第58話 おでん鍋をつくろう

これを書いている最中に(仕事の合間ですが)、外国で作った部品の受入検査をしております。

成績書がいい加減すぎてやばい。

こちらの測定結果とのズレが大きすぎて、測定機が故障しているのか、嘘を書いているのか悩むレベル。

多分測定しないで数値だけ書いたのだと思います。

これが通ると思っているのか?

品質偽装するなら、もっと上手くやってくれと思います。

偽装しちゃいけませんが。

それでは本編いってみましょう。



 前回までのあらすじ。

 【品質偽装】スキルを使用して、将軍に不良品を納品したアルトは、長年の組織ぐるみの品質偽装が発覚し、第三者委員会の取り調べを受けていた。

 上司からの度重なるプレッシャーから、納期を守るため品質偽装に手を染めたと自白したが、第三者委員会の報告書では、何故か上司からのという文言が削除されている。

 記者会見の矢面に立たされたアルトがとった行動は……






「なんて夢だ……」


 ろくでもない夢を見たもんだ。

 やはり品質偽装は良くないな。

 繰り返しているうちに気にならなくなるのだろうけど。

 そういえば、前世でもよく見たな。

 よく見るのもどうかと思うが。

 受入検査の有無を聞いてくる奴は大体不良を誤魔化そうとしている。

 敢えて、受入検査は無いと伝えて、実は受入検査をすると、検査報告書と寸法が違う事が高い確率であったな。

 セニックではないが、人間後ろめたさがあると、つい口に出てしまうものだ。

 受入検査は常に詐欺師との戦いだと思って臨んだほうがいい。

 全てを信用すると、後々ひどい目に遭うからな。

 できれば、納入業者の品質担当者を呼んで、立会検査をするようにしたい。

 相手の一挙手一投足を見ながら、嘘がないかをじっくりと観察する。

 こうして、本当に問題がないのかを確認して、初めて安心して受け入れできるというわけだ。

 うん、常に人を疑うのだから、性格も悪くなるよな。

 やはり品管なんてなるもんじゃない。


「そういえば、今日はおでん鍋をつくる日だったな」


 俺はおでん鍋をこの世界に広めるべく、デボネアとエッセを巻き込んでおでん鍋を作ろうと思ったのだ。

 酒が残ってだるい体にムチを打ち、デボネアの工房へと向かう。

 辿り着いた工房には既に二人がいた。

 更に二人、シルビアとオーリスがいる。

 呼んだっけ?


「遅いわよ」

「そうですわ」

「呼んだ?」

「いいえ、美味しい料理をつくる為の鍋をつくるというから、抜け駆けされないためにも監視しに来たのよ」


 なんて理屈だ。

 まあいい。

 早速鍋を作ろう。

 まずは用意した銅板を焼きなましする。

 これによって、銅板が柔らかくなり、加工しやすくなるのだ。

 そしてハサミで銅板の四隅を切る。



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 ※黒い四角を切るイメージです。


 このとき爪を作っておくのがポイントだ、理由は後ほど。

 四隅を切り終わったら、切れ目に合わせて銅板を折り曲げると鍋の形ができる。

 このままでは汁が溢れてしまうので、合わせ目の爪を叩いて伸ばして形を整える。

 その上で、継ぎ目にホウ砂に錫と銅を混ぜて、水で溶かしたものを塗る。

 まあ、パテ埋めだと思ってくれたらいい。

 こいつを火で炙ると、ホウ砂が溶けて錫と銅が合わさって真鍮となるのだ。

 これを酸洗いして綺麗にすれば鍋の出来上がりだ。

 ただ、ここからさらに叩いて整形していく。

 叩くと加工硬化するため、やり直しがきかないので、ここからはデボネアにお願いする。

 おでん鍋なので真四角に仕上げてもらう。


「どうじゃ?」

「完璧だ」


 デボネアが叩いて整形してくれた鍋は見事だ。

 それに把手をつけて完成となる。

 前世のおでん鍋と比べても引けを取らない。

 念の為気密検査を行い、漏れがないことを確認しておく。

 気密検査と謂っても、水を張った桶に鍋をひっくり返して沈めるだけだ。

 気泡が上がってこなければ合格である。


「気泡は見えないから、四隅はきっちり埋まっているな」


 おでん鍋は中華鍋と違い、この時代の文明で十分作成が可能だ。

 ただ、おでん鍋というものを知らないから作ってないだけなのである。

 これなら、各地の工房でつくることが可能だな。


 後は料理するだけだ。


「昆布と醤油が欲しいんだが」

「昆布と醤油?」


 シルビアが不思議そうな顔をする。

 ステラは内陸の都市なので昆布入手できないのか、それとも存在しないのか。

 醤油もあるのか判らない。

 魚醤なら作れそうだな。

 内陸だから難しいだろうけど。

 昆布だしがなくても鶏ガラなどで出汁はいいのかも知れないが、それだけでいいのだろうか?


「結局ティーノのお店に行くんでしょ」


 とシルビアに指摘された。

 全くもってそのとおりだ。

 料理は詳しくないので、結局ティーノとメガーヌに頼ることにした。

 俺がなんとなく覚えているおでんの作り方を伝えて、それを再現してもらう。


「さあ、出来たわよ」


 メガーヌが出来たばかりのおでんを持ってきてくれた。

 大根とたまごと牛すじである。

 ちくわやはんぺんは流石に無理だが、これから色々な食材が追加されていく事だろう。

 ティーノとメガーヌに期待だな。


 おでんは美味しかったです。



※作者の独り言

おでんの歴史をみてみると、四角い鍋が出来たのは近世ですかね?

作り方と材料を見ていると、中世でも十分に作成可能なので、作ってみようと思いました。

おでん鍋の気密検査をしているのかは知りません。

工場でつくるのであれば、常識的に考えてやっていると思います。

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