第88話 何故失敗しないのでしょうか?

「どうしてこうなった……」


 俺は冒険者ギルドの相談窓口でコーヒーを飲みながら呟いた。

 俺の悩みは、転生した世界に不具合が多すぎるということだ。

 前世で読んだ異世界転生小説は、現代の知識を持った主人公が、異世界で色々なものを作って社会を発展させていく。

 それは薬だったり、シャンプーだったり、紙だったり、火薬だったりする。

 その製法を異世界の人達に伝えるのだが、異世界の人達も教えてもらった製法で失敗することがないのだ。

 俺の転生した世界なんてロットアウトが常にあるぞ。

 俺のいる冒険者ギルドだけでも色々と不具合があるのに、水島の方など設計不良だって出ているっぽい。

 なんて人間臭い世界にきてしまったのだろうか。

 失敗しない人達ばかりの世界に転生していたら、品質管理の仕事なんて凄く楽だったろうな。

 メッキの話とか読んでいると、作者はメッキの不良率知ってて書いているのかなとか、脱脂工程無しでいきなりやっちゃうのとか、そんなことが気になったなー。

 まあ、ここでも客先に謝りに行く事がないから、それだけでも楽になっているのだけれども。

 文句ついでに言わせてもらえば、異世界転生小説に、ちょい役でも品質管理が出てこないじゃないか。

 いらないのか?

 その世界には品質管理はいらないのか?

 お前のスキルで作った野菜も武器もばらつきは無いのか?

 ばらつき無いと工程能力の計算できないけど、本当にいいのか?

 それとも、品質保証だったらいいのか?

 それはそれで面倒だけど。


 いや、そこまで品質管理の仕事にプライドがあったりとかするわけじゃないんだけど、社会が発展していく過程でどうしても品質管理は必要になってくるんじゃないかと思うんですよね。

 それが理解されたのが大企業で昭和。

 中小企業だと平成が終わっても、「品質管理は金を生まない」って経営者がいるからなんともいえないけど。

 日本でも不具合出たから選別にこいって言ったら「選別は見積もりに入ってません」って言い切る会社があったりして、令和になっても人類は進化しないから、もうアクシズ落としちゃおうぜって思ったりしたもんだ。

 話が逸れましたね。

 きっと異世界に転生してチートスキルを持つと、不具合なんて出ない方法を考えつくんでしょうね。

 FMEAで1点になるような素晴らしいスキルで溢れているんだと思います。


「アルト、疲れている?」


 シルビアが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 ついつい考え事に集中して周りが見えなくなっていたようだな。


「いや、大丈夫だ」

「そう。無理はしないでね」

「ありがとう」


 そう言って、カップに残っていたコーヒーを飲み干す。


「すいません、相談にのっていただきたいのですが」

「はいなんでしょうか」


 そうして今日も俺の相談窓口は新人冒険者がやってくるのであった。



※作者の独り言

前世のネットで見た知識だけで、良品がつくれる主人公凄いですよね。

そういう能力がある人はぜひとも弊社に就職していただきたい。

様々な小説投稿サイトを見ても、異世界転生品質問題を扱っているのは拙著だけ。

品質問題について延々と語る異世界転生小説とか、沢山あっても困りますがな。

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