第196話 準工業地域なのでとても大変です
会議の翌日から、スケジュールに沿って鉄道の建設が始まる。
王都でオッティが溶鉱炉をつくり、俺のスキルで作り出した鋼鐵を溶かして、レールの形に圧延するラインが王都の壁の外に出来上がった。
鋼鐵を高温で溶かす炉は、水蒸気爆発の危険性があるので、とてもではないが居住地の近くには建設出来ない。
用途地域という概念がないため、準工業地域、工業地域、工場専用地域といった区分がないので、基本的にはどこに工場を建てても構わないのだが、流石に安全性を考慮すると、街中には建設できなかった。
そもそもそんなに土地がない。
用途地域というのは、市街地を13種類の地域に分類し、それぞれに建築できる建物の用途を定めた規制の事だ。
日本では土地を都市計画法で、都市計画区域と都市計画区域外にわけている。
都市計画区域は市街地から郊外の田園地域や山林まで、計画的に整備、開発、保全をしていく区域であり、都市計画区域外は人の住まない土地で、用途地域は定められていない。
都市計画区域には13の用途地域があり、住居系、商業系、工業系に別れている。
それぞれに建築できる種類が決められており、騒音の度合いも決められているのだ。
日中と夜間で騒音の閾値も変わるので、両方の時間帯で工場から漏れる音を測定したものである。
昔、工場で深夜に塗装をしていたら、近所から警察に「シンナー臭い」と通報されてしまったのだが、警察と市役所が調べたら、住居が建築出来ない地域だったので、通報した家が取り調べを受けるということがありました。
それと、用途地域でなくとも、建築審査会というのに諮れば、例外的に建築出来ることもあるので、諦めずに申請してみることもありですね。
賄賂を受け取る議員とか、反社会的勢力を使うと、稀に建築許可がおりたりすると聞いたことがあったかもしれません。
ほら、役所でごねるのが得意な人っているじゃないですか。
法律の抜け穴をつくのが得意な人が。
話が逸れましたね。
脱線ついでに言うと、連れ込み宿こと、ラブホテルが高速道路のインター周辺にあるのも、用途地域の関係だ。
別に高速道路の上で、人間が欲情しやすいわけではない。
住宅地にあるラブホテルは既得権益だな。
さて、本当に話をもとに戻そう。
労働者を集めるためには、街中の方が望ましいのだが、危険きわまりない施設が住宅地にあるのはよくない。
ここでは大規模な工場がまだ存在しないから、誰もその危険性について認識していないのだ。
先手を打って、ここで規制を先にするようにした方がいいな。
そう思って、オッティに相談したが、オッティは俺を残念な子を見るような目で見た。
「なんだよその目は」
意味がわからない。
だが、抗議の声をあげねばならないと直感した。
「折角規制がないんだから、やれるうちは好きにやらせてもらおうじゃないか。街中にメッキ工場を作るのなんてそうそうないぞ。他にも、染め物だったり、製紙工場だったり、どでかいプレス機を設置するのもやってみたいじゃないか!」
なんて迷惑な。
「今、『なんて迷惑な』って思っただろう?でも、考えてもみろ。工差の無い仕事がどれだけ楽なのかを。新機の工場を作るたびに、面倒な法律の確認をしていた俺の気持ちが少しはわかるだろうが」
屁理屈にも程があるが、妙に納得させられてしまった。
でも、いくら規制がないからって、廃液を住宅地の川に流すのはよくないぞ。
住宅地でなくてもダメだけど。
工業の発展の歴史は、公害の歴史でもある。
水銀、カドミウム、六価クロムなどが引き起こした公害で苦しんだ人たちがいるのだ。
ただ、今の先進国は自分達の所さえ綺麗ならばそれでいいみたいな風潮もある。
金属リサイクルやレアアースの採掘なんて、先進国は環境問題で無理なのだが、それでもそういった物を使うのは先進国が多い。
原発を禁止しながら、隣国の原発で発電された電気を購入している国もあるが、それでいいのか?
経済発展と環境保護は両立しないのが問題だよね。
※作者の独り言
住宅地に昔からある塗装メーカーが、近所の人と揉めていたのですが、揉めていた近所の人が勤めていた会社をリストラされて、塗装メーカーに就職したら問題が解決した話もあります。
ラブホテルを建築するときに付近住民の同意が必要とういので、土地を分筆して、社員に周囲の土地を与えて、そこに住所を移したってのもありましたね。
ディズニーランドの夜の花火や、お寺の除夜の鐘がうるさいと通報があるようなのですが、それってあんたらがここに来る前からあったよね。
弊社のプレス機も何十年も前からここで稼働しているんですよ。
帰国直前の研修生鉄砲玉にして高飛びさせようかなんて思ったり……
したことはありません。
立地で揉めることは多いですよね。
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