第67話 引退は辛いものです。主に残された者たちが
「本村が引退」
「はぁ?誰よ本村って。トッポが引退するのよ」
俺がスターレットと一緒にティーノとメガーヌが経営するレストランでおでんを食べていると、後からやって来たシルビアが、冒険者ギルドの古株であるトッポが引退すると教えてくれた。
トッポはとっぽい人ではない、念の為。
彼のジョブはよくわからないが、冒険者ギルドの雑用の殆どをやってくれている。
雑用というが、長い間蓄積された経験が無いと出来ないことばかりだ。
ギルド長の退官、就任の儀式とか、フロアボス討伐達成の儀式とか、普段あまり行われない事でも、彼に聞けば大丈夫という共通認識がある。
非常に重要なポジションだ。
この世界には定年という概念がないので、何歳まででも健康であれば働くことが出来る。
年金がないので、当然と言えば当然だ。
トッポはどこかに病気を抱えていたというわけでもないし、近所に差し入れたアジの押し寿司に骨が残っていて、老眼だから引退しようとかでも無いはずだ。
だいいち、ここにはアジの押し寿司が無い。
因みに本村ではなく、町村って苗字の彼女が出てくる。
本村はバイクで牡蠣を伊勢まで取りに行く方だ。
何が?
「それがね、トッポもいい年だから、動けなくなる前に奥さんと一緒に世界を旅行してみたいんですって」
「街道を通ったとしても、モンスターや盗賊の危険もあるし、今のうちにって事か」
旅は危険を伴う。
前世のようにちょいとソマリアの海賊を見に行こうという訳にはいかないのだ。
前世でも、それはちょいとできないか。
「その人の人生だからいいんじゃないか」
「それはそうなんだけど、今冒険者ギルドで一番長いのがトッポでしょ。彼しか知らない事も沢山あると思うのよ。いなくなったら大変よ。誰もわからないんだから」
「どうして、誰も知らないんですか?引き継ぎはされるべきでしょう」
スターレットが正論をぶつけてきた。
全くもってそのとおりなのだが、世の中正論だけではない。
どんな大企業であっても、その人がいなければどうにもならない事っていうのがあるのだ。
誰がいなくなっても問題のない組織づくりなど幻想だ。
まあ、そういう「この人じゃなきゃ」っていうのが、横領とか癒着の原因になっているのも事実だが。
「スターレット、そうは言うが中々全部を引き継ぐなんて難しいんだよ。トッポの場合は40年以上の経験の積み重ねがあるからね。それを一ヶ月やそこらで教えられるわけがないんだ」
「それはそうなんだけど、私たち冒険者にしわ寄せが来るじゃない」
これもよくある。
じゃあ、予備の人員を配置して、二人が同じ事を出来るようにしたとしよう。
当然人件費は二倍となる。
その分冒険者ギルドの運営費が上がって、成功報酬が減ってもいいのかといえば、みんな反対するだろうな。
今の人員でやろうとすれば、既存の仕事を抱えたまま、誰かの仕事を覚えなければならない事になる。
理想と現実は乖離しているのだよ。
「定期的に配置換えするか」
「それは無理よ。適正ジョブのない仕事に従事するなんて、非効率もいいところだわ」
シルビアに指摘されて思い出したが、ここはジョブが決まっているから、受付から料理人とかありえないんだよな。
現実世界でもほぼあり得ないが。
そんなのリストラされる対象者だぞ。
役所などでは、癒着防止のために大きな部署替えやってますが。
最低限の人員で組織を運営するなど、どこかしらに無理がかかる。
それに加えて働き方改革だの、残業制限だのあったらどうしたらいいのかわからない。
不良の対策もできていないのに、顧客に対して
「残業時間が上限に達したので帰ります」
とも言えないだろう。
言うけどさ。
バブル崩壊後の組織スリム化の影響がこんなところにも出ているんだぞ。
ええ、ここにはバブル崩壊無かったですけど。
「アルトが解決方法を見つけられないなんて珍しいわね」
「初めてかも」
シルビアとスターレットに言われる。
QCサークルでも、自分達で解決できないような大きな案件は手を出すなってあったろう。
人員不足からくる引き継ぎ出来ない状況なんて、ボトムアップで解決などできないぞ。
漫画編集部が人類を裏から操る組織と戦うようなもんですよ、キバヤシさん。
「そういえばトッポの代わりに人材を入れる予定ってあるの?」
「募集するみたいね。でも……」
「でも?」
気になるところで止めないで欲しい。
「シルビアさん、そこで止めないでください」
「スターレットの言う通りだ」
「ごめんごめん。なんかミゼットを後任にしようとしているのよね。まだジョブも判明していないのに、彼女に決めてもいいのかなって」
「「あー」」
これもありがちな。
適正も考えずに、後任に指名しちゃうのなんてかなりあるよね。
俺だってなんの研修も、適性も確認しないまま品質管理にされたんだぞ。
「おでんが冷めちゃうから、食べようか」
なんか嫌なことを思い出しそうだったので、仕事の事は忘れようと、目の前のおでんを食べることにした。
ついでに昼からお酒を飲みました。
※作者の独り言
小説ではなく、俺の愚痴で終わってしまった。
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