第283話 コピー&ペーストでこの業界を生きていく
昔は対策書にしても、作業標準書にしても、コントロールプランにしても、みんな手書きでしたね。
今では作るのはパソコンになったので、類似の製品の書類をコピーすることで、かなりの時間短縮が可能となりました。
しかし、そのせいで中身をろくに精査しないでコピーするので、あり得ない工程が書類に記載されていたりとかありますよね。
それでは本編いってみましょう。
今日はオッティと一緒に魔王討伐のコントロールプランを見直している。
いつもならグレイス領での作業となるのだが、今回は作業の進捗確認も兼ねて、王都でエメロードが用意してくれた施設での作業だ。
宿屋くらいの大きさの建物の中で、俺とオッティが見直し作業をし、食事や身の回りをサポートしてくれるスタッフが常駐している。
ただ、単なるメイドのようなものではなく、俺たちの監視をしている気配は感じるな。
監視カメラをつけたあの会社みたいだ。
お母さんが涙ながらに法廷で訴えたりしましたが、娘の心には響かなかったですね。
現代版かぐや姫?
さて、コントロールプランの話に戻ろうか。
前世でもあったのだが、コントロールプランに誤記はつきものだ。
とくに条件欄での間違いは致命的である。
MPaとkg/m3を間違ったりすると本当に危ない。
セフィーロでそんなものがあるのかは知らないが、事前チェックで少しでも間違いを潰しておきたいのだ。
「おや?」
コントロールプランで気になる項目が目に止まった。
俺はオッティに訊ねる。
「なあ、オッティ。この伝説の剣を入手って工程は必要なのか?」
そう、伝説の剣を入手っていう工程があるのだ。
漠然としすぎているし、本当にそんなものがあるのかは謎だ。
なにせ、伝説の剣は条件表によると書いてあるし。
「それはな、先代の魔王を討伐した時に、勇者が伝説の剣を手に入れたという伝承が残っていたので、それをコントロールプランに織り込んだまでの事。本当にそんなものが有るのかは知らないぞ」
堂々と言うオッティに、思わず手もとにあったコーヒーカップをぶつけたい衝動に駆られた。
前世の焼き直しじゃないか。
「それって、10年前に量産が終了した製品の類似を受注したときに失敗したよな。当時はトリクレン洗浄だったけど、時間が経ってトリクレンの使用ができなくなったのに、昔のコントロールプランをコピペしてたら、監査の時に『トリクレン使うんですか?』って指摘されたろ。使うのも問題だけど使わないのも問題で、しばらく悩んだじゃないか!」
そう、確認しなかった俺も悪いのだが、時代が変わって使えなくなった有機溶剤がコントロールプランに記載されていたのだ。
これだから、緊急立ち上げって嫌ですよね。
しかし、オッティは俺をさらにイラつかせたいかのように、やれやれといった態度で返してくる。
「なんのために改訂があると思っているんだ。それに、伝説の剣は条件表によるってなっているだろ。条件表に普通のショートソードとか、実は伝説の剣は無いとか書けばいいじゃないか」
「それは流石に駄目だろ……」
いくら条件表で逃げたとはいえ、そんないい加減な条件表は駄目だ。
SE時代のプログラム条件表で「プログラムが動く」って書いてあったのを見た時並の脱力感だ。
どんなインプットに対して、どういう条件でアウトプットするか書くものなのに、プログラムが動くって当たり前だろ!
むしろ、動かないプログラムが有るのかと訊きたい。
流石に製造業の条件表はそこまで酷いのは無かったけど。
でも、夏冬で条件変わるから、条件表の数値から外れた設定はよくあるよね。
結局、伝説の剣については、今回の魔王マークⅡに通用するものがあるのか不明なため、工程から除外することになった。
伝説の武器を入手するのは、ファンタジーの王道なんだけどね。
※作者の独り言
コピペするのもいいけど、見直しは重要だよね。
その昔、過去に作成した金型を流用して製品を作ったのに、新規で金型を作成したって嘘をついたメーカーがあったとか。
金型の写真は前回のやつをコピペしたけど、画像を少し加工して誤魔化そうとしてました。
詐欺じゃねーか。
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