなるから一旦きる。

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