第154話 ジュラルミン

「剣が重いねぇ」


 俺の所に相談に来たのは新人冒険者のソアラだ。

 ちょっと小さい剣士の女の子だな。

 成人はしているとのことだが。

 相談内容というのは剣が重くて振るえないということである。

 剣の重さに体がついていかず、振るえば振り回されて、何度か振るっていると疲れてもうそれ以上は戦えなくなる。

 体と武器があってないんだよな。


「ショートソードなんですが、自分の体には大きすぎて。これ以上小さい刃物となるとナイフくらいしかないんですよね」


 しょんぼりとした様子のソアラ。


「自分の体にあった剣を作ってもらうわけにはいかないの?」


「そんなお金がないんですよ」


 成程、そういうことか。

 そういえば、体のサイズに合わない設備を一日使うのって辛かったよな。

 大体平均身長に合わせて設計するんだけど、みんながその身長ってわけじゃないからな。

 特に腕を肩よりも上げる作業を繰り返し行うと、あっという間に作業がタクト内で収まらなくなる。

 年齢や性別で差別してはいけないというが、身長は結構重要な要素だ。

 最近では面接まで相手のパーソナルデータがわからないのだが、はっきり言って時間の無駄が多かったりするぞ。

 条件つけさせてほしい。


「まあそういうことなら、まずは武器を作っている人に聞いてみましょうか」


「はい」


 というわけで、ソアラと一緒にデボネアの工房を訊ねた。


「サイズはある程度のラインナップは揃えておるぞ。まあ、ソアラくらい小さいと特注になるがな」


 デボネアも商売なので、売れそうなサイズについては作成しているようだ。

 やはり、ソアラの身長が問題か。

 ジョブが剣士じゃ他の武器にしろっていう訳にもいかないしな。


「そもそも剣はなんで重いんだ?」


 俺はデボネアに基本的なことを訊いた。


「そりゃあ鋼でできているからじゃろ。ある程度の鋼を使わないと強度も出んしな」


 そうか、冶金技術が低いから、重量に頼るのか。

 どこぞの世界のように切れ味無視して、重量で相手を倒すための剣ってわけではないが、取り扱い易さを犠牲にして剛性をあげているわけだ。

 切れ味が良く、靭性のある剣が作れるなら重量は軽減できるのかな。

 時代小説では細身の日本刀で相手よりも早く攻撃できることに特化したものがあったな。

 包丁だってジルコニアセラミックの包丁がある。

 砥げないし、欠け易いっていう欠点はあるが。

 ならばアルミニウム合金かな?

 ジュラルミンならSKD11よりも硬いし(そんなことありません!)、矢でも鉄砲でもはじき返してしまう(そんなことはありません!)のだ。

 それで刃物をつくろう。

 プラスチックの試作金型だってジュラルミンで作っていたくらいだし、ダメージの大きいGF40%だって1000ショット打ってたんだ(最後の方は使い物にならなかったので、製品を仕上げで削ってましたが)。

 更なる硬さが必要ならメッキすればいいな。

 そこいらはオッティに相談しよう。

 そんなわけでジュラルミンから刀を作ることにした。

 デボネアには何度か普通の鋼ではない金属で依頼をしたことがあるので、今回もまたかといった感じだ。


「刃の角度はどうするんじゃ?」


 デボネアに言われてはたと気が付く。

 そうか、刃の角度をどうするかだな。

 刃先角は刃こぼれが少なく、ギリギリ切れ味が失われない程度にして、それを片刃と両刃の間くらいで設定する。

 とても食い込みやすいのだ。

 詳細は秘密だけど。

 鉄を切るときと、樹脂を切るときで角度が違うのだが、今回は鉄よりの角度である。

 まあ、後は使ってみて駄目なら角度を変えていこう。


 デボネアに協力してもらい、ジュラルミンで作ったショートソードは完成した。

 しかし、途中で剛性が足りないことがわかったので、実際はジュラルミンにオリハルコンを添加してある。

 JIS規格からは外れているだろうな。

 それをソアラに手渡す。


「いや、こんなに高いものを渡されてもお金なんてありませんよ」


 わたわたと慌てるソアラ。

 金がないのなんてわかっている。


「試作品なので、使った感想を教えてください。上げるのではなく貸し出しですからね。こちらも使ったデータが欲しいので、貸し出しは無料ですよ」


 実際、軽くなった剣でどの程度の威力が出るかは未知数だからな。

 軽くなった分だけ扱いが難しくなったかもしれない。

 切れ味が悪くても、力さえあればせん断は出来るからな。

 板金やプレスの打ち抜きだって切断面をみると、奥の方は引きちぎられているのがよくわかる。

 勢いで切っているというわけだ。

 だからといって軽いから切れないというわけでもない。

 真新しい紙で手を切った経験がある人は多いだろう。

 タイミングさえ合えば、軽い物でも十分に切れる。

 さて、ジュラルミンの剣がどうなるか。

 いや、片刃だから刀かな。

 「未体験ゾーンへ」だ。

 ソアラだけに……


 そんなわけで、ジュラルミンの刀を使い始めたソアラであったが、軽くなった刀はその振るう速度があがり、切れ味は問題なかった。

 今では「世界に一つ、ステラにソアラ」と呼ばれるほどの実力だ。

 ジュラルミンの刀を求めて、時々デボネアの工房に客が来るのだが材料がない。

 ジュラルミンが出来るのは1000年後だろう。

 それまで待って欲しい。

 オリハルコンを混ぜたジュラルミンなんてそんなに多く流通させていいものではないと思うから、俺は作るのを自重しているんだぞ。



※作者の独り言

なんかジュラルミンについて漫画やネットで勘違いが多かったので。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る