3.シオンの事情。
「いやぁ、やっぱりシオン君は素晴らしい! 若くして才気に満ちている!!」
「え、えへへ……。ありがとう、ございます」
クエストを終えて。
僕たちは酒場にやってきていた。
「まさか、あのように巨大なデイモンを三体も収納するとは! キミの潜在魔力の高さには、目を見張るものがある!!」
「アンタほんと、シオン君を褒めることとなると饒舌になるね」
「ふん、素晴らしいことを素直に認められないのか? 嫉妬心の塊なのか?」
「そうは言ってないでしょ!?」
「あはは……。二人とも、落ち着いて……?」
食事をとりながら今日のクエストで得た情報を整理していると、いつの間にやら仲間二人の口論になってしまう。といっても、こればかりはどうしようもない。
彼らの相性の問題なので、僕は苦笑いして軽く仲裁するにとどめた。
それよりも、気になったのは――。
「あの、コールさん。訊いていいですか?」
「あぁ、なんだい?」
「目の前に並んでる、この豪勢な料理は……?」
大きなテーブルいっぱいに並ぶ、様々な料理のことだった。
酒場に到着し、着席するなりコールさんは店員さんに注文してしまったのである。そして、結果として運ばれてきたのはこのように、見たことない料理の数々。
お肉にお魚、そのほかにもサラダやスープ。
どれも良い香りがして、食欲をそそるものばかりだった。
「これかい? これはね、私からの前祝いだよ」
「前祝い……?」
こちらが首を傾げると、コールさんは言う。
「キミはいずれ、世界を席巻する魔法使いになるだろう。王宮魔法使いとして、共に働くことになる可能性も、十分にある。これはその前祝いなのさ!」
「ふえぇ……!?」
耳を疑った。
僕が、宮廷魔法使い……?
考えもしていなかった評価に、思わず狼狽えてしまう。
「こら、アンタ。アタシの仲間を勝手に引き抜かないでくれる?」
しかし、黙っていなかったのはシーナさん。
彼女は僕の隣にやってくると、まるでこちらを守るようにして腕を組んできた。ぐっと身を寄せられて、思わずドキリとしてしまう。
そんな様子を見てか、コールさんは微笑むのだった。
「なに、今すぐにという話ではないさ。単細胞女に見切りをつけたとき、改めて王都を訪ねてくれればいい。私が国王に推薦しよう」
そして、ぐいっとエールを煽る。
歯牙にもかけられなかったことに不満そうな表情を浮かべながら、シーナさんは仕方なしに唇を尖らせ、自分の席に腰掛けた。
僕はそこに至って改めて、目の前の料理を見る。
「そ、それじゃあ、食べていいんですか!?」
すると、思わず声が裏返ってしまった。
しかしそれを気にすることなく、コールさんは笑顔で頷く。
僕はそれを見て――。
「ん? どうしたんだい、シオン君」
「シオン君。もしかして、泣いてるの?」
「あ、すみません。そんなつもりは、なかったんですけど……」
思わず、涙を流してしまった。
それを拭いながら、二人を心配させないように笑顔を作る。
「こんな贅沢な食事、初めてで。孤児院のみんなにも、食べさせてあげたかったな、って思って……」
「孤児院……?」
そして、素直に胸の内を口にした。
すると首を傾げたのは、シーナさんだ。
「あ、えっとですね? 僕、実は孤児院の出身で――院長先生が亡くなってから、この街に出稼ぎにやってきたんです。最初は酒場で働いていたんですけど、クビになっちゃって……」
そういえば、自分の身の上を話していなかった。
少しだけこそばゆいけど、僕は正直に自分の生まれについてを語る。
一年前に働き始めて、稼いだお金を孤児院に送り続けていたこと。そして、つい先日その働き先を失ってしまったことを。
「だから、いまはシーナさんに感謝してるんです。あの時、声をかけてもらえなかったら、僕は孤児院に恩返しをできなくなっていたから……」
「シオン君……」
「あ――すみません! 少し、しんみりしちゃいましたね!」
そこまで話してから、僕はハッとした。
つい感情に任せて、二人に無関係な話をしてしまった。
「せっかくの料理が冷めちゃいますね! いただきましょう!!」
だから、切り替えるように。
僕はそう笑った。するとふいに、コールさんが――。
「な、なんて健気なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
大粒の涙を流して、そう叫んだ。
「え、あの……?」
「うん、うん! お腹一杯食べるといい! 私は感動した!!」
そして、呂律の回り切らない口調でそう言う。
シーナさんはそれを見て、一言。
「アンタ、もしかして泣き上戸……?」
――いや、アタシもうるっときたけど。
そう言いながら、彼女は呆れたように肩をすくめた。
「ねぇ、シオン君?」
「なんですか。シーナさん」
次いで、僕に声をかけてくる。
暖かな微笑みを浮かべて、彼女はこう言うのだった。
「これから、頑張ろうね!」
それを聞いて、僕は大きく頷く。
そして元気いっぱいに答えるのだった。
「はい! よろしくお願いします!!」――と。
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