第355話 受け入れ検査をしよう

ジェネリック医薬品の材料間違いが問題となっていますが、もし受け入れ側も検査をしていれば、最悪市場流出は防げたんじゃないかなって思っています。

実際には経費の問題もあって、毎ロット受け入れ検査を出来るのかっていうのはありますが、ここまで大きな問題になってしまうと、やらざるを得ないのではないでしょうか。

自動車部品も基本は受け入れ検査はします。

ただ、受け入れ検査をしなくてよいとするために、検査成績書の提出と定期的な工程監査などで品質の維持管理をすることもありますね。

IATF?

言っていることは正しいけど、品質管理してない安い企業に負けるので、どうしたらいいのかわかりません。

安さを求める消費者が悪いって言った精肉加工会社の社長がいましたが、それもまた事実ではありますね。

安全を削ってコストダウンした商品と、安全だけど高価な商品を選択できるようにしたらいいんじゃないかと思います。

自分の命に値段を自分でつけるなら、みんな文句はないでしょ。

それでは本編いってみましょう。



「新しく加入したメンバーが使えない?」


 午後の退屈な時間、コーヒー後の昼寝をして脳をリフレッシュしようとしていたら、カイエンが相談しに来た。

 俺の脳細胞の休み時間が無くなったが、そもそも今は仕事中だなと諦めて話を聞いてみると、知人から紹介された冒険者をパーティーに参加させたら使えなかったのだという。


「こちらとしても、お互いの命の危険があるから要求するレベルは事前に伝えておいたんだけどなあ」


 と言って、ため息をつくカイエン。


「どんなのが来たのか教えてくれないかな?」


「俺たちはみんな青銅等級だろ。紹介されたのは鉄等級の冒険者だったんだ。だけど、パーティーの運が悪くて昇級出来てないって事で、実力はあるからって言われたんだよ」


「確かにそういう冒険者もいるだろうな」


 カイエンの言うように、実力はあるのだがパーティーに恵まれずに、昇級が出来ずに足踏みしている冒険者もいる。

 そんな冒険者がパーティーに見切りをつけて、他のパーティーに移籍するなんて話は時々聞くな。

 だからといって、その話を真に受けてみたら外れだったというのは、今回のカイエン隊以外でもある話だ。

 さてどうしたものか。

 工場であれば受け入れ検査だな。

 受け入れ検査は購入品が要求品質を満たしているのかを確認する検査だ。

 製造した会社が品質を保証するのは当たり前なのだが、その当たり前が当たり前でないのが製造業だ。

 とある大手は車両メーカーへの流出不良のうち、その殆どが購入品だったりするとかいう噂を聞いた。

 まあ、そんな数値が外部に漏れるわけもないので、これはあくまでも噂だけど。

 協力メーカーへの定期的な指導だけでは効果が出ず、結局自社での受け入れ検査を実施することで、流出不良を防止することとなったのだ。

 その費用をどこが負担することになったのかは気になるところですね。

 まさかとは思いますが、いきなり受け入れ検査をすることになったので、その費用を負担しろとか請求書を送ってきたりしませんよね?

 営業もそんな仕事断れよ。

 一部の品質が悪い会社のあおりをくって、なんで他の会社にも請求書を送ってくるんだよ。

 なんの合意もないぞ。

 っていう話があったとか無かったとか。

 そんなことをしているから、付き合ってくれる協力メーカーが無くなるんですよね。

 っていう夢を見ました。

 あれ、噂だったかな?

 どっちでもいいですね、フィクションですから。


 話が脱線したな。

 今回のカイエンの場合も、相手の冒険者の実力を確認するための受け入れ検査を実施すれば、冒険に出てからこんなはずじゃなかったっていうのは防げたはずだ。


「受け入れ検査をしてみたらどうかな」


 俺はカイエンに提案してみた。


「受け入れ検査?」


「そう、加入するにあたって、実力が十分にあるかどうかテストすればよかったんじゃないかな。紹介者の話だけ聞いてもそれが真実かどうかはわからないから」


 そうだ、検査成績書を信じてみたらひどい目にあったなんてことが数え切れないほどある。

 最終的には自分で確認したものしか信じられないぞ。


「確かにアルトの言う通りだな。言われたことを信じて自分で確認しなかったことで、今回の事態を招いたわけだから。でも、受け入れ検査ってどうやってやるんだ?」


「それはシルビアにでも相談するんだな」


「それじゃ誰も加入しなくなっちゃうよ……」


 困った顔をするカイエン。

 シルビアは新人の教育係だし、昇級試験の試験官もしているから、それなりに他人の評価は出来るんだけど、普段の行動からどうしても誤解されちゃうよね。


「シルビアはああ見えて冒険者の評価は的確なんだけどな」


「そうなのか?力任せにぶっ飛ばしているようにしか思えないんだけど」


「誰が力任せにぶっ飛ばしているのかしら?」


 カイエンの肩をガシッと掴んだのはシルビアだった。

 丁度通りがかってカイエンの発言を聞いたようだ。

 俺も気づくのが遅れて、カイエンに注意することが出来なかった。


「もう少しお互いが理解できるように話し合うべきかしらね」


 カイエンに微笑むシルビアは、どうみても猛禽類の目をしていた。

 これから行われるのは話し合いじゃないと思う。

 カイエンもそれは理解しているようで、脂汗が滝のように流れている。

 泣きそうな顔してこちらを見るが、こうなっては助け舟は出せないな。

 俺は静かに首を横に振った。


 引きずられていくカイエンの悲鳴を聞きながら、俺はコーヒーを飲んだ。

 今日の事は忘れよう。




※作者の独り言

本編の前に書きましたが、小林化工の材料間違いについては日医工も受け入れ検査をしていれば、最悪市場流出は防げたのではないでしょうか。

検査成績書が嘘なんて、自分の経験だと結構ありますからね。

不良が流出しないのは運がいいだけって、調べれば結構あると思いますよ。

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