第118話 プラットフォーム

「アルトさん、郵便です」

「はいはーい」


 俺が冒険者ギルドの相談窓口にいると、久しぶりに手紙が届いた。

 差出人は誰だろうか。

 受け取りのサインをして、手紙を受け取り差出人を確認する。


「水島か」


 フォルテ公爵の一件で、この国にいられなくなったオッティこと水島は隣国に逃げていた。

 そんな奴からの手紙は、無事に逃げ切ったとかそういう内容なんだろうな。


「えーっと、何だこりゃ!!!!」


 思わず大きな声を出してしまい、ロビーにいた冒険者がこちらを見る。

 恥ずかしい。

 気を取り直して手紙を読み直す。


「それはまずいだろ」


 思わず文面に突っ込みをいれた。

 何故ならば、水島は懲りずに隣国でプラントを建設したいというのだ。

 しかも製紙工場。

 理由はうるさい役所がないから、公害問題が起こらないだって。

 役所がないのと公害問題が起こらないのは別だぞ。


「何が、『異世界に来たら製紙は基本だよね』だよ。あれは現地のレベルで紙を作るってことであって、製紙工場を作るわけじゃないぞ。『外国のカジノで負けた分を会社のお金で補填しようとした御曹司が会社を追い出されて異世界に転移してこないかな』じゃねーよ。どこの王子様だよ」

「なにぶつぶつ言ってるのよ。みんなが気持ち悪がってるわよ」


 シルビアに話しかけられて現実に戻ってくることができた。

 危ない、危ない。


「危うく違う世界に行くところだったよ」

「次も転生したらどこに行くかわかったもんじゃないわよ」

「品質管理じゃなければどこでもいいよ」

「そう。じゃあ今は品質管理として仕事をしてね。商業ギルドのギルド長のシャレードが呼んでるわよ」

「シャレードが。なんでだ?」

「さあ?メッセンジャーが来たけど、あんたが手紙を見ながらぶつぶつ言ってて気が付かないもんだから、代わりに私が聞いてあげたら困りごとがあるから来てほしいと伝えてくれと言っていたわ。それ以上は何も」

「困りごとの相談なら行くか」


 冒険者ギルドの仕事ではないけどな。

 シャレードとはペール缶の初納入以来だな。

 その後の納入はエッセの工房にいる弟子達が行っている。

 それなので、俺がシャレードに会うことはなかったのだ。


 そんなわけで、場所は商業ギルドの応接室である。


「よく来てくれた」

「どんな用ですか?」

「実はな、以前から荷馬車が重量に耐えきれずに壊れるというのが慢性的に発生しているんだ。出発前ならまだいいが、途中でそうなってしまうと、商品もそこに置いてこなければならず、被害金額もかなりの物になる。それを取り返そうとまた無理な量を荷馬車に積んで行商にでるという悪循環があってな。実際年に何人かはそれで破産している」

「その対策を俺に考えて欲しいわけですね」

「ああ。何とかして荷馬車が壊れる重量を積まないようにしたいんだ」

「すぐには無理ですね」


 俺はそれがすぐには無理な理由を知っている。

 この世界には統一規格がない。

 つまり、荷馬車はそれを作成する工房によって大きさがばらばらなのだ。

 現代のトラックの最大積載量みたいなのをどうやって決められるというのだ。

 最大積載量は当然安全をみているから、それをちょっとでも上回れば壊れるというものではない。

 だからこそ過積載っていうのが起きるのだが。

 みんな安全を考えて、余裕代が設定されている。

 それがないのは残業時間くらいなもんだ。

 過労死ラインが80時間残業なのに、80時間残業を認めている事がおかしい。

 致死量1ミリグラムの毒を1ミリグラムまで飲んでいいとかありえないだろう。

 それが、残業については認められるのは間違っている。

 あれ、何の話だっけ?

 そう、安全マージンだ。

 その安全マージンを決めようにも、荷台がばらばらなので限界の見極めを荷台ごとにしなくてはならない。

 そして、その最大積載量を超えないように、すべての行商人が重量を計測してから積み込みというのは難しいだろう。

 だからこそのすぐには無理という発言だ。

 まずは荷台を統一したいな。

 そういえば、自動車もプラットフォームっていうのがあったな。

 車種のサイズでBプラットフォームだのCプラットフォームだの呼んでいる。

 メーカーによっても少し違うけど。

 できればこの世界でも共通のプラットフォームを作りたい。

 そうすれば、どこの街でも修理ができるだろう。

 荷台製作ギルドみたいのがあればいいんだけどな。


「ああ、それなら大丈夫だ。商業ギルドで仕様を決めて発注すればいいだけだろ。商人たちは商業ギルドから荷台や荷馬車を仕入れたらいいんだからな」

「それもそうか」

「で、統一規格ができたらどうすればいい?」

「そうですね。例えば1000キログラムの重量まで耐えられる荷台だったら、700キログラムまでを積載すると決めたらいいでしょう。それくらい余裕があれば大丈夫です。それと、過積載にはペナルティーでも与えますか」

「そこいらへんも考えておこう」


 商業ギルドは多国間にまたがる組織だ。

 そこが規格を作れば世界中に統一規格が広まっていくだろう。

 こうやって少しずつ他の製品でも統一規格が広がるといいな。

 できればネジを最初に広めたかったけど。



※作者の独り言

専用プラットフォーム以外は自動車工業会で統一してくれませんかね?

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