第25話 CSCC作成

 新しい冒険者ギルドが露骨に仕掛けてきた事を踏まえ、俺はギルド長にコンポーネントサプライチェーンチャートの作成を提案した。

 サプライヤー及びサブサプライヤーを可視化して、品質管理をすべき場所を明確にするのだ。

 コンポーネントサプライチェーンチャート、略してCSCCだ。

 でも、この言い方って某車両メーカーしか使ってないよね?

 まあそれはいいか。

 これで防衛するべき人と業者が見えてくるだろう。

 品質管理に加えて、災害時などに問題がないか確認しやすくなるという利点がある。

 前回の事でいえば、デボネアさんが仕入れていたソレント商会があり、更にその先のインゴットを製造している人がいるのだ。

 それら全てが防衛対象となる。

 さらにいえば、食堂の食材やポーションの原料、宿で使っている家具など、全てが対象になってくる。


「各部門に提出させるようにするよ」

「よろしくお願いいたします」


 このCSCCを作成するだけでも大変なのに、さらにこれに変化があった場合に届け出をさせようとすると、仕入れ業者の負担が跳ね上がる。

 変化点管理という考え方からしたら、当然管理すべき項目なのだが、まだこの世界には早いか。

 いつか来る産業革命、大量生産大量消費時代のために、今の知識をどこかに書いておきたいな。

 そうだ、品質管理の教科書を作ろう。

 そのうち俺みたいに品質管理のジョブを神から与えられる者が出てきた時に役立つだろう。

 時代が進み、文明レベルが上がれば、きっと品質管理とか品質保証のジョブだって増えるはずだ。

 この世界でやるべき事がはっきり見えた気がするな。


 俺の人生の目的が見つかってから1週間後、CSCCも出揃った。

 サプライヤーに確認するべきことを決めて、ギルド長を始めとした幹部と俺、シルビアで手分けをしてサプライヤーを回ることにした。

 監査と云うと大げさだが、相手の冒険者ギルドから勧誘や妨害を受けていないかを確認し、受けた場合の相談窓口がこちらのギルド長であると伝える。

 その他にも経営状態の確認だな。

 倒産しそうだったり、夜逃げしそうな奴は品質を無視して、目の前の金に走るから注意だ。

 そうして遠方を除いて、末端まで手分けをして訪問した。

 相手も最初は怪訝そうな顔をしていたが、新しい冒険者ギルドが怪しい動きをしていると伝えると、思うところがあったようで、皆話を真剣に聞いてくれた。

 この世界の人達は素直でいいな。

 前世では、サブサプライヤーの監査なんていうと、ものすごく敵視されて、非協力的なところが多かったぞ。

 監査拒否のメーカーも中にはあって、顧客に提出する資料の作成に困った事も何度もあった。

 サプライチェーンの管理なんて、大企業の考え方であって、Tier2、Tier3メーカーには無理だ。

 それをしようと思うなら、部品の管理費をもっと上げて欲しい。

 それだけ管理しても不良は無くならないし、完成車両の不良だって根絶出来ていないではないか。

 いや、俺が転生してから時間も経っているし、今頃地球ではリコールも無くなっているかも知れない。

 お飾りだった品質目標の流出不良0件が、全ての会社で達成される世界がきっと訪れているはずだ。

 設計不良で外れたタイヤが直撃して死ぬ親子はもういないし、無資格検査で出荷される車両もない。

 燃費は偽装されずに、破裂したエアバッグで死亡する人もいなくなっている。

 作業者のコスプレをして仮釈放される経営者も、追い出した会長同様に金のことで不正をしていた社長もいないんだ。

 最後のは品質関係ないな。


「これでなんとか防衛体制が整ったわね」


 シルビアが微笑む。

 思えば彼女も最初にあった頃から比べると丸くなったよな。


「そうだね。ここからは反撃だ。やられたらやり返す、三倍返しだ!」


 言ってみたかっただけです。

 しかし、品質管理はいやだいやだと言いながら、今世でもどっぷりと品質管理の仕事をしているなー。

 しかも、人生の目的が品質管理の教科書づくりだからな。

 品質管理の話しが脱線して、愚痴になってしまいました。



※作者の独り言

2019年秋に、とある車両メーカーのサプライヤー(部品メーカー)が台風でやられて、工場の稼働停止が発表されましたね。

2019年11月現在、今回の台風で水没した設備、金型、製品がどの程度使い物になるのかを検証しておりますが……

と、なろうに投稿したときリアルタイムでありました。

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