第249話 怪盗対品質管理3

その昔、全国の幼なじみを訪ねて好感度を上げるという、『暗黒太極拳』っていうギャルゲーがあったのですが、最近の擬人化とあわせて、全国の美少女になった自社工場を巡って好感度を上げるゲーム出てきそうだよなって思いました。

あんまり相手にしないと、工程保証度が下がって不良が増えちゃうような内容です。

多分売れないな。

それでは本編いってみましょう。



「邪神の復活……」


 その事実に、次の言葉が出てこなかった。

 世界はどうなってしまうのだ。

 言葉?世界?ナイスボート!

 すいません、真面目にやります。


「邪神の復活がよくわかったわね」


 シルビアがギルド長に訊ねた。

 言われてみればそうだよな。

 どうしてわかったんだろうか?


「神託があったんだよ。そして、これから説明するけど、大変な任務がある」


 ギルド長はそこで一呼吸おいた。

 職員全員に緊張が走る。


「神託を受けた神官は、自らの命と引き換えに邪神を封印する神器を作った。それが今ここにあるのだけど、これを国の軍隊が取りに来るまで守らなければならない」


 邪神との戦いの切り札を国が取りに来るまで守りきらないといけないのか。


「どれくらいの期間守らなければなりませんか?」


 二週間くらいかな?

 そう思って訊いたのだが、もっと長かった。


「神託を王都に伝えて、引き取りの手配をお願いする使者が出たのが本日だから、軍が到着するまでには一ヶ月くらいはかかるだろうね」


 こんなことなら王都の神殿に神託を出せばいいのに。

 もっと言えば、復活する前に神託をだしとけよな。

 神様とやら。


「なんで王都の神殿に神託を出さないのよ」


 シルビアが俺と同じことを考えていた。

 それを聞いたギルド長が説明をしてくれる。


「王都の神殿は先代の神官長が亡くなってから権力闘争ばかりでね。徳の高い神官がいないんだ。神託を伝えても、神器は作れなかっただろうね」


 宗教者が権力闘争とは、どこの世界も腐敗するのは一緒だな。

 リアルに神が干渉してくる世界でもあるのはビックリだが。


「あたし達で邪神を見つけて、その宝珠で封印すればいいでしょ。なにも、王都の軍を待つ必要はないわ」


 シルビアの言葉に、ギルド長は首を横に振った。


「宝珠を使うためには、誰かの命を消費しなければならない。誰がそれに志願するかわからないよね。王都で誰が任務に就くのか決めるしか無いよ」


「作るのにも命。使うのにも命。神様も欲張りよね」


 シルビアは神様にご立腹だ。

 確かに、俺の前世でも子供の命を差し出せとか言ってた神様もいたし、何処でも神様って奴は簡単に命を欲しがるな。


「じゃあ、ステラに駐屯している軍隊で運べばいいじゃない」


 今日のシルビアは鋭い。

 確かに王都から軍がやってくるのを待つ必要はないな。


「それが、ここ最近各地で盗賊団の動きが活発になってきてね。冒険者への依頼だけでは治安の維持が出来ないからって、軍も盗賊討伐に動いているんだ。封印の宝珠をこちらで守る事になったのも、向こうの手が足りないからだよ」


