第270話 見間違い聞き違い防止

 今日は冷蔵庫を買いに来ている。

 勿論家電量販店など無い。

 グレイス領の賢者の学院で研究開発しているので、そいつを買いに来たのだ。


「右から電力、魔力、原子力で動く冷蔵庫だ」


 オッティ自ら商品を紹介してくれる。


「一番左のやつはやめておくよ」


 家庭内にガイガーカウンターを設置するのは勘弁だ。


「そうか、残念だな。シズマドライブが使えなくなっても稼働するのに」


 俺に拒否され、オッティは残念そうだ。


「大怪球が襲ってきたときに考えるよ」


 何に備えているんだか。

 しかし、電力だと面倒だな。

 ここならまだしも、ステラだと発電装置の問題がある。


「アルト、サイズが少し小さいかしら?」


 オーリスは容量をしきりに気にしている。

 屋敷に置くので、容量は兎に角大きい方がいい。

 ただ、それだと電力にしろ魔力にしろ消費量が大きくなるな。


「これなんかどうだ?」


 オッティは手回し発電機を持ってきた。


「おいおい、誰かが手回しだと休み無く発電し続けないとならないだろ」


 全く、何を考えているのやら。

 そう思ったが、それは俺の早とちりだった。


「ほら、この世界にはゴーレムがあるだろ。あれにずっと仕事をさせておけばいいんだよ」


 そういうことか。


「でも、手回しだと容量が足りなくないか?」


 ラジオとかスマホの充電じゃないんだから、手回しで発電して冷蔵庫は無理じゃないだろうか。

 しかし、それも解決済みだった。


「魔力とのハイブリットだから大丈夫。更に、今なら屋根の上の太陽光発電もプレゼントする」


 オッティの素敵な提案に、オーリスの返事を待たずに俺は購入を決定した。

 ついでにエアコンも工事費込みでお買い得だったので購入だ。

 さよなら異世界、こんにちは現代。

 快適な生活が見えてきた。


「アルト、この後ろに打刻してある数字はなにかしら?」


 オーリスが指す先には10桁の数字が打刻してあった。

 シリアルだろうな。


「オッティ、これはシリアルだよな?」


「シリアルだ」


 オッティがニヤリと笑うのが見えた。


「何か変なこと言ったか?」


「アイデーなんて年寄りみたいなことを言うからだよ。ITもアイテーか?」


「ああ、そうだよ」


 これは昔システムエンジニアをしていたときの癖なんだよな。

 メールがなく、電話だけでやり取りしていた時代の知恵で、Dはデー、Tはテーと発音していた。

 BとPとの聞き間違いを防止する工夫だな。


「聞き間違いを防止するための知恵だよ。図面だって大文字のIアイと小文字のLエルは使わないようにしているだろ。見間違いやすいから」


 まあ、大企業でも使っている図面あるけどね。


「そんな面倒なことはしないぞ」


 胸を張って言い切るオッティにイラッときた。

 だから見間違いからくる不具合がなくならないんだよ!

 異世界だからアルファベットがなくて良かったね。


 オーリスの買い物は割りとすごい金額になりました。



※作者の独り言

システムエンジニア時代にはOと0も見間違いやすいから、Oの上に―をつけるように言われましたね。

紙にプログラムを書いて、パンチテープにしたりしていた時代の知恵だとか。

必ずしも全部の企業で実施しているわけではありませんけどね。

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