第96話 納期回答忘れも不具合です

新規の開発プロジェクトが炎上しており、リーマンショック級の不景気が来て、開発凍結されないかなと、毎日祈っております。

そんな精神状態の作者がおくる品質管理ファンタジー。

それでは本編いってみましょう。



「すいません、相談にのってもらえますか」


 俺はエッセに呼ばれて、彼の工房に来ている。

 相談と謂うのは、納期回答を忘れて、客を怒らせてしまったことだ。


「ステンレスのグラスを特注品で受けたのですが、アルトに材料を頼んでから、納期回答をしようと思っていたら忘れてしまって。いつになっても連絡が来ないので、怒鳴り込んできたんです」

「成程ねぇ」


 前世でもあったな。

 受注生産品で、納期回答をしなければならないのだが、とある部品の入手が困難で、仕入れ先と交渉していたが、客先に納期回答を忘れてしまったことが。

 向こうの購買担当者がカンカンで、対策書を書けと言われて困った。

 そんなもん、品質管理の仕事じゃないだろと言いたかったが、対策書の書式がそれしかないと謂うので、俺が対策を書くことになったのだ。

 納期回答なんて、ポカヨケは作れないし、そもそも管理工程図やFMEAもないので、すごく困った。

 一応なぜなぜ分析はしてみたが、忘れることにたいしての対策なんて無理だろう。

 そうは言っても、エッセも困っているようだし、相談にはのってみるが。


「それで、ついナディアにきつく当たってしまい、実家に帰られてしまいました」

「いくら仕事で上手くいかないからって、他人に当たるのは良くないな」

「反省してます」


 そう言って肩を落とすエッセ。

 仕事を家庭に持ち込んじゃいかんよ。

 前世も独身だった俺にはわからんけどな。

 さて、そういうことなら、早いところ納期回答忘れの対策を考えていこう。

 ナディアを迎えに行くのが遅くなるといけない。


「まず、どうして納期回答を忘れたんだ?」

「材料を仕入れてからと思ってたので、アルトが旅に出てたりしたら作れませんからね」

「でも、俺の所には来なかったよね」

「ホーマーとウェルドナットの使い道について議論していたら熱くなって、材料の事を忘れてしまったんです」

「どこかにメモはなかったのかい?」

「ナディアが受注台帳につけてましたが、材料は俺が手配することになっているので、彼女も俺が手配したと思ってました。それで、『何で俺に確認しないんだ!』って怒鳴って喧嘩に…」


 ありがちだなー。

 いや、感心している場合じゃない。

 忘れることは人間誰しもある。

 それを無くすことなど、プリオンで遺伝子を書き換えるくらいしかないんじゃないかな。

 なので、忘れることを無くすのではなく、忘れても思い出す仕組みを作りたいと思う。

 シンプルに受注掲示板でいいか。

 受注した仕事を納期順に貼っていく掲示板だ。

 試作の生産管理を担当していたときは、これが役に立った。

 パソコンで管理するよりも、情報を共有しやすく、異常も目につきやすい。

 納期を過ぎた仕事は一発でわかる。

 対策の内容が決まったので、工房にある材料を使って掲示板の作成に取り掛かった。

 納期遅れ、納期回答待ちの枠と、納期までの日数ごとの枠がある掲示板を作り、そこに受注した仕事の内容を書いた紙を貼るようにした。

 勿論依頼主と納期も書くようにする。

 こうすれば納期未定で、納期回答していない仕事も一目瞭然だ。


「これなら忘れることはないだろう」

「はい。最初からこれがあれば喧嘩にもならずに済みました」


 エッセは掲示板に貼り出した受注状況を見ながら、俺に感謝の意を示す。


「じゃあ、早くナディアを迎えに行ってやれよ」

「はい」

「その必要は無いわ」


 工房の外に出ようとしたエッセにそう言ったのはシルビアだ。


「何故ここに?」


 俺は突然現れたシルビアに訊いた。


「ナディアがアルトに相談しようと冒険者ギルドに来たのよ」

「ナディア……」


 シルビアの説明を聞いて涙ぐむエッセ。


「割れ鍋に綴じ蓋か」

「なによそれ」


 うっかり前世のことわざを口にしてしまったが、シルビアには当然伝わらなかった。


「お似合いの夫婦だって事だよ」

「そうね」


 シルビアは納得してくれた。


「私だったら文句言われたら、その場でぶん殴って謝らせてるわね」


 そんな綴じ蓋をもらう度胸のある割れ鍋があるといいですねー。



 後日、エッセの工房が受注管理掲示板を商品として発売して、それなりに売れているという話を聞き、自分で売り出せば良かったと後悔するのであった。



※作者の独り言

納期回答忘れで対策書を書かされる身にもなって欲しい。

「対策は品質管理の仕事だから」じゃねーよ。

そんなもんにポカヨケなんか設置できるかーっっっ!!!

まあ、できないことはないんですけどね。

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