 ギルド長の説明を聞いて少しの不安がよぎる。

 詰将棋なら見事な手筋だな。

 復活の儀式を邪魔されないための陽動かもな。

 相手には相当頭の切れる奴がいるのかもしれない。


「邪神の復活と盗賊団の動きは関連しているのではないでしょうか」


 俺はギルド長の顔を見た。


「関連しているのかい?」


 そんなことは思っても見なかった。

 そうとれるような返事だ。

 前世でマフィアがよく使った手だな。

 銀行強盗をする前に、左翼ゲリラを装った爆弾テロを行い、警察の注意をそちらに向けるという手口だ。

 多分、教団は邪神復活の儀式を邪魔されたくないので、盗賊団を装って活動し、軍の目をそちらに向けたのだろう。

 カイエン隊が護衛任務を失敗したのも、ひょっとしたら襲ってきた盗賊団は教団の手先だったのかもしれないな。


「盗賊団を使って治安を悪化させることで、自分達への捜査を遅らせていた可能性は十分あります」


 過ぎてしまったことなので、それが正解でもどうにもならないが、封印の宝珠の防衛が手薄になるのは回避したいものだ。

 相手の思惑通りに物事が進むのは避けたい。


 ギルド長はその後オーリスと現在この街を管轄する将軍との話し合いがあるというので、官邸へと出かけていった。

 執務室では俺とシルビアが封印の宝珠を守る事になる。

 ドアの外には歩哨のプリオラが居てくれるので、誰かがいきなり部屋に入ってくるような事はない。


「一ヶ月もこれを守らなきゃならないなんて退屈よね。邪神を見つけてさっさとぶったぎればいいだけなのに」


 シルビアは腰に手を当て、不満そうな口吻である。


「どこにいるかもわからないような相手を切れないよ」


「それもそうね。じゃあ、今から探しに行くわよ」


「今はこの封印の宝珠を守るのが仕事だよ」


 ワンサイクル終わらないうちにラインを離れるような事を言うシルビアに、俺は前世の光景を重ねて苦笑した。

 そうはいったものの、狭い執務室にシルビアと二人っきりでずっといるのもなあ。

 嫌じゃないんだ。

 最初に出会った頃のような感情はもうない。

 今でも粗野なところはあるけど、それも含めて魅力なんだろうなって思うようになっている。

 打ち解けたのかな?


「なによ、ジロジロとこっちを見て。何か付いてる?」


「あ、そうじゃなくて、シルビアとこんな風になるなんて、冒険者ギルドの職員になったときは思わなかったなって考えてて」


「そうよねえ」


 シルビアが優しく微笑むのを見て、ドキッとした。


「最初の時は何のスキルも無くて役に立たないって思っていたけど、色々なトラブルを解決するのを見てて、スキルが無くてもやれることってあるんだなって思ったわ。それに――」


 そこでシルビアは一呼吸おいた。


「それに?」


 俺は続きが気になって、シルビアを促す。


「初めて一緒に迷宮に行ったときのこと覚えている?」


 そう訊かれた。

 勿論覚えている。

 作業標準書のチートっぷりを認識したのだから。


「あの時アルトが居なければ、オーガに殺されていたでしょうね。誰かに守られた事なんて無くて、守られるなんて恥ずかしい事だってずっと思っていたけど、守られるのも悪くないなって思ったのよね」


 ああ、そんな事もあったね。

 俺のファーストキスだったな。

 ポーションの口移しで、色気は無かったぞ。


「ありがとう」


 シルビアが俺に頭を下げた。


「そんな、いいよ。当然のことをしたまでだから」


 シルビアの行動に俺は照れる。

 感謝されることに慣れてないので、こういう時にどうしていいのかわからない。

 その時部屋のドアが開いた。


「レオーネに言われて様子を見に来ました。いい雰囲気だったらぶち壊してこいってね」


 入ってきたのはスターレットだった。

 俺もシルビアも話に夢中で、外の気配を感じ取れなかったようだ。

 いかんな。


「あれれ~、二人とも顔が真っ赤ですけど、何かやましい事でもしてましたか」


 ニヤニヤと笑うスターレットの頭に、シルビアがげんこつを落とした。


「痛いじゃないですか~」


 頭を押さえてうずくまるスターレット。

 それを見ながら、レオーネの勘の鋭さに恐怖した。

 何のスキルだよ。


 結局、ギルド長が帰ってくるまで、三人で執務室で待つことになった。

 途中でレオーネもコーヒーを持ってきてくれ、四人になったが。

 そう、レオーネはちゃっかり自分の分まで持ってきていたのである。

 俺はいつものエアコン係じゃないですか。

 そんな緊張感の無い状態もギルド長の帰還で終わった。


「王都への手紙を持って行った使者が襲われて殺された」


 執務室に帰ってきての第一声がそれである。

 一ヶ月の期間がさらに延びそうだな。

 尚、レオーネはここにいる理由がないので、怒られる前に退出している。


「よく殺されたってわかったわね」


 シルビアがギルド長にそう言った。


「反対方向から街に戻ってくる商隊が、使者とその護衛の死体を見つけて、街まで運んできたんだ。当然彼らは使者だとは知らなかったけどね。手紙も奪われて無くなっていたよ」


