第281話 高級料亭の料理人がハンバーガーショップを始めるような

カネテックの枡形マグネットブロックが錆びてしまいました。

誰だよ、素手で触った奴は!

それでは本編いってみましょう。



 今日はブレイドが相談に来ている。

 なんでも、食堂の料理人が独立するので、相談にのって欲しいというのだ。

 それは俺に聞かれても困るのだが、同業者に聞くわけにもいかないしな。


「こいつが独立したいと言っているシグナムだ」


 ブレイドから紹介されたのはシグナムという若い男であった。

 何度か厨房で見たことがある。

 独立するにあたってなんの相談だろうか?


「よろしくお願いします」


 シグナムはそう言って、ペコリと頭を下げた。


「どんな相談があって、俺のところに?」


 そう訊ねると、彼は真剣な表情となった。


「実は冒険者ギルドの食堂の味付けでは、冒険者への受けはいいけど、それ以外の人達からの評価が低くなるのかと思いまして。一般客を相手に料理を作ることで、自分の実力が世間でどの程度通用するのかを確認したいのです」


「どういうこと?」


「冒険者は総じて味付けの濃い料理を望みます」


 シグナムの言うことは、確かにそのとおりだ。

 体を使う職業の冒険者は汗をかくせいなのか、濃い味付けの料理を好む。

 そういう需要に応えるのもよいが、他の人達にも料理を提供して、どう評価されるのかを確認したいのか。

 チャレンジ精神があっていいね。


「私は料理人です。美味しいものを作って大勢の人に喜んで貰いたいんです。一握りのの冒険者だけに食べて貰うのではつまらないと思うんです」


 シグナムの気持ちはわかった。

 どこかで聞いたような気もするし。

 さて、今からピクルスを贈る準備をしておこうか。


「それなので、多くの人が気軽に食べてくれるように、屋台でまずは始めたいと思い、屋台で料理するときの注意すべき点を教えていただきたいのです」


 シグナムはまっすぐに俺を見てくる。

 そういうことか。

 しかし、俺は屋台なんてたこ焼きもどきのものしか経験がない。

 繊細な味付けの料理を屋台で提供するときに、起こりそうな不具合の相談と言われてもな。

 金属加工の会社に、同じ製造業なんだからといって、電子部品の工程FMEAを依頼しても、多機能横断チームは素人ばかりだろ。

 そんなものは抜けが多くて駄目だ。


「今すぐには難しいなあ。知り合いを集めるから、少し待ってほしい」


 俺はここでの回答は控えた。

 しかし、このままなにもしないわけではない。

 他の料理人の意見を聞いて、それなりのものをシグナムに伝えようと思うのだ。

 そのために時間が欲しい。


「わかりました。私もすぐにここを退職するわけではありませんので、待たせていただきます」


 シグナムはそう言ってくれた。


 俺はシグナムの期待に応えるべく、ティーノ、メガーヌ、コロラド、ミゼットに屋台で料理するときの注意点を聞いて回った。

 ミゼットは子供たちに任せている屋台での、問題点の把握をお願いしたのだ。

 自分でやれよ?

 そうですね……


 そして、再びシグナムとの話し合いとなった。


「結論から言うと、誰も経験したことがないので、どうにも対策のたてようがない」


 そう伝えた。


「そんな。それじゃあどうすれば」


 泣きそうになるシグナム。

 これだけだと相談にのった意味がない。

 一呼吸おいて、シグナムに対策を話し始めた。


「リスクをとりすぎなければいいんだよ。冒険者ギルドの経営する屋台として、新しく商売を始めたらいい。ダメならまた食堂で料理をすればいいんだから」


 これならリスクはないな。

 試験販売のハンバーガーを返品されても問題ない。

 本当は返品じゃなくて、返金になるんだけど。

 でも、あそこのハンバーガーを美味しいとか言ってる連中が、味の事わかるわけ無いよね。

 どことは言いませんけど。

 っていうか、あそこでも優秀な料理人っていう設定なのに、一般人よりも味覚が劣るとかヤバイよね。

 物語的に仕方がないのかもしれないけど。


 話を戻そうか。

 そして、冒険者ギルドもシグナムがうまく行けば、新しいノウハウを手に入れることが出来る。

 メリットがない訳じゃない。

 いうなれば、社内ベンチャー的な奴だ。


「これでどうかな?もちろん、シグナムが屋台をやるなかで、色々と問題が出てくるとおもう。そのときに、一つ一つの事例について対策を考えていこう」


 俺の話を聞いて、シグナムは黙って考え込む。

 そして、しばらくの後に頷いてくれた。


「それでお願いします」


 こうして、シグナムは繊細な味の料理に挑戦することになった。

 結果についてはまた後程。



※作者の独り言

電気自動車の普及への警戒感から、内燃機関関連の部品メーカーは、新規の製品に挑戦しているとか聞きます。

ノウハウが無いところに挑戦するのは大変ですよね。

過去トラもわからないので、FMEAなんてろくなものが出来ない。

それどころかまともな製品が出来ない。

弊社も偉い人が「飲食業に進出するぞ!」とか言い出したら困りますね。

ラーメンなんてお湯を入れる位しかやったことがないので。

前に書いたかもしれませんが、設備屋に金型加工させたら面取りしちゃったりしてくれました。

金属加工の範囲ですらそれなのに、違う業種に出ていくのは成功する気がしない。

既存の企業を買収するのが手っ取り早いですよね。

そういえば、フェイスガードを車両メーカーが作ったり、製造メーカーを支援するって話がありましたが、とある車両メーカーの品質管理をフェイスガード製造メーカーに持ち込んだ話の続報が聞きたいですね。

異世界に持ち込むよりは何とかなるかとは思いますけど、自動車のティア1に要求するようなことを、いきなり持ち込まれたらどうなるのかな?

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