第139話 異世界の馬車にサスペンションもいいけど、ベアリングも欲しいよね

 俺は冒険者ギルドの買取部門の責任者のギャランに呼ばれて、買取カウンターに来ていた。


「アルト、すまねえな。こいつがなんなのかわからなくってよ」


 依頼内容は鑑定だ。

 目の前に手のひらサイズのリングがある。


「これは……」


 どう見てもボールベアリングであった。

 ベアリングは別名軸受ともいい、荷重を受けて軸を支持する部品の事である。

 摩擦抵抗を減らして、スムーズな回転の手助けをする部品だ。

 ボールベアリングは、鋼球が使われたベアリングだ。

 しかし、何故こんなものがここに?

 俺はギャランに訊いた。


「これはベアリングという部品ですね。どうしてこんなものがここに?」

「あー、ベアリングっていうのか。迷宮熊からのドロップ品らしくてな。初めて見るから、レアドロップだとは思うんだが」

「迷宮熊?」


 英語ではベアリングのベアとは支えるという意味だ。

 スペルはBearで熊と一緒である。

 熊からドロップするリングだからベアリングって訳じゃないぞ。


「どうやらこいつは迷宮熊の体内で時間をかけて作られるらしくて、若い個体からは採れないんじゃないかと思うんだ。長生きする奴なんて、迷宮内じゃ殆んどいないからな。今までドロップしなかったのはそういう事かなと」


 ギャランはそう推測した。

 それが正しいなら、迷宮熊を養殖すれば、ベアリングが手に入るってことだよな。

 馬車や水車の効率がかなり上がることになる。

 尚、ベアリングにはラジアルベアリングとスラストベアリングがある。

 ラジアルベアリングはラジアル荷重に対応するベアリングだ。

 ラジアル荷重とは軸にかかる荷重のことであり、車重を支えているベアリングのことである。

 スラストベアリングとはアキシアル荷重に対応するベアリングだ。

 旋回するときに仕事をするベアリングのことである。

 ベアリング自体は紀元前から存在するのだが材質は木だ。

 それに油をさして使用していたらしい。

 ここいらはNで始まるベアリングメーカーの工場長から聞いた話であるが。

 そのせつは色々とお世話になりました。

 話が逸れましたね。

 水車にベアリングを使用している異世界転生者の人たち、ちゃんとベアリングユニットにしておかないとね。

 弊社も水没させて使っているベアリングに水が浸入して故障したことが何度もありますので。

 なんの心配だかわかりませんが。

 それを言ったら、馬車のベアリングだって土埃が侵入して、摩擦抵抗が大きくなるんだけどね。

 細かい砂利が入ったほうがあたりが取れて音が静かになる?

 そんな昭和なことを知っている人も少なくなりましたよ。

 と、ちょっとトリップしていたらギャランに話しかけられて引き戻された。


「で、どういう風に使うんだ?」


 ギャランに言われてハタと考える。

 ボールベアリングで何をしたらいいのだろうか。

 量産できる部品ではないので、この一個でなにかをするとしたらできることなど限られている。


「そうだなー」


 前世の知識を思い出していると、あるものが考え付いた。


「引き戸をつくろう」

「引き戸だと」


 引き戸のローラーとしてベアリングを使用することにした。

 品質管理でベアリングなんて使うのは、引き戸のローラーの交換くらいなもんですよ。

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