第103話 ペットボトルの作り方

「リンスが完成したわ」

「性能は申し分なかったの?」

「バッチリ、チリ足よ」

「そんな20世紀のギャグを言われましても……」


 リンスが完成したというので、グレイスからの呼び出しがあった。

 異世界転生の定番、リンス作りも簡単だな。

 異世界の石鹸のペーハー値が気になったが、地球と大差が無くて良かった。

 いよいよ販売か。


「じゃあ、これを売るから容器を用意して。ガラスだと割れるから、プラスチックでね」

「は?」

「だから、プラスチックの容器を用意して欲しいのよ」

「それは無理だ」

「なんでよ?」


 俺が無理と言ったら、グレイスは不機嫌になって、もろに表情に出た。


「合成樹脂が無い」

「何よそれ」

「簡単に言えば、石油からプラスチックを作るんだけど、そのプラントがここには存在しない。石油があるかもわからないけどな」


 プラスチックが世に出てからまだ100年とちょっとだ。

 特に身近なPETなんかになるとさらにその歴史は短い。

 そんなプラスチックが地球環境を破壊しているのだ。

 人類は地球から消滅させねばならない……




 別の作品になりそうなので、やめておこう。


「石油が無ければ、石炭を使えばいいじゃない」

「何ーアントワネットだよ。容器は陶器や竹みたいな植物、それと動物の胃や腸しかないぞ」

「プラスチックをどうにかして作り出せない?」


 上目遣いでお願いされても、出来ないものは出来ない。

 一般に身の回りにある合成樹脂は、熱可塑性樹脂というものだ。

 ガラス転移温度または融点まで加熱することによって軟らかくなり、目的の形に成形できる樹脂のことであり、成形機の中でペレットと呼ばれる材料をドロドロに溶かして金型に射出することで成形する。

 PEポリエチレン、PPポリプロピレン、PVC(ポリ塩化ビニル)といった汎用プラスチックから、エンジニアリングプラスチックのPA(ポリアミド、ナイロン)、POM(ポリアセタール、ジュラコン)、PCポリカーボネート、PETポリエチレンテレフタレートその他多くの種類があるのだ。

 さらにはそれらを成形する金型や設備が必要となる。

 金型はノウハウの塊で、ゲートの位置や固定側稼働側の設計、ウェルドの場所まで同じ製品でも金型は違ってくることがある。

 簡単にお願いされても無理なものは無理だ。

 因みに、ジュースや化粧品のペットボトルはブロー成形という工法で作られている。

 単純に溶けた樹脂を固めるのではなく、ガラス工芸品を作る時みたいに、空気を入れて樹脂を膨らまして成形するのである。

 ペットボトルの両脇に縦に筋が走っているのはPLパーティングラインだ。

 金型の合わせ目が製品に反転して出来ている筋である。

 それに、ボトルのキャップもあんなに細いつなぎ目を成形するのは難しい。

 手で回して破断する程度にはくっついているという製品をこの時代でつくれるとは思えない。

 ついでに言うと、ボトルの表面の文字の印刷や、表面についているフィルムの印字も大変なんだぞ。

 曲面になったときに読めるように、通常の文字とは少し違うフォントになっている。

 そんな技術の塊のペットボトルですが、季節ごとに新商品投入されると、ボトルのデザインも変わってくるので、各部品製造メーカーは大変なのです。

 本型作るのにどれだけ時間が掛かると思っているんだ。

 ブロー成形の金型なんて、一発でうまくいかずに、粘土で調整していくんだぞ!

 そんなわけでジュースの新製品のペットボトルを見て、色々な製造工程に思いを馳せてみてください。

 いろんな会社の人達の苦労の結晶です。


「そんなこと言われてもわかんないわよ」


 グレイスが興味なさそうに言う。

 _| ̄|○


「ガラス瓶でいいわ」

「そうだね」


 デボネアにお願いしてガラス瓶を作ってくれる工房を紹介してもらった。


※作者の独り言

ペットボトルの金型用の材料を削ったら、削らなかったところに傷があって、材料商社と金型メーカーが大げんかしていましたのを見ました。

喧嘩しても時間が無くなるだけやぞ!

そのペットボトルを使ったジュースの新製品が世に出た時は、涙でしょっぱい味がしました。

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