第7話
ジェディディアと他愛のない話をし続けてているとふと見知った顔と目が合う。その人物はしいと人差し指を口に当てて意地の悪そうな笑みを浮かべこちらへと近づいてくるので、了承の意味も込めてそのまま何もせずにジェディディアとの会話を楽しんでいると、彼はトレイをそっとテーブルに置くやいなや、勢いよくジェディディアに抱きつくのであった。わあ、苦しそう。
「ディア!お前大っきくなったなあ。」
「く、くるし…ぃ」
「グレイシー嬢は久しぶりだな!また腕が上がったんじゃないか?ディア、お前も負けてられないなあ!」
「アドニアス様、お久しぶりです。そろそろ離してあげないとジェディディア様が死にそうになってますよ。」
「おっと、教えてくれてありがとうな。ディアすまなかったな。」
いえ。アドニアス様の胸筋の圧でジェディディアが死ぬのはかなしいので。なんて言えるはずもなくお気になさらず、と、とりあえず誤魔化しで微笑んでおく。
アドニアス様はジェディディアを抱きしめて満足したのか、豪快に笑いながら、ジェディディアの頭を撫でまわす。あのジェディディアも大人しくされるがままやられている。これが私だったら1秒でパシリと手を叩かれる。泣いてなどいない。
ジェディディアの綺麗に整っていたさらさらの髪の毛はぐしゃぐしゃになり、みるみる鳥の巣の様になっていく。あんな鳥の巣のようになっているのに手櫛でするすると梳かしていけばまたサラサラヘアーに戻るのだから羨ましい限りである。
「二人とも元気そうで何よりだ。」
「アドニアス様もお元気そうで何よりですわ。お会いできてとても嬉しいです。」
ニコッと笑ってアドニアス様とお話をしているとジェディディアは気持ち悪いものを見たと言わんばかりに顔を歪める。
お前がアドニアス様と話そうとしないから私が話しているんでしょうが!と言いたいが今の私は淑女。だからテーブルの下で本当は足を踏みたいけどやらないのである。許されるならば足を思い切り踏みたいが。
アドニアス様、前見たときよりも恰幅が良くなった気がする。ボタンがはち切れんばかりの盛り上がった胸筋。この世界にはボディビルダーという職種がないので大会がないのだが、もしアドニアス様が出場したらけしからん胸筋!とか叫ばれてしまうのではないだろうかと思わせるくらいの胸筋だ。
さっきから胸筋しかいってないけれど、アドニアス様の美しく鍛え上げられた肉体美を賛美する言葉が私なんかの貧弱ボキャブラリーでは到底敵わないのである。ぜひその目で見て直接アドニアス様に直接讃えてほしい。
「どうだ?学校は楽しいか?」
「ええ、とても。ですがアドニアス様がご卒業なさってから寂しいです。ジェディディア様もアドニアス様のご指導が恋しいようで…」
「はあ?!グレイシー何勝手なこと」
「そうか、そうか!この後は時間が取れないが、明日は時間があるからな。久々にみてやろう。ディア、俺は嬉しいよ…。あんな細っこい腕で非力だったお前がこんな…こんなに逞しくなって…!でもまだまだこの世の中には危ない奴がたくさんいるからお前には…」
や、やってしまった…。そう気がついたときには遅く前に座っているジェディディアの視線が痛い。ご、ごめんて…。謝るからさ、睨まんといて…
バストホルム家のジェディディアへの過保護はそれはもうすごいんだけれども、アドニアス様とジェディディアのご両親は輪をかけて過保護なのである。今もまだ〜ジェディディア、3歳の頃の話〜お兄ちゃんは天使だと思ってたけど天使だった(要約)を語り始める。マシンガントーク、否ジェディディアがいかにかわいく天使であるかというトークは止まることを知らないのではないだろうか。これを聞いてもドン引きしなかったというアドニアス様のお嫁さんは素直にすごい令嬢だと思った。今じゃ一緒にジェディディアを可愛がっているところもすごいなって…洗脳かな?いややめておこう。
「それはそうとアドニアス様、お仕事の方はよろしいのですか?」
「ん?ああ、言ってなかったか。討伐任務に加わることになってな。両親はいらんと言っていたが、まあ俺も何もないとは思うが念のため俺の代わりにノースに戻ってもらおうかと思ってな、色々話しておかなきゃいけないこともあるし、何よりディアと会いたかったからな。」
「まあ、そうだったのですね。御武運を」
「ははは、まだはやいがありがとうな、グレイシー嬢。当分ここにいることになるかと思う、何かあったら遠慮なく言えよ。」
「はい、アドニアス様。お言葉に甘えさせていただきますわ。」
「兄さん、こいつ本当に遠慮無いから気をつけた方がいいよ。」
「ジェディディア様!!」
「ははは、本当にお前たちは仲良いな。ディアも何かあったらすぐ俺を呼ぶんだぞ。じゃあまたな。」
そう言ってアドニアス様はトレイを持って去ってしまった。アドニアス様は長男だから爵位を継ぐわけで、その勉強とかでお忙しいはずなのに、大変だなあ。
「グレイシー、お前明日ついてこいよ」
「おほほほほ、ジェディディア様明日は予定があってよ。ごめんあそばせ。」
「へえ、今女子からハブられてるっていうのにグレイシー様はご予定があるんだな」
「ごめんなさい何もないですでもアドニアス様直々のご指導なんて私が死んじゃいますやめてください」
「安心しろ、骨は拾ってやる」
それ死んでるよ、ジェフ…。なんて言えず私に残された選択肢はイエスかはいその二つだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます