第68話 直置き禁止の理由

俺の中での北欧神話では、エルフからアトラスとタイタンが生まれたのです。

というネタをわかってくれると、導入部分が理解できると思います。

それでは本編いってみましょう。



 前回までのあらすじ。

 プレアデスとはスバルの事であり、ギリシャ神話に登場する7姉妹の事であると知ったアルト。

 だが、7姉妹の一人であるアルシオーネはアトラスの娘と知り、だったら親は別会社じゃねーかと思ったら、アトラスも実は耳長妖精からのOEMだったりして、ギリシャ神話の体系を見直すべきだとの結論に至った。

 いっその事、オリオンという名前の車を作って、後ろから追突してやれば、ストーカーのオリオンそのままだろうという考えももたげたが、流石にそれは不味いと自重するのであった。


「と云う夢を見たんだ」

「ギリシャ神話がなんだかわかりませんわ」


 俺が見た夢をオーリスに話したが、ギリシャ神話の事を知らないので、残念ながら伝わらなかった。

 異世界にオリオン座もプレアデス星団も存在しないからしかたないな。

 さて、場所はいつもの相談窓口だ。

 今日も客が来ないので、俺はオーリスと喋って時間を潰している。

 そこにシルビアがやって来た。


「厨房でブレイドが怒鳴っていたわ。今日は肉料理は無しね。仕入れた肉にゴミが付いて汚れているから、売り物にならないって」

「購入した肉が汚れていて、食材が足りずに肉料理の販売中止?」

「そうなのよ」


 肉食女子ことシルビアが、冒険者ギルドの食堂で肉料理が販売中止になったことを教えてくれた。

 肉食女子の使い方はあっているよな?


