第17話 同病相憐れむ
今日も俺の相談窓口は暇で、朝からコーヒーを飲みつつ、冒険者ギルドの中を眺めるだけで時間を潰している。
俺の仕事なんて無いほうがいいに決まっているのだが、暇というのもこれはこれで辛い。
冒険者ギルド内で、いくつかの不具合対策をしたおかげで、前みたいに給料泥棒とか言われるような事が無くなったのが救いだ。
朝のクエスト受付が終わり、人がまばらになった冒険者ギルド内は、変化が少なく見ているのにも飽きたので、今日のお昼は何を食べようかと考えていた時、ギルド長が俺のところにきた。
「仕事ですか」
「そうなんだが……」
ギルド長は少し歯切れが悪い。
「その口ぶりだとかなり難しい内容ですね」
こう云う事は前世でもあった。
上司が難しい顔をして、言い淀む時はろくでもないことが多い。
というか、それしかない。
「――実は」
そう言ってギルド長が話し始めた仕事の内容は、やはりとても難しいものであった。
ギルド長の昔の仲間の子供が、最近冒険者となってステラの迷宮に潜っているらしいのだが、その子は冒険に適したジョブではないのに、父親に憧れていて、父親と同じ剣士として冒険者の仕事をしているというのだ。
子供のジョブは運搬人であり、それなら他の冒険者とパーティーを組めるのだが、彼はそれが嫌だと頑なに剣で戦う事を主張して、ソロで冒険をしているというのだ。
「彼の父親に自分がもしも冒険で命を落としたら、息子の事を頼むと言われていてね。成人するまでは資金的な援助をしていたのだけど、冒険者になってソロで迷宮に潜っているのが心配でね、同じように冒険者の適正ジョブがないアルトに、彼を説得してもらえないかと思っているんだ」
これは難しい。
品質管理と全く関係ないし。
話を聞けば、俺よりは恵まれたジョブなので、父親に対する憧れをなんとか変えさせて、運搬人として生きていこうと思わせればクエスト達成だな。
ソロで迷宮に潜る冒険者もいないわけではない。
ただ、今生き残っているソロ冒険者達は皆ベテランだ。
銅等級以上が殆どである。
その理由は簡単で、ソロだと死にやすいからだ。
新人で経験の浅いソロ冒険者など、迷宮の数々の罠やモンスターによって簡単に命を落とす。
ギルドとしてもソロ冒険者を禁止すればいいのだが、やはり様々な理由でソロ冒険者として生計を立てている人達の仕事を奪う訳にもいかないので、現在のところソロ冒険者の活動に制限はない。
「あそこの掲示板の前にいる新人っぽいのが彼だ。名前はコンパーノだ。よろしく頼むよ」
「はい」
ギルド長が指さす先には、皮鎧にショートソードとスモールシールドを持った、赤髪の少年がいた。
俺も断りたい所ではあるが、ギルド長によって救われて、ここで働かせてもらっている恩がある。
仕事内容の好き嫌いを言える立場ではないので、この仕事を受けることにした。
コンパーノの事はギルド長に聞いた知識しかないので、彼と話してみようと近寄って行った。
「こんにちは、掲示板の前でどうしました。先ほどからここで立ち止まっているようなので」
掲示板の前でうろうろしているので気になりましたと声をかけてみた。
「実は字が読めないので、俺に受けられそうなクエストがあるか、字が読める人に聞こうと思っていたのだけど、今日は他の冒険者が捕まらなくて」
成程そういう事か。
この世界は識字率が低い。
冒険者であっても、字が読めず計算が出来ない者も珍しくはない。
これはお近づきになるチャンスだな。
「冒険者の等級を教えてください」
「木等級です」
コンパーノは恥ずかしそうに教えてくれた。
最初は誰だって初心者だ、気にするな。
「それなら、これがいいかな」
俺は薬草採取のクエストを薦めた。
「ただし、二人以上でと書いてありますね」
「ソロじゃ駄目なのか」
勿論そんな事は書いていないのだが、彼が字を読めないのをいいことに、今回は嘘をつかせてもらった。
俺もコンパーノに同行して、彼と話をしてみたいのだ。
受付でこのクエストを受理してもらい、二人で迷宮に潜る事になった。
因みに俺の準備だが、この前迷宮に潜った時に用意した冒険者セットが、冒険者ギルドの自分の席にそのまま置いてあるので、直ぐにそれを持って冒険に出られるのだ。
相談窓口は臨時休業にする。
どうせ毎日仕事があるわけじゃないし、今日休業しても問題はない。
それに、ギルド長からの依頼だ。
誰も文句は言わないだろう。
「あ、自己紹介がまだでしたね。俺はアルト、ジョブは品質管理です。木等級ですよ」
「俺はコンパーノ、よろしく頼む。ジョブは気にしないでくれ。剣で戦う。ところで品質管理ってジョブは何だ?初めて聞いたぞ」
「正常な状態が続くようにするジョブですよ。冒険者向きではないですね」
「そうか」
コンパーノは俺の説明を理解していない様子だったが、冒険者向きではないと聞いて、少し明るくなった気がした。
命の危険がある迷宮に一緒に行くのに、適性のない二人なら本来は悲観するぞ。
同病相憐れむってやつだな。
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