煙草に纏わる短編集

明日緣

深夜2時

 深夜2時。泊めてくれないかと、土産もなしに突然やって来た彼には何も告げずに駅前のコンビニへ向かう。駅前までは、住宅街を歩いて15分弱。流石に帰り途中のサラリーマンとすれ違うこともないから、ここぞとばかりに煙草に火を点けた。マッチを擦った時に薫るリンの匂い。ライターは味気がなくていけない、などと、弱冠21歳の若造が言ったら笑われるだろうか。

 大人になったという感覚がどうにも湧かない。自分もあと数年もすれば、皆同じようなスーツを着込み、毎日同じ時間に同じ路線の電車に乗るあの社会人の仲間入りだというのに。こうして大人の真似をして煙草を吸って、気を紛らわしたりしてみるけれど、そんなちっぽけな下心が透けて見えるようで、人前では吸わない。

 今頃私の布団で寝ている彼は、おそらく私の幼稚な背伸びに気がついている。帰ってきた私に危ないよと言ってキスをして、煙草の匂いが着いた私の身体を抱きしめて眠るのだ。私にはそれが、たまらなく。

 

 もうすぐ住宅街を抜けて、駅前に出る。私は最後にゆっくりと煙を身体に入れてから、煙草の火を消した。

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