第168話 実効性のある対策を
「冒険者ギルドって冒険者のための組織だけど、冒険者ギルド同士は連携を取れてないわよね」
オーリスと一緒にティーノの店で食事をしているときにそう言われた。
俺は口に運ぼうと思った肉を皿に戻して考える。
この世界の冒険者ギルドは別に全世界で共通の組織というわけではない。
この国の王都にある本部から看板を借りて商売しているフランチャイズだ。
ステラのように一つの街に二つの冒険者ギルドがあることもある。
運用方法は本部のマニュアルに従うので、冒険者の等級などはどこに行っても通用するのだが、素材の買い取りや職員の給料などは、それぞれの冒険者ギルドの裁量に任されている。
そんな状況で連携が取れるとは思えない。
鉄鋼組合みたいなかんじで、組合員どうしでコスト競争を行うのだ。
そのへん、理容師とか、タクシーの組合の方が利口だな。
団体で政治家に圧力をかけたり、同一の料金で競争を無くしたりしている。
その分、利用者の利便性は下がってしまうが。
冒険者ギルドもそうだな。
本部はどうかわからないが、王族や貴族と組んでいるような気配がないし、圧力をかけているようにも思えない。
無理に敵対することもないが。
「オーリスの考える連携ってどんなことだ?」
「そうねえ、例えば冒険者からのクレーム情報の共有とかかな。できればどうやって対処したのかとかね」
そういってフォークで俺の方を指す。
お行儀悪いぞ。
「その辺はマニュアル化して欲しいな。できれば対応方法を考え付いた冒険者ギルドから買い上げて欲しい。そうすればやる気も変わってくるんじゃないかな」
「それはあるわね。ステラみたいに冒険者ギルドが二つあるところなんて珍しいから、他は競争が起きなくて、冒険者もそこにあるたった一つの冒険者ギルドを使うしかないから、対応を考える必要もないのよね。よっぽど悪くて本部にクレームが行けば、改善させれらるんでしょうけど」
どことは言わないが、世界唯一の技術だからってことで横柄な態度をとる企業あるよね。
どことは言わないが。
そんな企業が重点管理メーカーになったのを見たけど、いうこと聞かないって担当者が嘆いてましたよ。
嫌なら売らないって言われるとなんも言えねえ。
競争が無いって殿様商売だよね。
それは冒険者ギルドも一緒か。
「ま、そういった情報の共有をしたところで、職員がその対応をしてくれるかっていうのもあるけどな」
俺はお茶を飲んだ。
ちょっと興奮気味になる方向に話が進みそうなので、自分を落ち着かせるためである。
不具合対策なんかでも、対策なんて謂うものは大体似たようなところを考え付く。
ところが、現場の強い反対で実現しないこともあるのだ。
員数不足を出したので、ポカヨケを導入しようといったら、タクトが伸びるのが嫌だと反対され、中々導入できなかったのだが、再々再発でやっと観念したとかあったな。
他にも、異常処置を間違えて不良を流出させてしまったので、対策として異常発生時にポカヨケのインターロックを解除するボタンをコントロールボックスの中に隠して、責任者のみが解除できるようにしようとしたら、それだと責任者がいないときに、作業をすぐに再開できないとか反対されたこともあったな。
誰がミスしたからこんなことになっていると思っているんだ!
そんなわけで、適切な対策が必ずしも実施されるとは限らないのだ。
その組織の実情にあった対策というものがあると思う。
最近は諦めて「私を雇ってくれるなら、解雇覚悟で社内と戦います」って客先で宣言しているけど。
最近はって転生直前の事ですよ、念のため。
「たしかにね。私の所もできたばかりで経験の浅い職員が多いから、指示しても理解できていないのよね。アルトの対策を真似してはいるんだけど」
そうだろうな。
特に零細企業などでは、大手が望むような管理なんてできない。
そもそも一人でやっているところなんて、始業点検を上位者が確認なんてできないぞ。
そういった企業というか、個人商店で出した不具合の対策は、やはりそこが出来る範囲でのものになる。
意識が低いところもそうですね。
どんなに素晴らしい対策でも、持続しなければ意味がないので。
意識が低いところはそもそも対策どころか、選別にすら来ませんが。
まあ、そんなところは購買に言って、二度と新規品は発注しないようにお願いはするが。
「オーリスならギルド長会議でそういった意見を言えるんじゃないか?」
「言ってはいるんだけど、中々本部も重い腰を上げないのよね。それぞれの冒険者ギルドに任せっきりよ」
独自性を尊重といえば聞こえはいいけどな。
対策事例集みたいな感じで、こうして切り抜けましたっていうのはあってもよさそうだ。
不具合対策の横展開みたいに。
あれって、大規模でとんでもない不具合を出したやつが回ってくるんだよね。
他社とはいえ、品質管理担当者のことを思うと、こちらも胃が痛くなるんだぞ。
具体例は差し控えさせていただきますが。
「俺でよければ有料で相談に乗るよ」
「無料じゃないの?仕事でしょ」
オーリスがちょっとムッとした表情になった。
グーで握ったフォークで肉を突き刺すのははしたないですよ。
「ほら、それは冒険者ギルドの利用者のためのものだから」
「じゃあ、私も冒険者になるわ」
その後、オーリスからのヘッドハンティングのお誘いを断るのが大変でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます