第244話 定着確認

品管の人間も完璧じゃないし、作品内でいう程不良もでないから、安心して車に乗ってねっていう、言い訳みたいな話を書いていたら、某社さんがとんでもねーリコール出したニュースを思い出すなど。

当然ボツにしました。

そうそう、どこかで自分を含めた品質管理の人間がやらかした話もいれていきたいですね。

ネジゲージ付けたまま納品しちゃった話とか。

それでは本編いってみましょう。



 今日はニンニクチャーハンのニンニクが入っていなかった不具合対策の三ヶ月定着確認の日だ。

 不具合の対策はやったら終わりではない。

 一ヶ月、三ヶ月、一年とその対策が定着したのかをしっかりと確認しているのだ。

 不具合は、出してしまった時にはみんな対策を守るのだが、時間と共に段々と対策で決めたルールを守らなくなるので、定期的に確認して気の緩みを増し締めするのだ。

 その力5N・m。

 弱い。

 日本語だと気を引き締めるってのが正しいのかな?

 不具合の対策が定着するチートスキル欲しいよね……

 恒久対策は暫定対策と違って解除できないんだよ。

 なんで解除したいって打診してくるのかな?

 打診も無しに解除するのはもっと論外だよ。

 トルクレンチでひっぱたいてやろうか!


 嫌な思い出を胸に秘めて、冒険者ギルドで待っていると、オーリスが馬車で迎えに来てくれた。

 彼女は気温が高くて暑いというのに、黒のワンピースドレスを着ている。

 暑くないのかな?


