第192話 特性要因図
久しぶりに出社してみたら、エルフの里からお手紙が届いておりました。
冒険の準備をして、早速目指そうと思いますが、武器は持ち込み禁止。
防具は盾と鎧と兜ではなく、安全靴・作業服・帽子・保護メガネ・手袋となっております。
ダークエルフが攻めてきたらどうするんだよ!
まあ、ダークエルフが攻めてこなくても、精神攻撃を食らうんですけどね。
向かう途中で、異世界召喚でも起きないかなって思います。
あー、ガリバー旅行記もなんか酷いことになってるー。
ラピュタは本当に在るのか知らないけれど、不具合は本当にあったんだ。
次はどこですか?
巨人の国?
小人の国?
あ、お茶の国ですか。
はい、今から選別道具用意して向かいます。
え、選別に連れていけるのは日本語のわからない作業者しかいない。
そうですか……
という夢を見たんだ。
やばい、夢の話をしていたら、文字数がどんどん増えていく。
対策書の文字数は増えないのに。
…………
それでは本編いってみましょう。
俺は今ティーノの店でオッティ、グレイスと向かい合って座り、ミートソーススパゲティを食べている。
パスタが大当たりして、客が次から次へと引きも切らずに押し寄せているのだが、店の外の行列など気にもせず、優雅にスパゲティにフォークを突き立て、ぐるりんと巻き取り口に運ぶ。
出来立てから少し時間が経ったため、やけどするような熱さではなくなっており、猫舌の俺としては丁度いい温度だ。
こんなにも美味しい料理を食べているのに、オッティとグレイスの表情は晴れない。
いや、むしろ美味しいからこそ晴れないというべきだろうか。
今や領地の発展で忙しいはずの二人が、ステラの街にいること自体驚きなのだが、ここでゆっくりと料理に舌鼓を打つのは更に驚愕であろう。
何故こんな事になったのかというと――
「製麺ラインを作りたいのにレベルが全く上がらない。いや、もっと優先すべき課題が山積みなので、そちらの方を優先して欲しいと賢者の学院からも言われている」
オッティは重い口取りで話す。
グレイスが横で頷く。
「しかし、食文化を豊かにすることも貴族の務め」
グレイスが口を開いた。
そんな貴族の務めは初めて聞いたきがするが、フランス料理はイタリアから貴族が持ち込んだと聞いた気もするので、間違いという訳でもないのかな。
二人が言いたいのは、パスタの生産機械を分けて欲しいという事だった。
やはり前世の食事が恋しいのか、何度も手紙が届いていたのだが、ストラトスも他の先に注文を受けた方を当然優先していたので、その要求には応えられなかったのだ。
結果、二人は直接乗り込んで来たというわけだ。
ストラトスがこの場にいないのは、話し合いで手が止まると更に遅くなるからである。
「二人とも、前世は日本人なんだから、米を求めるならわかるが、なんでパスタにそこまで情熱を注ぐんだよ」
「じゃあ、あなたはラーメンが中華料理だとでもいうの?立派な日本食でしょう。イタリアにナポリタンなんてないわよ」
グレイスは強い口調で反論する。
確かに、ラーメンや餃子は中華料理発祥かもしれないが、今では日本に独自の文化として定着している。
カレーについてもそうか。
イタリアには行ったことがないから、本場のパスタがどんなものか知らんけど。
「日本人なら、うどんでいいじゃないか。オッティは群馬の出身だろ。上州うどんは有名だし、うどんなら手打ち麺が出来るよ」
「「パスタで!」」
俺の代替案は二人がハモって否定する。
二人は会話の合間、合間で目の前のスパゲティを食べているので、俺が食べなくてもどんどん減っていく。
そんなに好きなのか。
グレイス領にまわすパスタの乾麺の量を増やしてあげたいけど、俺の経営する製麺所はフル稼働しているのに、需要に供給が追い付かない状況だ。
ステラの街の雇用対策になっているからいいのだけど、こうなってくると転売するやからが出てくるので、なんとか供給を増やしたい所なのだ。
とてもではないが、知り合いだからと謂って優遇できる状況ではない。
「コーヒー貰える?」
俺はメガーヌにコーヒーを注文した。
せめて目の前のスパゲティは二人に譲ろうと思ったのだ。
暫くすると、熱いコーヒーが運ばれてきたので、カップを手に取りフーフーと息を吹きかけて冷ましてから、温度を確認するように少しだけ口に含む。
十分に飲める温度まで下がった事を確認して、今度はカップを傾け、先ほどよりも多い量を口に流し込んだ。
ホッと一息つき、解決策を考える。
オッティが製麺ラインを作るためのレベルが足りないから、ストラトスからパスタマシンを買うしかない状況をどう解決したらよいのか。
特性要因図を頭の中で思い浮かべる。
特性要因図とは、QC7つ道具のうちの一つで、別名魚の骨とも呼ばれるツールだ。
不具合という結果に対して、どんな要因があるのかを書き出して明確にするものである。
設備を作れないのは材料が無いのもあるな。
ステンレスは俺しか作れない。
パスタマシンの生産に時間が掛かるから、供給が追い付かない。
パスタマシンを作る職人を増やすか?
いや、今からそんな人材を育てるには時間がかかる。
ストラトスが教育する時間もないだろう。
俺が作業標準書スキルでパスタマシン作成を出来るようにするか?
オッティはレベルが足りないからスキルを解放できない。
経験値が不足しているからか。
他にも開放したいスキルもある。
優先順位は?
…………
ポク、ポク、ポク、ポク、チーン
「そうだ!」
俺は解決策を閃いた。
「オッティ、今から迷宮に行くぞ」
「何で!?」
俺の突然の提案にオッティは驚いてスパゲティを食べるのを止めた。
「パワーレベリングで、オッティのレベルを一気に引き上げる。そうすればスキルをいくつも解放できるだろう。それで製麺ラインを作れるようにすればいい」
「あら、それで万事解決ね」
グレイスの顔も一気に明るくなる。
だが、こちらは食べるのを止めない。
そんなわけで、オッティを引きずって冒険者ギルドまで行き、シルビアと合流して迷宮に潜った。
オッティは無事にレベルが3ほど上がり、製麺ラインを作ることが出来たのだ。
ただし、製麺ラインはパスタとラーメンと素麺でスキルが違うので、今回のレベルアップ分は全て製麺ラインで使われてしまった。
このスキル、神様のこだわりが知りたい。
※作者の独り言
冒頭の夢の話はフィクションです。
フィクションです。
大切な事なので二回言いました。
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