第128話 マヨネーズを作ろう

 以前仕込んでいた醤油が無事に出来上がった。

 火を入れて発酵を止めて完成したものをティーノの店に持ち込んだ。

 店にはシルビア、オーリス、グレイス、オッティを呼んである。

 本当は日本出身の三人で、ティーノにこの世界にある素材を料理してもらい、醤油にあう料理を見つける予定だったのだが、ばれたときに俺の命がなさそうだということで、シルビアとオーリスを呼んだのだ。

 ナイス判断。


「流石に刺身は無いか」

「卵かけごはんもね」

「海苔に醤油をつけてもうまいんだが……」


 俺達のがっかりは他の異世界転生と一緒だな。

 さて、出てきたのはステーキだ。


「これは……」

「これって……」


 シルビアとオーリスに加えて、オッティとグレイスも驚く。

 ワインに肉汁をあわせて、そこにバターと迷宮トリュフ、もろもろの迷宮で採れるきのこをを入れたソースに醤油を加えたものだ。

 とあるグルメ漫画で、牛肉に一番合うソースは醤油だってかいてあったからね。

 それをティーノに再現してもらったのだ。

 勿論肉も上等なものであるが、この世界のステーキソースよりも格段にうまいものが出来上がった。

 隠し味を教えてくれたら三ツ星って言われた程のソースやぞ!


「照り焼きについては味醂が手に入らなかったから諦めた」


 俺がそう説明すると、オッティとグレイスは残念そうな顔をした。


「ちょっと残念だな」

「米が手に入れば焼きおにぎりとかせんべいもできるのよね」


 シルビアとオーリスは非常に満足している。

 奥からティーノとメガーヌも出てきて、醤油を使った料理で何ができるのかというのを話し合う。

 おでんはかなり日本の味に近づくだろうな。


「そういえば、異世界転生の定番、マヨネーズってどうなのかしらね」

「あー」


 グレイスの一言でマヨネーズをカイロン侯爵の領地の名産品にすることを思いついた。

 なにせ醤油は迷宮大豆でつくるから、ステラじゃないと材料が手に入らない。

 マヨネーズの材料なら比較的入手は簡単だ。


「マヨネーズって何よ?」

「そうですわ」


 シルビアとオーリスはマヨネーズを知らない。

 当然だな。

 なので説明してあげる。


「油と酢と生卵を混ぜて作るソースのことだよ」

「そんなもの売っても直ぐに腐っちゃうじゃない」

「そうだぞ、アルト。防腐剤のないこの世界でどうするんだ」


 オーリスとオッティが腐る腐ると言う。

 確かにスーパーの常温の状態でマヨネーズが置いてあるけど、あれは別に防腐剤が入っているわけではないぞ。


「酢の主成分は酢酸だ。酢酸には殺菌効果がある。そして卵の黄身は酢に使った状態なんだから腐るわけがないだろう。JAS規格でも『半固体状ドレッシングのうち、卵黄又は全卵を使用し、かつ、食用植物油脂、食酢若しくはかんきつ類の果汁、卵黄、卵白、たん白加水分解物、食塩、砂糖類、はちみつ、香辛料、調味料(アミノ酸等)及び香辛料抽出物以外の原材料を使用していないものであつて、原材料に占める食用植物油脂の重量の割合が65%以上のものをいう』と定義されている。保存料を添加したらマヨネーズと認められなくなるんだ。もっともJASマークのついていないマヨネーズは知らないけどな」

「じゃあ、油と酢と生卵があればいいのね」

「オーリス、残念ながらそれだけじゃない。まあ、塩が必要っていうのもあるけど、乳化させるためにミキサーが必要なんだ」

「ミキサー大帝の家庭にはあるわよね」

「グレイス、それだと王位争奪編に出てくる超人だ」


 細かいボケをありがとう。


「油を乳化させるためにはかき混ぜることが大切なんだ。油は小さな球状をしているが、これがくっつくと大きな塊になって水の上に浮かび上がってくる。よくかき混ぜるためにも電動のミキサーが必要なんだ。そこでオッティのスキルが重要になってくる。電動ドリルも作れるんだろう?」


 俺はオッティに訊いた。


「次にレベルが上がればそのスキルを取得するよ。電動ドリルの先端を泡だて器みたいにすればいいんだろ」

「そうだ。乳化が不完全だと卵黄が腐って食中毒の原因になるからな」

「それってうちの店でもできるかな?」


 ティーノも会話に入ってきた。


「客にすぐに出すなら問題ない。あんまり日数が経っちゃうと、混ぜ方によっては腐るから気をつけてな」

「わかりました」


 酢酸のペーハー値はリンスを作るときに測定しており、地球と変わりないのがわかっているので、マヨネーズの作り方として、材料の比率も同じで問題ないだろう。


「JIS規格だけじゃなくて、JAS規格も知っているのね。見直したわ」


 グレイスに褒められた。

 別にJIS規格だけしか知らないわけじゃないぞ。


「ところで、他所の異世界に転生したらマヨネーズを作ることはできるのかしらね?」

「する予定はあるのか?」

「だって、私もあなたも一度転生したのよ。二度目がないってなんで言えるの?」

「それもそうか。マヨネーズに関しては材料があるだけじゃだめだ。物理法則が一緒だったり、細菌が一緒だったりしないとな。酢酸に殺菌効果がない世界だったとしたら、サルモネラ菌で食中毒になるからな」

「卵の食中毒がサルモネラ菌っていうのも通用するかわからないけどね」

「それもそうか」


 尚、サルモネラ菌が付着してから、酢酸が殺菌するまでの時間内にマヨネーズを食べた場合、食中毒になることがあるそうですね。

 誰向けのコメントなのかわかりませんけど。

 そんなわけで、試しにティーノにマヨネーズを作ってもらう。

 撹拌は手で行い、乳化の状況を俺の【電子顕微鏡】スキルで確認する。


「よくできているな。完全に乳化している」


 そんなわけでマヨネーズを食べてみたが、前世の物と比べても遜色ない。


「これ、毎日食べたいわね」

「そうですわね」


 生粋の異世界人であるシルビアとオーリス、それにティーノにメガーヌも絶賛なので、商品化すれば売れること間違いなしだろうな。

 日持ちがするから、遠距離への輸送も可能だし。

 こうしてカイロン侯爵の領地でマヨネーズを作るという産業ができることになった。


 因みに、醤油は俺の分を残して、オッティとグレイスに渡してあげた。

 まだまだ仕込んであるので、無くなる前に連絡をくれたら、送ってあげることができる。

 この世界の輸送なので、確実じゃないけどね。



※作者の独り言

マヨネーズ作るのに何文字かけて説明しているんでしょうね。

まあ、そういう小説なんですけど。

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