「仕事の時間かな?」

「そうね」


 誰に呼ばれたわけでもないが、まあ俺の出番だろうと厨房に向かった。

 確かに顔を真っ赤にしたブレイドが怒鳴っている。


「早く仕入れ業者を呼んでこい!」

「はい」


 ブレイドに怒鳴られ、料理人の一人が慌てて厨房を飛び出した。

 どんな状況なんだろうか、まずは聞き取りだな。


「ブレイド、話はシルビアから聞いた。状況を教えて欲しい」

「アルトか、酷いもんだぜ。これを見てくれ」


 ブレイドが指をさした先にある箱には肉が入っているのだが、砂利まみれになっている。

 食い物の扱いじゃないな。


「こりゃ酷いな」

「そうだろ、犬の餌にもならねーぞ」

「買った時からこうだったのか?」

「ああ。肉の入った箱が段に重なっていたのを上からどかしていったら、こんなザマだよ」

「上にあった箱を見せてもらえるかい?」

「そっちのやつだ」


 上にあった箱を見るには訳がある。

 前世でもコンタミには散々悩まされた。

 上の箱の底に付いたコンタミが、下の箱に落ちるというのはかなりの確率で発生していた。

 だからこそ、箱を床に直置きするのは禁止されていたのだ。

 箱は常にパレットや台車の上に置くよう教育される。

 そして、パレットや台車に乗るのは禁止だ。

 なぜなら、靴の裏のコンタミがそれらに付着して、結局箱の底に付く原因となるからだ。

 まあ、常識だと思っていた、とある車両メーカーに選別に行った時に


「邪魔だからパレットの上にいろ!」


 ってフォークマンに怒られた時は、どうしたらいいのか悩んだものだ。

 結局指示に従ってパレットの上に安全靴で乗りましたが。


「おっ!」


 箱の底を見るとやはり汚れている。

 コンタミの侵入経路はここだろうな。

 ではどこでこいつがコンタミを拾ったかだな。

 納入時には段重ねになっていたというのなら、やはり納入業者から前の工程を確認するべきだろうな。


「ブレイド、俺達も納入業者の所に行こう」

「俺もか?」

「そうだよ。自分の目で見なくてどうする」

「あ、ああ。そうだな」


 ブレイドを無理やり連れ出す。

 自分の目で確認しなくてどうする。

 いつでも俺に頼れると思うなよ。

 なんでも品質管理に頼る班長のようにはさせないぞ。

 それに、前工程の不具合は、発生現場を押さえないと、なんだかんだと言い逃れされて、真因の対策が出来ないことが多い。

 特にコンタミや傷に関しては、自分のところでは無かったと言い張られると、調査が暗礁に乗り上げてしまうのだ。

 品質管理からしたら、無かったと言わずに、こういうように保証していると回答して欲しい。


 そうしてやって来たのは食肉卸の問屋である。

 既に苦情を言いに来た料理人がいたので、話は伝わっているようである。

 対応するのは経営者のイオンである。


「ブレイドさん、うちの肉が汚れていたなんてあるわけ無いでしょう」


 イオンは最初から否定する。


「汚れていたのは事実だ。よくあんなもんを売れるな」

「言いがかりだ」

「まあまあ」


 二人がヒートアップしてきたので、俺が仲裁した。

 まずは事実の確認をしてみようじゃないか。


「ちょっと肉の在庫を見せてもらえますか?」

「ああいいぞ。疑うなら何でも見てくれ。うちで肉にゴミを落とすやつなんていねーよ」


 イオンの許可をとって店の奥へと入る。

 そこでは仕入れた肉を切り分ける作業をしていた。

 箱は直置きされている様子は無いな。

 暫く観察していたが、特に箱の底にコンタミを付着させるような事は見当たらなかった。


「箱の底についたゴミが、箱を重ねた時に下に落ちたんだと思っていたけど、ここではそんな状況になっていなかったのかな?」

「だから言ったろ」


 俺が見る限り、ここの作業者は問題がない。

 イオンも当然だという態度だ。


 だとすると、ここと厨房の間の運搬で落下させたかと考えていたら、若い男が一人作業場へとやってきた。

 今までいなかったので、別の場所でなにかしらの仕事をしていたのだろう。

 彼の作業を見ていると、仕分けの終わった箱を直置きしている。


「彼は?」


 俺はイオンに訊いた。


「彼奴はグレンジャーっていうんだ。最近雇ったばかりだよ」

「見ていると、箱を床に直置きしていますね」

「何?」


 イオンもグレンジャーが箱を直置きしているのを知らなかったようだ。


「これで発生原因が特定出来ましたね」

「やっぱりお前んところじゃねーかよ」


 ブレイドはイオンを睨む。


「なんてこった。すまなかったな」


 現場を押さえられたイオンは、流石に言い訳も出来ずに、こちらに謝ってくれた。

 まあ、謝罪もしてもらいたいが、まずはグレンジャーの作業を止めないとな。


「ストップ、グレンジャーはその作業を止めてくれ」

「何で?」


 俺が呼びかけると、グレンジャーは手を止めてこちらを向いた。


「箱を床に直置きしちゃいけないって教えられなかった?」

「あー、そういえば初日に言われたかも」

「言われたかもじゃねーよ。お前のせいでお客様にご迷惑をおかけしただろ!」


 イオンが怒鳴る。

 その気持もわからなくもないが、新人作業者の観察を怠ったあなたにも過失はあると思いますよ。

 口には出さないけど。


「新人作業者は一度教えて終わりではなく、教えたことが出来ているか観察するべきでしょうね。それと、床を定期的に清掃した方がいい」

「そうするよ」


 イオンにアドバイスをして、代替品の肉を受け取り冒険者ギルドへと戻る。


「ブレイド、厨房でも直置きは禁止にしてくださいね」

「そうだな。自分のところでもゴミを混入させる可能性があることが判ったし、料理人達に徹底させるよ」

「ところで、汚れた肉はどうするの?」


 シルビアがブレイドに訊いた。

 NG品の隔離に気が向くとは成長したな。


「あれは客に出せないから捨てるよ」

「じゃあ、私に貰えるかしら?」

「いいけど、食えないぜ」

「外側の汚れた部分を切り落とせば大丈夫よ。しっかり焼くし」


 なんだ、隔離する訳じゃないのか。

 というか、もったいないのはわかるけど、それはどうなんだ?


 その後、シルビアに強引に誘われて、二人で肉を焼いて食べました。

 美味しかったです。

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