第263話 端数

「大特価ポーション?」


 冒険者ギルドの売店の前を通ると、大特価と書かれたポーションが販売されていた。


「ジューク、これって?」


 その場にいたジュークに訊ねる。

 ジュークは呆れた顔で俺に訳を教えてくれる。


「ポーション製造部がやらかしたんだよ。いつ作ったかわからないポーションが沢山出てきて、捨てるくらいなら売っちまえってわけさ」


 賞味期限切れ直前のおつとめ品みたいなものか。

 こっちは製造日がわからないから、賞味期限が切れているかもしれないけど。

 この場合は消費期限かな。


「これは俺の出番かな?」


 その言葉を聞いたジュークがニヤニヤしている。

 何か変なことを言ったかな?


「人の顔を見てニヤニヤして、何かあるの?」


「ポーション製造部に行けばわかるさ」


 ジュークは笑っている理由を教えてはくれなかった。

 釈然としないまま、ポーション製造部へと来た。


「親方、売店で大特価のポーションを見たんだけど、いつ作ったかわからないポーションが沢山出てきたんだって。対策の相談にのろうか?」


 親方にそう言うと、やはり彼もニヤリと笑う。


「その必要はねえよ。おい、ミゼット!こっちに来い」


 親方はミゼットを呼んだ。

 ミゼットは手を止めるとこちらにやってくる。

 勿論途中離席はせずに、今やっている仕事を終わらせてからだ。

 この子、しっかりとルールを守っているなと感心したが、感心するのはまだ早かった。


「ミゼットがやった端数の管理対策をアルトに説明してやってくれ」


 親方に促され、ミゼットが俺に対策を説明し始める。


「ポーションはデイリー生産ですけど、売店からの注文をぴったり作って終わりにはならないの。余った材料を捨てるのは勿体ないから、それも瓶に詰めて、次の注文が来たら混ぜて出荷してたんだ」


 まずは工程の説明か。

 よくわかっているな。


「それでね、出来た端数の置場所が決まってないから、作業者が自分の好きなところに置いて保管していたから、翌日違う人が作業に入ると、昨日の端数がわからないんだ」


 真因の特定まで出来ている。

 端数を見逃したのは置いてある場所がわからなかったからだ。

 それは置場所が人によってまちまちだからだ。

 何故ならば、置場所が決まっていないから。


「だから、端数の置場所を作ったの。それは売店から来る生産指示トレーの受け取り場所の隣。受け取ったトレーに端数のポーションを乗せて、それを出荷検査の場所に持っていけば、端数のポーションを見逃すことは無くなるから」


「な、アルトの出番はねえだろ」


 親方がニヤニヤと俺の顔を見て笑う。

 一見完璧に聞こえるが、これではまだ不十分だ。

 品質管理の先輩として、ミゼットに足りない部分を教えてあげようか。

 そう思って口をひらきかけた時に、ミゼットが親方に鋭い視線を投げた。


「大体親方もいけないのよ。『端数を最初に持ってくるなんて当たり前だ』なんて決めつけているんだから。当たり前の事でも、ルールが無かったり、教えてなかったりしたら出来なくて当然なんだから!今までの親方の指導にも問題があったんだから、これからは丁寧に指導してよね!」


 あ、もうミゼットに教えることは無いか。

 俺は再び感心した。


「ミゼットがいれば、親方も必要ないんじゃないですか?」


 俺はニヤニヤと親方を見た。

 だが、ミゼットは俺にも指摘してくる。


「アルトもだよ。いつもここを見ていて、指摘できなかったんだから。工程巡回って言いながら、ただ散歩しているのと変わらないんだからね。ちゃんとミスに繋がりそうな所を見つけて指摘しないと」


「はい……」


 もうミゼットに品質管理部長の職を譲ろうかと思いました。



※作者の独り言

端数の管理ルールはあるけど守られないよね。

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