第122話 比重1

 俺は今将軍の官邸にいる。

 そしてここに居るのは、将軍とギルド長とカイロン伯爵の四人だ。

 シルビアどころかクイントすら同席が許されない秘密の会合だ。


「国王からの極秘の依頼なんだが」


 将軍がそう切り出す。

 俺を含めた三人は、じっと将軍を見る。


「金細工師に純金を渡して王冠を作らせたのだが、どうやら王冠に金以外が使われている可能性があるというのだ」


 あれ、どこかで聞いた話だな。


「それで、その王冠の金の比率を確認できる者を探しているのだという。勿論王冠に金以外が混ざっていた場合は、国家の恥となるので極秘で進められているのだがな」

「それで俺ですか」


 俺がここに呼ばれた理由がわかった。


「一緒に王都に出向いて、王冠の鑑定をお願いしたい」

「いや、やめときます」

「何故?」


 俺が断ると、将軍がギロリと睨む。

 これは断れない命令ってことか。


「王冠が本物であれば問題ありません。しかし、偽物だった場合関わったものの命はないでしょう。私のいた世界に似たような話があります。国王の王冠に不純物が混じっていると見抜いた学者は、金細工師と一緒に処刑されてしまうのです。そして、王冠をなんとか純金にしたいと神に願った国王は、触れたものが純金になるという能力を神から授けられるのです。ところが、国王がバンバン金を産出するものだから、金の価格が大暴落してしまい、国民からは『物価を乱す王』と呼ばれます。後にそれが縮まって『みだす王』というお話になりました」


 たしかそうだよな?

 ロバの耳で、プリキュアと一緒に住んでいて、キュベレーを扱うニュータイプだったはずだ。


「そんな話があるのか。しかし、確かに国王の王冠が混じり物となると、その事実を消したいと思う可能性は否定できませんな」


 カイロン伯爵もわかってくれたようだ。


「というわけで、私は王都に行く事はしませんが、歩き目でする確認方法をお教えいたしましょう」

「「「歩き目でする?」」」


 この三人にもわかるように確認方法を説明する。


「物質には比重というものがあります。これは例えば同じ大きさの鉄と木では重さが違いますよねこれが比重です。体積にその比重を掛けたものが重量です。水を1としてその何倍かというものですね。今回は王冠ということなので、その体積は計算では求められません。そこでどうするかというと、天秤棒の片側に王冠を吊るして、反対側にそれと同じ重さの純金を吊るします。空中では同じ重さなので天秤棒は平らになりますが、それを水に沈めてみてください。不純物が混じっていれば王冠のほうが上に来ます。別々に水に入れて、零れた水の量を計測してもよいのですが、零れる水を正確に測るよりは、同時に水に入れたほうがわかりやすいでしょう」


 これで良かったはずだ。

 比重というのは工場でもよく使う。

 材料を発注する際には重量計算は必須だ。

 鉄、アルミ、ステンレス、銅などある程度は基本的な比重は頭に入っている。

 アルミ合金でもA5052とA7075では比重が違うから、単にアルミで覚えると違っちゃうけどね。


「ノウハウ売りでどうでしょう。国王にノウハウ売って、あとは誰かにやらせればノーリスクですよ」


 しかも、国王の覚えめでたくなるはずだ。

 ギルド長は黙って聞いているだけだが、将軍とカイロン伯爵はそうではない。

 どちらが国王に奏上するかで牽制しあっている。


「それで、アルトの予想だと王冠は純金だと思うかい?」


 ギルド長に訊かれた。


「まあ、そんな噂が出るってことは、金細工師がちょろまかした金で豪遊しているって事でしょうね。火の無いところに煙は立ちませんから。先に身柄を押さえた方がいいでしょうね」


 経験から来る推測だ。

 だか、会社で悪い噂の出た人間は殆んど噂のとおりであった。

 金遣いが荒くなるから簡単にばれちゃうんだよね。

 ギルド長と会話をしていたら、カイロン伯爵と将軍の間で話し合いが終わったらしい。

 結果は共同提案ということになると。

 そこが落としどころかな。


「ただし」

「ただし?」


 二人が俺を見る。


「失敗は許されないから、一緒にきてもらおうか」

「えー」


 という訳で、国王との謁見は無しで、王都のカイロン伯爵邸で待機することになってしまった。

 俺は少しでも関わるのは嫌だと言ったが、提案した時点で無関係とはいえない。

 失敗して怒った国王に拷問に掛けられたら、俺の事を喋ってしまうだろうと言われて、仕方なく二人と一緒に王都へと向かう。


 王都へと向かう馬車の中。

 俺は今回は重要な役割という事でカイロン伯爵の馬車に同乗させてもらえた。

 カイロン伯爵と将軍、俺にオーリスというメンバーである。

 危険な任務なのにオーリスも連れてくるのってどうなの?


「アルトと一緒なら、そこが一番安全だから」


 とはオーリス。

 どんなにチートなスキルを持っていても、俺だって寝る時はあるから、その時に襲われたらひとたまりもない。

 ストックホルム症候群みたいに、人質が見張りをしてくれるなら何とかなるけど。

 って、こうなると俺の設定をいじった方がいいのかな。


「神から遣わされた使徒ってことでどうかな?」


 カイロン伯爵からの提案だ。

 流石にそれはどうかと思うが、国王が手を出せないっていうとそれくらいの権力しかないよね。

 変装をどうしようかというのはあるのだが、国王が口封じをしようと思わないようにする為にも、カイロン伯爵の提案にのることにした。

 一週間後、将軍と伯爵が乗る馬車を襲撃する馬鹿は居なかったので、予定通りに王都に到着した。

 将軍は金細工師の身柄を押さえるため、ここからは別行動だ。

 伯爵も俺とオーリスを王都の邸宅に降ろすと、登城して王冠の不純物含有調査についての打ち合わせをしてくると言って出かけてしまった。


「時間もあるし、グランタの店に出も行ってみるかな」

「それはなんですの?」


 俺は前回王都に来た時に、エッセの弟子であるグランタに出会ったことをオーリスに教えた。

 ステンレスの加工という宿題を出したのだが、まだそれを持ってこないので、進み具合を確認してみようと思ったのだ。


「今回は王都にいるのを見られないほうがいいわよ。厄介ごとの種を自分で蒔くこともないじゃない」

「そうだね」


 俺はオーリスの言うように外出を控える事にした。



※作者の独り言

ミダス王はプリュギアの都市ペシヌスの王です。

プリキュアと一緒に住んでいる訳ではありません。

また、女神キュベレーの養子になっております。

プルツーとか、ハマーンは関係ありません。

というか、アルキメデスがアルキメデスの原理を発見したのは、シサクラの僭主ヒエロン2世の依頼を受けてのことです。

アルキメデスの親族だったのですね。

常識かとは思いますが、念のため。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る