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「はあ? 怪獣?」
石川県小松基地。第306飛行隊所属、
「そうだ」飛行隊長の鳥居二佐(TACネーム:キング)が、苦虫を噛み潰したような顔で応える。
「冗談でしょ?」
「いや」
二佐の短い応答、そしてその表情には、あまり多くを語りたくない、という気持ちが存分に滲み出ていた。彼自身、これが冗談だったらどんなに良かったか、と思っていたのだ。
「"キング"さん、どういうことっすか?」
二尉に詰め寄られて、二佐は渋々話し始める。
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五日前より大山村に現れた長さ100メートル、幅30メートル、高さ20メートルの超巨大ナメクジは、その大きさを増しながら川伝いに村の中心部にゆっくりと向かっていた。このままでは村がそのまま超巨大ナメクジの下敷きになってしまう。
直ちに有害鳥獣に認定され、陸上自衛隊が駆除に向かったが、戦車砲弾も榴弾砲もミサイルも、粘液質のその肉体には全く効き目がない、という。火炎放射器には若干嫌がる反応があるが、発火するわけでもなく、焼き尽くすにも大きすぎて通常の火炎放射器では全く歯が立たない。かといってナパーム弾ではすぐに体内に取り込まれて消火されてしまう、という。
さらに。
その超巨大ナメクジ ――非公式のコードネームとして「ナメラ」の名が付いた―― は、なんと、攻撃に対して報復をしてくるのだ。それは体のあらゆる場所から粘液を攻撃対象に向けて縦横無尽に発射する。その粘液は戦車を十分覆うだけの量があり、エンジンの吸気を妨げ停止させてしまう。よって、燃料を燃焼させてエネルギー源とする兵器は、ほぼ対抗できなかった。
記録によれば、三百年ほど前にも大山村にナメクジの怪物が現れた、という。その時も村の中を這いずり回って大損害を与えたそうだが、幸運なことにその後日照りが続いたことで退治できたのだそうだ。そして乾燥しきったその頭部のみを、当時の村民たちが御神体として最初に出現した山中の祠の中に納め、「山神様」として祀っていたのだ。しかし、その祠が何物かによって破壊されてしまい、御神体が消えていた。そしてその三日後、「ナメラ」が出現したのだ、という。
あいにく今は雪解け水が山から際限なく流れてくる時期だ。さらにその後梅雨の時期が続く。夏の日照りの時期まで待ってはいられない。このまま放置すれば大山村からさらに下流の市街地にまで「ナメラ」が到達し、被害が甚大になる恐れがある。
とにかく「ナメラ」を早急に退治しなくてはならない。しかし、通常兵器がほとんど効かない、となれば、ABC(核・生物・化学)兵器を使わざるを得ないが、核兵器は最後の手段とするしかない。生物兵器もこれだけ大きな生物に即効的に対抗できるものが果たして存在するのか。存在したとしても、環境に対するリスクが大きすぎる。
もっとも妥当と考えられるのは、化学兵器だ。だが、これも環境リスクを考えると望ましい手段とは言えない。
しかし。
古来よりナメクジ退治には塩を用いるものだ。塩を振れば浸透圧の差により、体内の水分が溶け出してナメクジは干からび死に至る。もちろん「ナメラ」のスケールでそれをやったら塩害は凄まじいものになろうが、塩というのは地球上に極めてありふれた物質であり、いずれ海に流れていくものと考えればその他の化学物質を使うよりはリスクは低いだろう。
そこで、世界中から日本に塩の空輸が始まった。ほぼ全ての岩塩産出地から岩塩が集められ、「ナメラ」を退治できると考えられるほどの量の塩を用意できる目処が立った。後はそれを「ナメラ」に投下する手段を講じるだけだった。
ところが。
「ナメラ」の反応は意外に素早く、ヘリコプター程度の速度の物体でも粘液を直撃させることができるのだ。いわんや時速数十キロの速度しか出せない陸上兵器においておや、である。
それでも、さすがにジェット機ならばその速度に追従できないだろう、と当初は予想されたのだが、偵察も兼ねてやってきた三沢基地第3飛行隊のF-2が見事に粘液の直撃を受け、撃墜されてしまった。パイロットは脱出に成功しており無事だった。
もちろん上下左右に激しく機動するような飛び方には「ナメラ」も追従できないようだが、精度の良い対地爆撃を行うためにはどうしても低高度を直線的に飛ぶ必要がある。そうなると「ナメラ」にも飛行経路が十分予測できてしまうようだった。
その「ナメラ」のセンサーとも言うべき部分が、頭部の二つのツノだった。このツノさえ破壊できれば、「ナメラ」を退治できる可能性が高い。
しかし、戦車砲で狙うにしても、ツノの部分はかなり機敏に動くため、大抵外れてしまうし、外れてしまえば間違いなく粘液の反撃が帰ってくる。破砕型弾頭の地対空ミサイルは有効そうだが、「ナメラ」の体が電波を反射しないため、近接信管が作動しない。
そのツノの破壊が、榊二尉の
岐阜基地の飛行開発実験団(飛実団)が試作した、DEW(
そして、一四○○時。
榊二尉とその僚機のパイロットである
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