第143話 鉄メッキ

「軸と軸受けの摩耗した個所を修復したいのか」

「ああ」


 俺は本日オッティに呼ばれてカイロン侯爵領にいた。

 相談内容は軸と軸受けの摩耗についてである。

 これは馬車や水車といった輪が回転する機構全てにいえることだが、摺動面は摩耗する。

 いくらグリスアップしたところで、全く摩耗しないというわけではない。

 じゃあどうするかといったら、新規部品に交換したらいいのだと思うが。


「直して使うことができればいいんだけどな。新規で作るのでも構わないが、修理できるならそれにこしたことはない」


 とオッティはいうが、摩耗の管理なんて難しい。

 金型なら摩耗したところに肉盛りして修正することもあるけど、軸が摩耗したのをどうしろと。


「全体的にすり減った軸と軸受けをどうしろと」


 俺は首を横に振った。


「お前なら鉄メッキにのってくると思ったんだけどな」

「あー、鉄メッキがあったか」


 鉄メッキとは鉄を被膜として付着させるメッキだ。

 普通は鉄にメッキをするのだが、鉄メッキは鉄がメッキとなる。

 あまり一般的ではないが、金型の摩耗にしたいして、均一にメッキができるので、そういう目的で使用されている事例もある。

 というか、前世ではそういうことをやっていた。

 尚、浸炭や窒化などで表面の硬度を上げるのもセットである。


「アルト、お前のスキルで設計値からの摩耗度合いを測定してくれたら、膜厚を何μにすればいいか決まるだろ」

「前世に比べたら格段に摩耗の測定がしやすくなってはいるな」


 前世では摩耗の管理などできなかったので諦めていた。

 シックネスゲージの摩耗管理はできないから、一定期間が経過したら廃却。

 金型の摩耗については、製品の出来映えからの摩耗度合い推測しかなかった。

 異世界チートスキル万歳。


「鉄メッキについては俺のスキルでなんとかなるからな」

「浸炭はどうするんだ?」

「それもなんとかなるだろう。というか、スキルに温度管理あるよな?」

「そういえばそんなものがあったな」


 うっかり自分のスキルを忘れていたが、温度管理があったな。

 炭素と一緒に加熱して浸炭してやればいいか。

 その後徐冷もできるしな。


「あのパチンコの仕事酷かったよなー」


 急にオッティがそんなことを言い始めた。

 あのパチンコの仕事とは、パチンコ機台に使われるプラスチック部品の試作型の事である。

 全てのパチンコ業界がそうなのかは知らないが、どの機種が売れるかはわからないため、試作型をそのまま量産に使用したことがあった。

 試作型は高速切削ができるアルミ合金を使用した。

 アルミ合金で作った金型は柔らかくてショット数を多くできない。

 だましだまし使っても1000ショットも使えないだろう。

 ところが、どういうわけかその機台が大当たりしてバカ売れしてしまった。

 そこからは連日深夜まで残業してのバリ取りである。

 試作型なので、ゲートもいい加減だし、PLのバリも大きかったのだ。

 しかも、どんどん摩耗していき、最後はバリ取り工数が最初の3倍くらいに膨れ上がっていた。

 いよいよ金型がだめになり、どうしようかというときに、この鉄メッキに出会ったのだ。

 アルミ合金の表面にも鉄のメッキが付くとは驚きでしたね。

 というか、あれができることによって、試作型が本型に生まれ変わった。

 生まれ変わったというのは大げさか。

 ショートショットが出なければそれでよしという金型なので、ウェルドの位置だったりとか、ゲートの大きさだとかは玉成されていないからな。

 しかも、速さを優先しているから、多数個取りができないのだ。

 ついでに言うと、試作用の成型機には自動の搬出装置などついているわけもなく、製品の取り出しは全て手で行わなければならなかったぞ。

 流石に、イジェクターピンはあったけど。

 なんの台だったか忘れたなー。

 「台・おぼえていますか?」

 って言われてもね。


「まあ、ここまで言っておいてなんだが」


 オッティはそう前置きする。


「この世界に鉄の軸も軸受けも殆どないんだよな」

「なんじゃそら!」

「しかも、アルミ合金に有効な鉄メッキだが、アルミ合金は存在しない」

「むう……」


 結局二人の好奇心のみで鉄メッキをやってみただけであった。

 現実世界でも鉄メッキなんて一般的じゃないしね。



品質管理レベル40

スキル

 作業標準書

 作業標準書(改)

 温度測定

 荷重測定

 硬度測定

 コンタミ測定

 三次元測定

 重量測定

 照度測定

 投影機測定

 ノギス測定

 pH測定

 輪郭測定

 マクロ試験

 塩水噴霧試験

 振動試験

 引張試験

 電子顕微鏡

 温度管理

 照度管理

 レントゲン検査

 蛍光X線分析

 粗さ標準片作成

 ガバリ作成

 C面ゲージ作成

 シックネスゲージ作成

 定盤作成

 姿ゲージ作成 new!

 テーパーゲージ作成

 ネジゲージ作成

 ピンゲージ作成

 ブロックゲージ作成

 マグネットブロック作成

 溶接ゲージ作成

 リングゲージ作成

 ラディアスゲージ作成

 ゲージR&R

 品質偽装

 リコール

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