第141話 蚕がいればいいってもんじゃないぞ
「異世界に無線と気球を持ち込めたら、奇襲を受けなくて済むようになるよな」
異世界にオーバーテクノロジーを持ち込んで、現地の戦局を一変させる小説を考えていた。
気球なら、割りと古くからあるから、なんとかなるんじゃないだろうか。
「割りと良くあるのが鐙か。でも、あれって日本だと騎馬文化と一緒に入ってきたよなー。奇数を有り難がるのは北方騎馬文化で、鼎と鐙は同時期に伝わってるんだったような。考古学に詳しくないからうろ覚えだけどなー」
因みに偶数を有難がるのは南方の船文化だ。
説明すると長くなるからやめておくけど。
「そういえば、絹を作って財源にする話も結構あるよなー。蚕の繭を煮るとすごい臭いんだけど、異世界に転生してよくあんなものやる気になるな。前世だけで十分だ」
絹を作るには蚕を育てる必要がある。
養蚕っていうやつだな。
繭を作る前も気持ち悪いが、繭を煮て絹糸を取り出す製糸工程はもっときつい。
群馬県の70代の老人に聞いても「二度とやりたくない」っていう意見が多い。
因みに、群馬県の農家の形は養蚕に特化した形状になっている。
異世界にもアレを再現するのは面倒だ。
いや、異世界の蚕が丈夫で病気にならなければそんな必要はないのだが。
そんな感じで糸を作って、次の撚糸工程が必要になる。
撚糸とは糸を撚る工程だ。
割とよく火事になるんだけど、どうしてなんだろうか。
燃えやすいのか。
撚糸については糸車が古い機械として存在しているのがわかっている。
群馬県の桐生市では八丁撚糸機が1783年に開発されている。
動力は水車だ。
熱い!
桐生市や足利市の資料館で詳しく調べてほしい。
残念ながら、絹を持ち込む作品は結構読んだのだが、撚糸機械を異世界に持ち込む話がないのは残念だ。
蚕の繭から糸を取り出す方法を簡単に再現できるんだから、撚糸機械を再現してもいいよね。
最近じゃ絹の撚糸の仕事なんてかなり減ってきているので、日本で生糸の撚糸機械とか知っているのはかなりマニアックな知識に分類されると思うんだけどね。
「カイロン侯爵領の新規産業としての絹の生産と、撚糸機械の作成をオッティとグレイスに提案してみるか」
後日俺の提案の手紙の回答をグレイスが伝えに来た。
豆腐を食うついでにだという。
ついでかよ!
「絹の生産は魅力的で、蚕っぽいやつもいるんだけど、撚糸機械が作れそうにないのよね。オッティのスキルレベルが上がっても、前提条件のスキルを取得する必要があるみたいで、スキル頼みでは無理みたいなんだけど。じゃあスキルなしで作ることができるかっていったら、そっちの方がよっぽど難しかったみたいね。手で糸を撚るのだと生産が間に合わないしね」
「それもそうか」
「ロストテクノロジーにならなければいいけど」
「まあ、絹に関してはそのあと染める工程もあるから、簡単にはいかないけどね」
「なんでよ!もっとサクサクいかないと財政再建がままならないじゃない」
そんなこと知らんよ。
他の異世界じゃもっとイージーに糸が作れるんだろう。
この世界が厳しいだけだ。
それに、衣服関連は外観部品だから、品質管理が面倒なのでやりたくない。
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