 馬車に乗って揺られる事3分。

 どうみてもオーリスの体調が悪そうだ。

 額には脂汗が滲んでいるし顔色も悪い。


「体調が悪そうだな」


「大丈夫……」


 大丈夫というのも辛そうだ。

 俺は相向かいに座っていたのだが、オーリスの横に移動する。

 そして、チートヒールで彼女を癒す。

 すると呼吸が整い、汗も引いた。

 オーリスはそのまま俺にもたれかかり、すうすうと寝息を立ててしまう。

 疲労回復の魔法は作業標準書がないから使えないので、俺はそのまま彼女を起こさないようにじっとしていた。


「おや?」


 馬車に揺られる俺は違和感を感じる。

 以前迎えに来てもらった時よりも、はるかに長い時間馬車に乗っている。

 輸送ルートの変更は、変更申請を提出してもらわないとな。

 そんな話は聞いてないので、つまりこれは異常作業だ。

 品質管理として御者に注意せねば。


 オーリスが目を覚ましてしまうかもしれないが、それも仕方が無いかと思って立ち上がろうとしたときに、やっと馬車が止まった。

 俺は外に出ると、そこにはオーリスの冒険者ギルドは無かった。

 ステラの街のどこか知らないところにいる。

 貴族の屋敷のようなところだな。

 実際そうなのだろうけど。


 馬車の周囲は人相の悪い男達に囲まれており、逃げ場は無いぞといわんばかりの布陣である。

 どこかで見たな。

 あ、とんでもない不具合出したときに、客先の品質管理事務所で囲まれた時がこんな感じだったな。

 そう思い出すと、額を嫌な汗が伝う。


「びびって声も出ないようだな」


 そう言ってきたのは、一人だけ高級そうな服を着た色白で太った青年だった。

 白豚ってあだ名がつけられそうな奴のテンプレみたいな外見だ。


「何があったの?」


 俺が戻らないものだから、オーリスが心配して馬車の外に出てくる。

 出てくると危ないのに。


 状況を確認すると、こちらは守るべきはオーリスと御者の二人か。

 一斉に襲いかかられると、ちと辛いな。

 そう思っていたら、御者は白豚の方へ走っていく。


「テラノ様、オーリス様をお連れいたしました」


 御者のその言葉で裏切られていたことに気づく。

 そりゃそうか。

 裏切られてなきゃ、こんなところに連れてこられないな。


「これで妻の無事は保証していただけますよね」


 そう御者が口にした時、テラノと呼ばれた青年は手に持っていたダガーナイフで御者の腹を一突きした。


「ご苦労」


 テラノにそう声をかけられて、御者は地面にたおれこむ。


「――っ!!」


 オーリスは思わず両手で顔をおおう。


「何て事をするんだ!!」


 そう叫ぶとテラノはニヤリと笑った。

 前世で見たとあるレストランのマスコットの豚の笑顔にそっくりだ。

 豚小屋がお似合いだな。

 そんな白豚が口を開く。


「俺はオーリスと結婚して家を再興する。これは命令だ」


 白豚から衝撃の愛の告白。

 0.1ミリもときめかない。


「と、仰っていますが?」


 俺はオーリスの方を見ると、彼女はちぎれるのではないかという勢いで首を横に振る。


「無理無理無理無理無理」


 本当に気持ち悪そうな物を見る顔をするオーリス。

 石仮面被った吸血鬼かと思うような否定の言葉が出てくる。

 そうか、ならば心置き無く成敗してくれよう。

 俺は姿ゲージ作成スキルを人間サイズで作り出す。

 数量は俺達を取り囲んでいる人数分だ。

 これを使って、姿ゲージと地面で奴らを挟み込み、体の自由を奪うぞ。

 作り出した姿ゲージを思念で動かす。

 はいそこ、ファンネ●とか言わない。

 地面に対して真横になった姿ゲージ。

 それを奴らの胸付近にぶつける。

 ぶつかった勢いで、奴らは転倒した。

 姿ゲージは次々と腕を押さえ込む形で上からのしかかる。

 姿ゲージの両脇が地面に突き刺されば、拘束の完了である。


 描写が雑?

 もう姿ゲージはネットで調べてください。

 若しくは、工具カタログで。

 工具カタログで調べられる人は、姿ゲージを知っているか。


 なんだか意識が少しとんでいたな。

 やっとステラに戻ってこられた気がする。


「こんなことをしてただで済むと思うなよ!謝るなら今のうちだぞ!」


 体の自由は奪われたが、口は動かすことが出来るテラノは賑やかだ。

 俺は豚と話す気はないので無視だ。

 だが、無視しても五月蝿いのは変わらなかったので、口にネジゲージを突っ込んで黙らせた。

 モガモガと言っているが、大分静かになった。

 こんなときに、音量測定のスキルがあれば、改善前と改善後の差を測定出来たのにな。

 テラノはこんなもんでいいか。


「さて――」


 ここで困ったことがある。

 襲ってきた連中を衛兵に突きだしたいが、馬車を動かせない。

 歩いて呼びに行こうかな?

 どうしようかと悩んでいたときに、御者にまだ息があるのがわかった。

 虫の息だけど。


「どうする?」


 俺はオーリスに訊ねた。

 何せ一度は裏切った人間だ。


「助けられますの?」


 だが、オーリスは御者を助けてくれと言ってきた。

 俺は首肯すると、ヒールで御者を回復させる。


「申し訳ございません」


 治ったばかりで即土下座をする御者。

 異世界にも土下座があるのかと少し感心してしまった。

 ヨーロッパでも土下座があったのを思い出すな。

 土下座は万国共通だよ。

 俺が前世の嫌な記憶を脳の引き出しに必死に仕舞っているうちに、オーリスと御者の話し合いは終わっていた。

 そして、馬車で衛兵の待機所に向かう。


 待機所で事情を話すと、ステラの実力者であるオーリスの話とあっては直ぐに動かなければということで、衛兵達は俺達が襲われた屋敷に向かった。

 俺達はというと、本来の目的である定着確認のため、オーリスの冒険者ギルドに向かう。

 予定時刻よりも遅れての到着だ。

 味見のしすぎで以前よりもふっくらとした体型になったウエイトレスが


「来なくてよかったのに……」


 と言うのが聞こえて、よっしゃ兎に角粗を探してやろうかと俺は闘志を燃やすのであった。



 後日、オーリスからお茶に誘われて、カフェでデートすることになった。

 お茶をしばきながら先日の顛末を聞く。


「テラノはマトリックスと同じ組織に所属していましたわ。家を再興するために私と結婚したかったのは事実でしたわね。御者を脅して命令をきかせていたけど、奥様を誘拐したわけではなく、命令に従わなければ家族を殺すと家までおしかけて脅していたと自供しましたの」


 ティーカップの中のお茶を回すようにゆらしながらオーリスは言った。


「あの屋敷は?」


「組織が所有していたときいてますわ。しばらく空き家でしたけど、最近買い手がついたとか。犯罪組織と知っていて売ったのかまでは不明ですけど」


 そこで俺はお茶を少し口にふくむ。


「まだ組織の全容は掴めてはいませんけど、どうも特権階級にしがみつくのを諦められない人が多数いるみたいですわね」


 俺はそれを訊いて、ごくりと口の中のお茶を腹に流し込んだ。


「身辺警護はどうするんだ?」


「アルトが四六時中守ってくれたら安心ですわね」


 俺の問いかけに、オーリスはニコリと笑ってそう言った。

 俺にはその言葉が冗談なのか本気なのかがわからなかった。

 どちらなのか訊くことも出来ず、残っていたお茶を一気に飲み込んだ。



※作者の独り言

定着確認は社内にも協力メーカーにも行きますが、特に協力メーカーが敵意剥き出しなのはどうしてなのだろうか。

誰が不良を出したと思っているんだよ。

って言いたいのを飲み込んで、指摘事項をいっぱい残してきます。

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