第415話 ダイヤの刺青 4
フォックスの死体は収納魔法で回収して、連れ込み宿の床は魔法で綺麗にしておく。
「アルトが殺人犯なら絶対に未解決事件にしかならないわね」
俺の手際の良さを見て、シルビアがそう評価した。
そんなことするつもりは無いぞ。
今のところはな。
さて、宿の掃除が終わったところで、俺とシルビアは外に出た。
すると意外な人物が待ち構えていた。
「待っていましたわ」
「オーリス……」
オーリスがそこに仁王立ちしていたのである。
羅漢仁王拳の使い手の幽波紋を纏って。
「デビル・リバース?」
そう見えた。
次の瞬間
「風殺金鋼拳!!」
「あべしっ!」
オーリスの風殺金鋼拳で吹っ飛ばされた。
流石5000年の歴史を持つ暗殺拳だ、ダメージがひと味違う。
吹っ飛ばされてまた宿の中まで転がっていく。
「何か言う事あるかしら?」
どうみても話し合いの雰囲気ではないが、オーリスはそう訊いてきた。
「仕事で……」
「男ってみんなそういう言い訳をしますわね」
全男性代表の意見とされてしまったが、今回については本当に仕事だ。
やましい事は……
フォックスにネクロマンシーを使ったことくらいか。
だが、それはオーリスに対しては後ろめたくない。
シルビアと一緒に連れ込み宿から出ては来たが、不倫していたわけではないのだ。
しかし、オーリスに話し合いは通じなさそうだな。
ならばと俺は拳を構えた。
「オーリスがデビルのリバースならば、我が拳はインドの闘神マ○ンドラのリバースであることを教えてやろう」
「それを言うならインドラのリバースでしょ。自動車メーカーになってるわよ」
シルビアのツッコミを無視してオーリスに向き合う。
無視されたシルビアはムッとしたようで、
「あんなに激しく動いた後なのに、疲れを感じさせないアルト素敵」
とオーリスの燃えさかる心にガソリンを撒いた。
「シルビア!」
俺は余計なことをしたシルビアを睨むが、彼女は視線をそらして口笛を吹いている。
その姿は花札の10月のようだった。
「シカトしないで!!」
抗議の言葉を投げつけてやったが、うん、正しい言葉の使い方だな。
シルビアにかまっていては無駄に時間を浪費するので、俺はそれを諦めて、オーリスを説得するためにアイテムボックスからフォックスの死体を取り出した。
オーリスは驚いて目を丸くする。
「うわ!なんて凶悪な人相だ!!こいつはきっととんでもねぇ大悪党だ!!生きているといかん。息の根をとめておこう」
なんて跳刀地背拳で殺されるようなセリフを言う。
だが、フォックスは本当に死んでいるので大丈夫だ。
「なんて言うとでも思いましたの?それにしても、この顔は胎教に悪いですわ」
「実はこいつらに護衛を依頼した商人が監禁されているんだ。俺とシルビアはこいつを尋問して、その場所を突き止めた。急がないと商人の命が危ないんだ」
「じゃあ連れ込み宿にいたのは……」
「こいつを尋問するためだったんだ」
「でも、殺すのはやりすぎですわ」
オーリスは俺たちが連れ込み宿にいた事情はわかってもらえたが、今度はフォックスを拷問で殺したと勘違いしている。
「いや、奴らは口を割ろうとしたら死ぬ呪いをかけられているんだ」
「拷問する前に死んだわよ」
シルビアも今度は本当のことを言う。
最初からそうしてくれという心の叫びは、喉から出るのをなんとか抑え込んだ。
話がややこしくなるからね。
「で、俺達はこれから街の外の森に救出に行くから、オーリスはうちの冒険者ギルドに今夜オプティという商人の家に賊が侵入すると伝えて欲しいんだ」
「わかりましたわ。帰ってきたら全ての経緯を話してもらいますけど」
「かまわないよ」
という事で、母親の写真が入ったペンダントを見せなくてもオーリスを説得することが出来た。
最悪北斗七死星点を使う事も想定したが、それをするともうなにがなんだかだったろうな。
俺とシルビアは森へ向かい、オーリスは冒険者ギルドへと向かった。
オーリスが見えなくなってからシルビアが
「オーリスは相変わらずからかい甲斐があるわね」
と悪びれる様子もなく言ったので、少しイラっとした。
が、今はオプティの救出が先決だと自分に言い聞かせ、急いで森に向かった。
こんな事でもなければ文句の一言も言っていただろうし、場合によっては喧嘩していただろうな。
はぁ、なんて性格が悪いんだ。
なんて考えて森の中を進んでいたら、連中が隠れている場所までやってきた。
シルビアには一旦待っていてもらい俺が偵察に出る。
「今夜お前の財産を奪ったらお前を解放してやる。金の隠し場所が嘘だったり、白状した金額よりも少なかったら殺す」