 ギルド長はそう説明する。

 手紙を奪ったのは、万が一それを拾った誰かが王都に届けてしまう事を警戒したのだろうか?


「もう一つ悪い知らせがあってね」


 ギルド長はため息をついた。

 邪神復活してるのに更に悪い知らせか。

 客先で選別している最中に、別の客先でも不良が出たみたいな展開だな。

 俺は馴れているけど、シルビアとスターレットの二人は緊張している。


「ラパンから封印の宝珠を盗むとの予告状が来た」


 ギルド長はラパンの予告状を俺達に見せる。


「これから宝珠を官邸に持ち込む。まあ、演技なんだけどね。運んだふりをしてこのままここで保管する。本当の事を知っているのはここにいる四人と、将軍にオーリスだけだから、口外しないように。寝泊まりもこの部屋でしてもらうからね」


 どこのブラック企業だよと思うが、世界の危機と天秤にかけたら仕方ないよな。


「ラパンは今夜盗みに来ると予告しているから、私は今から運搬と官邸での護衛をすることになるので、何か訊きたいことがあれば今のうちにね」


 と言われたが、特には無いかな。

 食事は交代で食堂にいけばいいし、トイレや着替えも交代で出来る。

 ラパンを撃退するだけだしね。

 あれ、まさか王都の軍が到着するまで?


「あの、泊まり込みの期間は?」


 訊くべきか、訊かないべきか悩んだが、結局訊いた。

 大人になると訊かずに曖昧なままにしておいた方がいいこともあるよね。

 今回は?


