第212話 KD部品
ついに弊社も金曜日休業となってしまいました。
車両メーカーの生産再開が見えてこない中、むしろ全部休みでもいいんじゃないかって気もします。
少し出荷があるから全部休むわけにはいかないんですけどね。
車両メーカーは決算はコロナの影響でとか言い訳しそうですが、既に昨年から株価はダウントレンドとなっており、コロナウイルスの蔓延を言い訳にしているけど、そもそも売れる車を作っていなかったんじゃないかっていうね。
元社長が作業員のコスプレするあの会社だけではなく。
最後はケースのコスプレして日本から脱出してしまいましたね。
二年前と比較して株価は1/4なので、経営者としての能力はあったということかな?
おっと、なんか品質管理以外の愚痴で文字数が増えてきてしまったので、今回はこれくらいにしておきましょうか。
それでは本編いってみましょう。
俺は商業ギルドのギルド長であるシャレードに呼ばれて、商業ギルドの応接室にいる。
今回呼ばれた相談内容というのが、
「馬車を統一規格にしたが、実際には互換性が無いのか」
俺にそう言われると、シャレードは渋い顔をして頷いた。
「寸法測定のスケールも渡したのだが、どうしても目視では限界がある。旅先で馬車の部品を交換しようとしても、組つかないという苦情があがってきて、どう対策をしたらよいのか悩んでいてね」
それを聞いて納得する。
測定器がスケールだけでは、大体の寸法は合っていても、組み付けで要求される精度にはならないということだ。
さて、どうしたものかな。
前世での海外での生産を思い出しながら、何かないかと考えてみると、ひとつのやり方を閃いた。
「ノックダウン生産にしてみたらどうだろうか」
俺の提案にシャレードが不思議そうな顔をした。
「ノックダウン生産?」
「聞き馴染みの無い単語か。簡単に説明すると、こちらで部品を作って、組み立てる工房に出荷するやり方だ」
と説明した。
ノックダウン生産は自動車では良くみられる生産方式だ。
部品メーカーでは対象製品をKD部品と呼んでいる。
元々ノックダウンとは輸送のために機械や家具を分解することを指していた。
それが部品を輸出して、現地で組み立てさせる生産方式を指すことになったのである。
ノックダウン生産にはコンプリートノックダウン生産とセミノックダウン生産とがある。
現地でどれだけ工数をかけるかの違いだな。
エンジン部品を送って、エンジンを現地で組み立てるのがコンプリートノックダウンで、組み立てたエンジンを送るのがセミノックダウンとなる。
因みに、KD部品で員数間違いが出ると面倒な事この上ない。
数が少ないと詐欺となるし、多かった場合は贈賄となるのだ。
特定の国によってはですけどね。
数量を重量で管理しようとしてみたが、重量のCP値が大きすぎて、合計重量のばらつきが単体重量を越えてしまい、結局人力で数えるしかないというラインがあったのですが、何度も員数間違いを出してしまったことがあった。
対策書は勿論現地の言葉ですので、対策内容よりも翻訳の方が大変でしたね。
KD部品めんどくせ。
いや、そもそも数の保証が弱いラインが悪いんですけどね。
こちらの世界であれば、対策書を書くことを要求はされないだろうから、ノックダウン生産も悪くないだろう。
というか、基礎工業力が低すぎて、一か所で生産したものを現地で組み立てる方が間違いがないな。
「なるほど、それなら現地の馬車職人が失業するという事もないな。荷台の組み立てと、部品交換の仕事が残るから」
シャレードは納得し、ノックダウン生産が実行されることとなった。
もっとも、これは商業ギルド規格の馬車に限っての事であり、その他の馬車についてはこちらでは手出しができないのでそのままである。
前世でもそうだったが、現地の工業力が上がればそのうち同じ部品を現地でも生産できるようになるので、そうすればノックダウン生産は終了となるだろう。
それがいつになるのかはわからないがな。
※作者の独り言
KD部品の不具合は凄く面倒なので、製造には是非とも注意してもらいたい。
客先によっては、「KD部品」という表示をしろって言ってきたりもしますね。
品質問題の取り扱いも、KD部品は特別扱いになっていたりもして、受注する時に先に言っておいてよって思ったりもします。
それについては弊社の営業の責任かな。
ま、世界中がこんな状況なので、不具合が出ることもありませんがね。
新規立ち上げ無し、流出不良なし、日々の測定無しと凄く平和な時間が流れております。
給料と賞与が減るので、平和じゃないか。
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