白Lスタンダード
エリー.ファー
白Lスタンダード
あたしはヤンキーで不良だったけれど、ゲームが好きだった。
生徒会長はあたしと同じ女の子で、しかも優等生で、ゲームが好きだった。
出会いは忘れた。
どんなことがあったかはどうでもいいし、あたしもそのことについては意味があると思っていない。
とにかく。
あたしと生徒会長はよくゲームをした。
大抵はあたしの家だった。
生徒会長はおさげ髪で、いつも度の強い眼鏡をかけていた。スカートは長くそしていつも本を片手に持っていた。校舎の中で一番好きな場所は図書館だそうだ。あたしはそんな高校生がこの世の中にいるとは思えなかったけれど、長く関係を続けていくうちに少しずつ納得していった。
高校三年になると、あたしは大学に行くかどうかで迷い、生徒会長はどの大学に行くかどうかで迷っていた。あたしと違って両親からしっかり教育費をかけてもらっている生徒会長は塾に行き、その帰りの少しだけの時間を使ってあたしの家に来てはゲームをした。
パンチャク。
というゲームを知っているだろうか。
あたしは知っている。
生徒会長も知っていた。
パンチャクというのは中国のインディーズゲームの会社が開発したもので、非常に人気の高いアクションRPGゲームだった。内容は勇者二人が姫様を助けに行くというもので、ありきたりなストーリーなのだが、クリアするための抜け道が多く、普通に進めると二十時間以上かかるのだが最短ルートを通ると僅か一時間で終わる、というのが話題になった。また、そのクリアの仕方というのがほぼほぼバグのようなもので、それを公式が正当なクリアルートと認めたことで、バグの洗い出しを面倒くさがっただけだろうと、批判二割、いじり五割、余計に好きになる二割というようにプレイヤー間での不毛な議論を生み出すきっかけとなった。スタッフの数人が中国版のSNSで、自分からクソゲーであると認めたり、果てはスタッフ同士の殴り合いの喧嘩が動画サイトで流れるなど、常に炎上し続ける。
言ってしまえば。
本当のゲーム好きなら、名前を聞いただけで爆笑できるRPG。
それが。
パンチャクだった。
生徒会長の方がゲームが上手かったので、一人目の勇者に先に名前を付けることになった。
付けられた名前は。
白L。
あたしは。
スタンダード。
大した理由もなかった。
あたしは生徒会長とするパンチャクが好きすぎて、結局生徒会長がうちに来ない日は絶対に勝手に進めなかった。
生徒会長は。
いいよいいよ遊んでていいよ。
悪いよ。
気にしないで。
と言ったけれど。
頑なに生徒会長と一緒に進めた。
本当に少しずつ。
少しずつ。
一か月。
二か月。
三か月。
ゲームプレイの総時間は。
十二時間と十四分。
その頃だった。
生徒会長が刺された。
他校の女子生徒だった。
あたしがお見舞いに行こうと連絡を取ったけれど。
生徒会長は。
大丈夫だから。
またゲームしようね。
待ってて。
来なくていいから。
それしか、返信してこなかった。
あたしにも生徒会長にも家や学校でのイメージがある。
そういうことなのだと思った。
刺した女子生徒は生徒会長のことをストーキングしていたらしい。
いわゆる。
レズだった。
学校はその話題で持ち切りになり。
生徒会長に同情する声が上がった。
あたしは。
生徒会長が刺された夜にあたしの家に投函されていた手紙をもう既に読んでいた。
刺した女子生徒からだった。
なんなのあんた。
中にはその女子生徒と生徒会長が笑顔で裸で抱き合う写真が入っていた。
あたしはもう。
生徒会長と話せなかった。
生徒会長も。
もう。
あたしとは話さなかった。
あたしと生徒会長の関係を勘違いしたその生徒が、生徒会長を襲った。
今はそう思うことにしている。
でも。
あたしの苗字は白田だから。
白Lが。
白田LOVE。
の略称なんじゃないかと思ったり。
そんなことをしているうちに卒業式が来て。
思い出すのも億劫になる日が来るんじゃないか。
とか思ったりしている。
白Lスタンダード エリー.ファー @eri-far-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます