第285話 汚物は消毒

「カイエンが大火傷?」 


 ランディとシエナが俺のところに相談に来たのだが、どうも冒険の最中にカイエンを火傷させてしまったらしいのだ。

 一命は取り留めたが、しばらくは安静にしなければならないのだという。

 大事故だな。


「当時の状況を教えてもらえる?」


 流石に再現トライは危なくて出来ない。

 なのでそうお願いすると、シエナが状況を説明し始めた。

 配置は下記の通りだ。


  敵 敵


 ラ   カ

   シ


  ナ


 このような布陣で、ランディ、カイエン、シエナ、ナイトロとなっていたそうだ。

 敵は火に弱いエントというモンスターなので、シエナの魔法【フレイム】で攻撃していた。

 フレイムっていうのは火炎放射器みたいに、一定時間炎が出続ける魔法である。

 そこに新手の敵が出現した。



  敵 敵


 ラ   カ

   シ   敵


  ナ


 ナイトロが「右から敵が来る!」って叫んだのだが、シエナはフレイムを使ったまま右に振り向いたのだ。

 体ごと……

 カイエンは射線上にいることになり、火炎放射器で焼かれたというわけだ。

 前世でもあったな。

 聞いた話だけど。

 事故が起きたのは小さな設備屋。

 設備の骨組みをスプレーガンで塗装している隣でバーナーを使っていた時の事だ。

 バーナーを使っている作業者に電話が入り、事務員が呼びに来たのだが、バーナーを持ったまま振り向いたのである。

 もちろん、隣の塗装作業はシンナーも使っていたので、あっという間に炎に包まれた。

 すぐに消火して、作業者も軽傷で済んだけど、一歩間違えれば大事故になっていた。

 普通はそういう時はパニックになるのだが、手慣れた様子で消火作業をしたと聞いたので、たぶん普段からよく起きてて、慣れていたのではないかと思います。


「またか――」


 ポツリと口から出てしまったのを二人に聞かれてしまった。


「また?」


「あ、いや、作業中の話しかけからトラブルが起きることってよくあるからね」


 と言って誤魔化した。

 しかし、これは対策は難しいな。

 1サイクル終わってから振り向くとなると、緊急を要するモンスターの襲撃に対象出来ない。

 じゃあ、フレイムの魔法を止めればいいかというと、また呪文の詠唱をするところから始めることになり、元々正面にいた敵を倒すのに時間がかかる。

 それに、反撃を受けることになるだろう。


 工場に置き換えるなら、どうしても不良の出る工法をどうするかってことかな。

 なぜなぜ分析で出る結論は、その工法を使わないとかなるんだよね。

 じゃあ、なんで最初にそんなもん設定したんだよって話ですけど。


「フレイムじゃなくて、ファイヤーボールじゃ駄目だったの?」


「それでもよかったかも」


 それなら何もフレイムでなくても良かったわけか。

 なんでフレイム使ったんだよって事になるな。

 汚物は消毒したかったのかな?


「何でフレイムを使ったのか、良かったら教えてくれないかな?」


「見映えかな?後で吟遊詩人に吟われるようになったときに、カッコいいじゃない」


 シエナはペロッと舌を出した。

 カイエンが大火傷してなければ、テヘペロでもいいけど、事故ってるから不謹慎だぞ。

 ちょっと眉をしかめたのがわかったのか、彼女はごめんなさいと頭を下げた。


 対策はまとまり、今後はフレイムは冒険では使わない事となった。

 そして、カイエンのお見舞いを兼ねて、報告に行くのだという。

 俺は気になることがあって、ランディを呼び止めた。

 そして、彼に小声で耳打ちする。


「夫婦喧嘩では、フレイム打たれるかも知れないから、気を付けろよ」


 それを聞いて、ランディは無言で首肯した。




※作者の独り言

火を使う作業は怖いですよね。

そして、事故を起こす会社ほど、作業着が化繊。

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