「ラパンを捕まえるまでかな」


 ギルド長の言葉にガックリと肩を落とす。

 曖昧なままにしておいた方が良かった奴だった。

 今まで捕まえられてない怪盗を捕まえられるまでとか、慢性不良を解決したら帰っていいよっていうのと同義。

 助けて監督局。


「ラパンがこっちに来てくれたら解決が早くていいのにね」


 シルビアが俺の肩に手をのせる。

 ポジティブですね。


「暫くはお酒ともお別れだね」


「解決したら一緒に行けばいいじゃない」


「あ、私も行きます!」


 シルビアの誘いにスターレットものってくる。


「そうだね」


 精一杯の笑顔でこたえた。

 そして、俺達の質問が終わったので、ギルド長は執務室を出ていく。


 そのままなにもなく、時刻は深夜となった。

 プリオラは事情を知らないので、既に歩哨の勤めを終えて帰宅してしまった。

 誰が歩哨をするのかでシルビアとスターレットが揉めて、結局俺が一人で室内に残り、二人が一緒に歩哨をすることになった。

 俺はボーッとするしかなく、窓から月を眺めていた。

 建物の三階にある執務室は、周りの建物より高い位置にあるため、月明かりを遮るものがない。

 降り注ぐ月光をそのまま受け止めることが出来る。


「室内のライトの魔法がなければ、もっと月の明かりを楽しめたかな?」


 誰かに「月が綺麗ですね」と言いたくなるよな。

 などと柄にもないことを考えててしまうくらいには暇である。

 すると、突然月明かりを遮る影が現れた。

 窓は音もなく開き、来訪者を招き入れる。

 黒装束に仮面をつけたそいつは、年齢も性別も外見ではわからない。


「どなた?」


 と俺は誰何した。


「泥棒です」


 闖入者は自ら泥棒と名乗った。


「泥棒さん?」


「こんばんは品管さん」


「あなたはあの時の方ですね」


 多分ラパンだろうな。

 毎回変装や変身しているから、想像でしかないけど。


「私に何か差し上げられる物があれば よいのですが… 今は仕事の身」


 兎に角帰ってほしい。


「私の獲物は品質管理が冒険者ギルドの執務室にしまい込んだ宝物……どうか、この泥棒めに盗まれてやって下さい」


「ありがとう……とても嬉しいの。でも、あなたは邪神の恐ろしさをご存知ないのです。どうかこのまま帰って」


 そう、邪神を封印するアイテムを盗まれて、世界が滅んだら洒落にならん。


「私がそれを使って邪神を封印してみせます」


 泥棒さんからの衝撃の告白。


「それはどういうことだ?オーリス」


 俺は泥棒に向かって名前を呼んだ。

 ビクッとした反応を見せたが、その後ゆっくりと仮面を外すと、そこにはオーリスの顔があった。


「いつからわかっていたの?」


 そう訊いてくるオーリス。


「その前に、このままだと外のシルビアとスターレットに気づかれちゃうぞ」


 俺の心配に、オーリスは首を横に振った。


「音を消すスキルを使っているから、外に音は漏れないですわ」


 会話が出来るけど、外に音は伝わらないとか、怪盗のスキルは便利だな。

 これなら安心して話せる。


「何回目か忘れたけど、測定したほくろの位置が全く一緒だったからね」


 それは嘘だ。

 本当はラパンの変装を見破るために、関係者の体のサイズを測っていたのだ。

 オーリスとラパンの胸の膨らみが一緒だと気付いていたと言ったら、軽蔑されそうなので、ほくろの位置だと誤魔化した。


「よく黙っていましたわね」


「証拠もなしに貴族の娘を逮捕出来ないだろ。逆に俺が不敬罪で捕まるさ」


 なんなら、今この状況だってひっくり返せるだろう。

 法の明文化なんてされていないんだからな。


「でも、どうして泥棒なんてやっているんだ?今なら生活に困ることはないだろ」


 わざわざスリルを求めるにしてもリスクが高すぎだ。

 俺にはオーリスの行動が理解できない。


「ジョブのせい。怪盗なんてジョブのせいで、定期的に盗みを働かないと苦しくなりますの」


 オーリスの言葉に軽い目眩がする。

 なんて厄介なジョブだ。

 品質管理の方が何倍もましだな。


「それはわかったけど、何も封印の宝珠を狙わなくてもいいだろ。人類の命運がかかっているんだから」


 だが、オーリスは首を横に振った。


「終わらせたかったの。自分の命と引き換えに、宝珠を使ってこの世界を救う。呪われたジョブで最期くらいは誰かの役に立ちたくて」


 オーリスは宝珠を盗み出して、自分の命と引き換えに邪神を封印するつもりだったのか。


「ねえ、アルト……」


「なんだい、オーリス」


「私を殺してくださる?」


 まなじりに涙をためて、オーリスが懇願する。


「本気?」


「ええ。このままつき出されてお父様に迷惑をかけるわけにもいかないですし、誰ともわからない人の手にかかるくらいなら、せめてアルトの手で送って欲しいですわ」


「馬鹿な事を言うなよ!」


「いいえ、こんなジョブならいつかは捕まりますわ。そして処刑される!もっと普通のジョブならずっと貴方と一緒にいられたのに――」


 泣き崩れるオーリス。

 俺はオーリスに寄り添い、優しく抱き締める。


「ずっと俺が守ってやる。盗みたい衝動が抑えられないなら、毎回俺のところに来ればいい!」


 オーリスからの返事はなく、ただ俺の腕のなかで震えながら泣いていた。

 俺はふーっと深く息を吐く。

 室内にはオーリスのすすり泣く音だけがすると思っていたが――




※作品の独り言

どこで切っていいかわからずにここまで来てしまった。

しかも、真面目にやってない。

次こそは!

オーリスのジョブはカイロン伯爵が金を積んで神殿を黙らせたのですが、設定を考えていながら、書き忘れるというね。

その辺は番外編で!

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