第287話 同業者が撤退した事業に食いつく営業ってさ

消えるメーカーの後始末って大変ですよね。

自動車のライト業界みたいに寡占化されているところは、一社抜けたらどうなっちゃうんでしょうかね?

最近話題になっている、カーエアコンなんかもどうなるのか今後に注目ですね。

企業再生なら、不採算部門は真っ先に切られそうなもんですが、実際には赤字事業なんて買い手を見つけるのが大変ですからね。

とある店長が強姦事件を起こした外食企業も、利益の出ている事業を売却して、再建資金を作ったくらいですし。

それでは本編いってみましょう。




 本日も疲れた顔のシャレードがやってきた。

 今日も眉間のしわが深い。

 そのせいだろうか、いつもよりも余計に年齢を感じるな。


「すまん、相談があるんだが。というか引き抜きだな」


「随分と正直に言いますよね」


 引き抜きとは穏やかじゃないな。

 俺を商業ギルドにヘッドハンティングして、品質管理でもやらせようというのか?

 冒険者ギルドの品質管理部長は、車両メーカーからの呼び出しが無くて快適なので、しばらくこのままがいいのだけどな。


「商品のクレーム対応でもさせるつもりですか?」


 俺がそう訊くと、シャレードは首を横に振った。


「そうじゃない。この前の酷い馬車メーカーが倒産したのだが、今動いている馬車の修理に支障が出ていてな。どこで作らせたかがわからないから、自分達で違う工房に部品を発注するしかないんだが、寸法が全くわからないんだ。なにせ破損した部品から元の寸法なんて測定できんからな」


 シャレードはそういうと、大きなため息をついた。


「なるほど、それで俺に元の寸法を推測させたいというわけですね」


 そういうと、シャレードは無言で首肯した。

 かなりお疲れの様子だな。

 不具合の対策品を夜中までかかって作ったあとに、運送業者に手渡したときの品質管理みたいだ。

 朝日を見ながら飲むコーヒーが美味しいんだよね。

 そのままその日も仕事になるので、思わず労基に駆け込みたくなるけど。


 それにしても、ここでもこんなことになるとはな。

 ここでもというのは現世のことであり、思い出しているのは前世の事だ。

 倒産なり事業撤退なりで、同業者が部品の生産を止めることがある。

 そうなると、車両メーカーは部品調達が出来なくなって困るので、同業者で生産が出来そうなところを探すのである。

 生産を止める部品メーカーも当然事業の売却先を探すのだが、そこに車両メーカーが入ってくることもあるな。

 で、利益が出ないから撤退するのが殆どなのに、営業が売り上げが伸びるとか言って飛びついちゃう。

 問題は機械の生産能力もあるのだが、自社での開発を行っていないことにある。

 引き継いだ製品で設計不良が見つかった時に、どうしてそんな設計になっているのかというノウハウがないので、どう対処してよいのかがわからないことがあるのだ。

 そんな時に設計は逃げる。

 俺が設計でも逃げるから、文句を言いづらい。

 気持ちはよくわかるぞ。

 他人の図面に責任を持てと言われても困るからな。

 それで、倒産ではなく事業撤退だった場合なんかは、元々の会社に問い合わせをしてみるのだが、けんもほろろに対応される。

 曰く「当時の設計がいない」、「弊社にはもう関係がない」など。

 まあ、弊社も事業を売却した立場ならそうするわな。

 相手が倒産しているときは、それこそどうにもならない。

 比較的近い住所の会社なら、そこの社員を採用するっていうのもありなんだろうけど。

 そんなわけで、商権移管なんてろくなもんじゃない。

 この話は断ったほうがよさそうだな。


「この話は断ろうかと思うんだが……」


「オーリスには既に前金を渡したからな」


 俺が断ろうとしたら、シャレードはいやらしい笑みを浮かべやがった。

 まさかオーリスが俺を売っていたとは!


 結局諦めて、壊れた部品を測定したり、まだ壊れていない馬車を測定したりして、それを図面化してシャレードに渡した。

 部品の手配はシャレードが行うのだ。

 正直加工先まで見つけろと言われていたらまいっていたな。

 全ての部品を測定して図面化したところでシャレードから解放された。

 全部で一か月かかったぞ。


「これに懲りてもう安いものに飛びつくのはやめてくださいね」


 最後にシャレードに嫌味のひとつも言ってやったのだが、


「その時はまた頼むよ」


 どうも反省していなそうな返事が返ってきた。



※作者の独り言

同業者が撤退する仕事は地雷。


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