縛られた男と、彼に槍を突き付けている体格のいい男。
縛られているのがオプティだろうな。
槍を持っているのはおそらくレグナムだろう。
冒険者ギルドの調査員の話では、レグナムは槍使いだとの事だったからな。
そして、オプティは今夜までは殺されないというのもわかった。
どうせ、財産を手に入れた後は殺すのだろう。
解放したら自分達の悪事をばらされるからな。
そうなってしまったら冒険者ギルドから追われることになる。
少なくとも国内には居られないだろう。
なので、口封じをするのは間違いないはずだ。
俺は更に周囲を確認する。
少し開けた場所に野営していた痕跡が見られる。
ここにずっと潜伏していたのだろうな。
そして、周囲を見張っている連中は全部で10人だ。
他のメンバーはプティの家に盗みに入るので、ステラの街にいるのだろう。
そこまでわかったところで一旦シルビアのところに帰る。
「連中は全部で11人。リーダーのレグナム以外は周囲を警戒しているね。オプティはまだ生きていたよ」
俺の報告を聞くと、シルビアは少しだけ、ほんの刹那考えて
「街まで連れていくのが面倒だし、全員殺しちゃってもいいかしら?」
物騒な結論に達した。
俺は首を横に振る。
「そんなことをしたら、今までの悪事を白状させられなくなるじゃないか」
「アルトがネクロマンシーを使えばいいでしょ。どのみち連中は喋ったら死ぬ呪いにかかっているんだし」
それもそうか。
でも、生きて罪を償わせたいんだよなあ。
結局死罪になりそうではあるが。
「人を裁くのは俺達の仕事じゃないよ。捕まえて衛兵に突き出そう」
罪を憎んで人を憎まず、不良を憎んで作業者も憎むような事はしない。
しないよ。
多分、しないと思う。
まあ憎んじゃう事も多々あるんだけど。
あれ?
俺の思考が前世に飛んでいるのを、シルビアによって引き戻された。
「まあいいわ。なるべく殺さないようにするわよ」
「じゃあ、最初はスリープの魔法で眠らせるから、その後突入しようか」
その提案にシルビアは不機嫌になった。
「はあ?それじゃあ相手と戦えないじゃない。寝ている相手を縛るなんて欲求不満になるわ。今度は本当にアルトと連れ込み宿に行くくらいの欲求不満よ」
「それは困る。じゃあ、普通に突入しようか。俺がオプティを助けるから、シルビアは他の連中をお願い」
「それでいいわ」
作戦が決まったので、早速行動にうつる。
俺は気配を消してオプティとレグナムに近づいた。
もう少しでレグナムに攻撃出来るという時に、シルビアの方で戦闘が始まる。
味方の叫び声にレグナムが反応した。
「衛兵か?」
俺は心の中で舌打ちした。
シルビア、ちょっと早いよ。
レグナムを蹴っ飛ばして、オプティとの間に割り込む。
これでオプティの安全は確保出来た。
「お前らの悪事はばれている。観念して大人しく捕まれ」
「うるせぇ。銀等級の俺様の槍捌きが躱せるか?」
レグナムは槍を振り回す。
俺はそれを紙一重、いや皮膚一枚で躱す。
頬が少しだけ切れて血が出た。
調子に乗ったレグナムは槍で突いてきた。
が、今度はそれを左手で掴んで受け止める。
「スローすぎてあくびがでるぜ」
「な、なにィ!?」
驚きの表情を浮かべるレグナム。
俺は左手一本で槍を持つレグナムを持ち上げたので、奴は更に驚いた。
「落ちてきたところへの膝蹴りは任せて」
いつの間にか、周囲の敵を倒したシルビアが俺のところにやってきた。
最後の仕上げを取られるとは……
シルビアの膝蹴りをくらったレグナムは無事に鼻の骨が折れて気絶した。
その後オプティを連れてサザンクロス、じゃなかったステラに戻って衛兵にレグナムたちの拘束場所を伝えた。
オプティと一緒に商業ギルドのシャレードのところに顔を出す。
なにせオプティの家は賊がやってくるので、今夜は別のところに泊まってもらう必要がある。
シャレードにはその手配をやってもらうつもりだ。
商業ギルドの応接室で待つこと数分、ドアが開いてシャレードが入ってきた。
「オプティの身柄は確保できましたよ」
「そうか、世話になったな」
シャレードが俺たちに頭を下げる。
「いや、冒険者が契約違反をしたのだから、こちらの落ち度ですよ」
「そうよ、だから報酬もいらないわ。それに、違約金としてオプティには依頼料金の倍返しのはずよ」
俺とシルビアはシャレードに頭を上げるようにお願いした。
そして、簡単な報告だけして、商業ギルドをあとにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます