第307話 PDCAのD

 こんにちは、出撃前にサラダを一緒に食べる約束をして、死亡フラグを立てたアルトです。

 多分、迷宮の中でヤクト・オーガかサイコ・オーガに握りつぶされて死ぬんだと思います。

 そういえば、オーリスは赤い彗星仕様の奴が出てましたね。

 おっと、待ち合わせをしていたカイエン隊がやって来たので、そろそろ行かないとね。


 ここにいるのは俺とカイエン、ナイトロ、カンチル、それと見知らぬ男にシルビアだ。

 何故シルビアが居るのかというと、「面白そうだから」との事である。

 いるよね、社内監査に首突っ込んでくる暇人。

 批判だけする立場だから、とても楽なんだよな。

 まあ、俺だけで対処出来ないピンチがあったらと考えると、ついてくるのも悪くは無いか。

 そして、見知らぬ男。


「はじめまして。パルサー・オイル・パンです」


 そう挨拶をして、握手を求めてきた。

 ここで、「利き腕を相手に預けるほど、俺は自信家じゃない」とか言って拒否するのもありだったが、名前からしてそっちじゃないだろうな。

 他にやるべきことがある。


「にゅう」


「にゅう?」


 俺の返事を理解出来ないとは、パルサーは偽物か?

 いや、本物って何だよ。

 因みに、パルサーは種族は人間である。

 草原の人ではなかった。

 真面目な話に戻ると、これで指摘事項がひとつ減ったな。

 斥候無しでの地下20階層は無理だと思っていたからだ。

 ポカヨケ無しで、EOPまで乗りきろうとするくらいには無謀だぞ。

 無謀だぞ……


「よく斥候をパーティーにいれてきたな」


 カイエンを誉めると、彼は照れ臭そうにする。


「俺たちなりに、足りないものを話し合ったんだよ。こちらから先制攻撃出来ないまでも、不意打ちを食らわなければ、消耗も最低限におさえられるかなってなったんだ。このまま正式加入になるかはわからないけどね」


 カイエン隊がキチンと考えるように成長したのが少し嬉しかった。

 永遠の初心者とか言ってごめんね。


「本当は癒し手も欲しかったんだけど、そこはポーションで補うことにしたよ」


 確かに、回復に難有りか。

 望めば、パーティーは際限無く大きくなるが。

 生産設備も各種のポカヨケ、インターロックを追加すると、とてもではないが予定していた床面積と予算に収まりきらなくなる。

 どこかで折り合いをつける事も必要だよね。

 品管としてそれを言っていいのかってのはあるけど。

 やはりある程度は人の教育で乗り切っていかないとね。

 ましてや、カイエン達は冒険者なのだから。


 そうして挨拶を終えると、始業点検を実施して忘れ物が無いことを確認して、いよいよ迷宮に向かう事になった。

 多分、冒険の始業点検とか他では聞かないだろうな。

 忘れ物の他に、刃物の状況確認も勿論あるよ。

 なんなら最近じゃあ体調の確認だってある。

 いや、トルクドライバーの数が足りない会社だと、トルクアナライザーで規定範囲内のトルクを出せないとその日は作業出来ないってのもあったな。

 ネジの種類が多すぎて、全部のトルクドライバーを用意できないのよね。

 そもそも大量生産でもないし。

 因みに、自動車業界ではありません。

 っていう始業点検もあるよ。


 そんなこんなで迷宮に入る。

 カイエン達は地下10階層まではなんの問題もなく進んだ。

 もうそんな実力はあるのだ。

 ちょっと抜けているだけで……


「前方50メートルのところにギラ・オーガ3体」


 斥候のパルサーは良い仕事をする。

 今もこうして索敵の結果を伝えてくれる。

 不意打ちを食らうことは無く、モンスターよりも先にこちらが気づくのだ。


 どうでもいいことだが、ギラ・オーガの隊長にシュナイダーって名前を付けた。

 本当にどうでもいい。


 そして、危なげなく地下15階層に到着。

 カイエン隊は何度かの戦闘で消耗していた。

 しかし、まだ戻るほどではないと判断し、迷宮の奥へと進んでいく。

 この辺の慎重さを弊社経営陣と営業にもお裾分けしたい。

 なにせ、自社のリソース考えずに、新規の仕事を取りまくる。

 企業として、新規の仕事を取るのは当然だが、キャパを超えてまではどうなのだろうか?

 海外支援工場の国内工場も、当然ながら新規立ち上げを抱えており、海外の尻拭いをする余裕はないぞ。

 渡航出来ないから、人手を取られることは無くて、何とか回っている状態なんだからな。

 二正面作戦どころじゃなく、多方面へと展開するの何なの?

 立ち上げ時期も被っているし。

 「どうせ、あそこのメーカーはスケジュール遅れるから」じゃねーよ!

 多分遅れると思うけど。

 あれ、前世の話だよね?


 つい、前世の記憶がフラッシュバックしてしまった。

 カイエン隊の話に戻ろう。

 斥候として前方を行くパルサーの動きが止まった。

 そして、彼からハンドサインで止まるように指示が出る。

 また何かを見つけたようだ。

 今度のモンスターはなんだろうか?

 俺も索敵をしてみる。


「ダークエルフと人間の戦士5人か」


 ダークエルフと戦士は戦っているのだが、それはお互いにではなくモンスターとだ。

 共闘関係にあるので、仲間だと思う。

 どこかで聞いた構成だな。

 どこだったろうか。


 見ればパルサーも敵か味方か、判断しかねているようだ。

 スルーさせてくれればよいが。

 パルサーの判断で距離を取って迂回して16階層を目指そうということになった。

 だが、向こうの戦闘が終了した時に、こちらに気づかれてしまった。

 相手はこちらに向かって距離を詰めてくる。

 パルサーもそれに気づいた。


「気づかれた!」


 彼が叫んだ。


「シルビア!」


「あたしを呼んだ?」


 俺はカイエン隊の実力では勝てないと思い、シルビアに声をかけた。

 思い出したのだ。

 冒険者ギルドにオッティからのコントロールプランを届けようとした冒険者が襲われた事を。

 そして、その犯人たちがダークエルフと5人の戦士だった事を。

 ん?


 彼が叫んだ。

 あたしを呼んだ?

 5人の戦士 ダイナ……


「燃えろ火の玉、ファイヤーボール!!!」


 ダークエルフの声が聞こえ、魔法によって生み出された火球が迫ってくる。

 魔法の詠唱がそれとか、偶然の一致だよね?

 異世界だし。


 こうして戦闘が始まってしまった。

 PDCAでもDで予期しなかった事って起こるよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る