「ナメラ」を倒せ!

Phantom Cat

1

「なんてことを……」


 そう言ったきり、老婆は絶句する。


 村の外れの山中。彼女の目の前には、小さなほこらがあったはずだった。だが、それが今、破壊されて無残な姿を晒していた。


 誰の仕業かはわからない。だが、最近この辺りの道路が舗装されてから、いわゆる「走り屋」と呼ばれる人種が出没するようになった。曲がりくねった峠道を車でスピードを出して走り回る連中だ。


 祠は道路からは5メートルほど離れた場所に置かれていた。だが、その日、道路のアスファルトには、祠のあった場所に向かって真っすぐ黒いスリップ痕ブラックマークが二つ並んで刻まれていた。この道路にはガードレールは存在しない。おそらくカーブでアンダーステアを出した車がそのまま道路を外れて突っ込み、祠を直撃したのだろう。


「山神様が……山神様の封印が……解けてしもうた……えらいことじゃあ! 皆に知らせにゃ……」


 慌てふためいた老婆は、自分の軽トラの運転席に飛び乗る。


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「それは、防衛出動、ということかね?」


 総理官邸。首相は疲れ切った顔を官房長官に向ける。


「いえ、有害鳥獣駆除、という扱いになります」官房長官が応える。その顔にも深くしわが刻まれていた。この男もこの二日間ほど、ほとんど眠っていなかった。


「しかし……相手は鳥でも獣でもないし、まだ有害と決まったわけでもないのだろう?」


「このままでは間違いなく住民に対して脅威になり得ます。既に村の中心部まであと数キロメートル、という位置まで近づいています。村民は全員避難させました。総理、ご決断を」


「……分かった」


 まさか自分がこのような決断をする羽目になるとは。彼の脳裏には、かつて見た怪獣映画の一シーンが蘇っていた。


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