10.愚かなる者2

 夜の静けさも重なり、2人は気持ちすら沈んでしまった。そんな中、ルシフが口を開く。

「さっき見た感じだと、ダンダリオンは群れるのが苦手なタイプだと思える…………それなのに統率者が務まるのか?」

 それには、レヴィアも同意だ。ダンダリオンは自分の理のためだけに動いている様子だ。それなのに誰かを率いて、何か事を起こすなんて違和感がある。

「確かにそうだけど……でも、確かなスジからの情報よ。間違いないわ」

「もしそれが本当だとするなら、お前がここにいるのは非常にまずい状況だと思うのだが?」

 確信を突かれたレヴィアが言い訳をする。

「でも、私の魔法は混戦になると使えなくなるし、肉体戦では役に立たないわ」

 ルシフは彼女の魔法がどれも特大で派手だったことを思い出していた。

「なるほど、それは納得だ」

 そうなると役に立つのは回復魔法だけ。だが、回復魔法は膨大な魔力を使うため、人数が多ければそれほど役に立たない。

「私は常に人々の希望であり続けるべきだった。それなのに恐怖に溺れ、民衆を見捨ててここに来てしまった……。私は聖女失格よ。今更戻ったところでそれには変わらないし、何より邪魔にしかならない。それならいっそ――」

 そこまで口にし、言葉に詰まったように黙り込んでしまった。

 

 そんな様子に耐え兼ねたルシフは、何か声をかけようとするもなにも思いつかない。それでもルシフは考えた。

(聖者としてのプレッシャーを感じたことがない俺には、こいつを責めることなど出来ないし、かける言葉も思いつかない。だけど、獣の刻印しかもたない俺でもこいつの気持ちはわかる気がする)

 しかし、彼の思考はレヴィアの行動に追いつかなかった。

「――なんてね、私はどこにいても私だわ。それにこれ以上逃げるつもりはないから安心して!」

 そう言った彼女の目には覚悟が宿っていた。だが、ルシフはその覚悟が無理に作られたものだと気がついていた。

「無理はするなよ……」

 ルシフは止めるでもなくそう言った。それにレヴィアは微笑みで返した。

「ルシフはいつも私のことを心配してくれるね。だけどもう大丈夫。私のことばかり気にしている場合じゃないわよ! 私もあなたが騎士団の一員になるのを心待ちにしているんだから!」

 反対にレヴィアはルシフを鼓舞しようと、出来る限りの元気を振りまいた。ルシフは彼女の空元気に気が付きながらも、彼女の励ましに心を軽くさせられた。

 重くなった空気をルシフはどうすることも出来ず、ただ一言だけ口にする。

「今日はもう遅いしもう休め」

 何か言いたげなレヴィアであったが、黙って寝室の方へと向かっていく。その様子を見送るルシフであったが、もう一言だけ声を掛けた。

「俺は絶対に騎士団に入る」

 それを振り向かず聞いたレヴィアの表情は分からないが、きっと悪いものではないだろう。

 

 

――――ちょうど協会にダンダリオンの襲撃があった頃。1人の人間が港町の北方、数十キロ先をうろついていた。

「はぁ、疲れた…………まさかこんな時間になっちゃうなんてついてないな」

 その人物はフードのついた黒いコートを着ており、フードを深く被っているため顔は見えない。

 ただ、その背格好から子供ということだけ分かる。

「もし宿が取れなかったら、あの爺さんのこと恨んでやる」

 彼から出る言葉のほとんどが彼の知り合いに対する愚痴であった。

 辺りは暗くなにも見えないなかで、港町を目指しゆっくりと歩いている。

「魔法さえ使えれば直ぐなのに……。全くあの爺さんときたら、僕のことを『愚かな者』とばかり罵ってなにが楽しいんだ!! ちょっと地形が変わるくらいいいじゃないか!? 帰ったら絶対何か奢ってもらおう」

 そう1人吠えると、ひたすら街を目指し歩いて行った。

 

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