第24話 裏ルートと違和感

人で遊んでくれたジーク様はよっぽどツボに入ったらしくまだ笑っている。

そんな姿でも見とれるほど美しいのは流石と言わざるを得ない。

この顔を見ていると1人で勝手にモヤモヤしてジーク様を憎らしく思っているのもなんだか馬鹿らしくなってくる。


この際これからの目の保養ためにじっくり観察する事にしたアリシアナ。


切れ長な金色の目は黒く長い睫毛に縁取られ、笑って肩が震えるたびに綺麗な漆黒の髪がサラサラ揺れる。

とても美しいが今はまだ10歳と幼く、可愛いという感想も出てくるジーク様だけどあと数年もすればゲームと夢で見慣れたあの殿下になるだろう。


そういえば、アリシアナになってから初めてちゃんとジーク様の顔を見た気がする。今まで顔を直視出来なくて服の襟元とか別の所を見ていた。なんで襟元なのかと言うとまだ私が日本で高校生をやっていた頃、ある教師が学年集会でしていた話が理由だ。


「お前ら、よく『目を見ろ』とか『顔みて話せ』とか言われるだろ?けど目を合わせたくない奴や顔を見ずらい時ってのがあると思うんだよ。だからそういう時は、その人が俺みたいな男の教師ならネクタイの結び目見とけ。それで相手には目を見てるように見えるから。」


教師としてはそれでいいのかと突っ込みたくなったが結構面白い先生で人気もあった。確か学年主任だった気がする。


と、そういうわけでジーク様の顔を見たくなかった私は襟元とかを見て誤魔化していたというわけ。



はぁ~·····よく見ると本当綺麗な顔してるわよね。


こんな完璧王子様がなんで私なんかに…ってすっかり忘れてたけどアリシアナは超がつく美少女だったわ。アリシアナになってからちゃんと鏡見てないけどゲームのアリシアナは超絶美少女だった。


「シア?」


いや、待って。


ここは"君恋"の世界。美少女なんてゴロゴロいたわ…。


特に王妃様がジーク様を身篭った当時この国の上位貴族達はそれに合わせて頑張ったらしいとゲームで誰かが言っていた、気がする。生まれた子供が女の子なら自分の子供を王子の妻に、男なら王子の側近にさせるつもりで。

そして下位の貴族達はそれに溢れた上位貴族達の娘や息子の結婚相手や側近を狙って頑張ったらしい。結果、王子の年代付近はやけに子供が多い。


「…シア、またですか。」


「ねぇ、こっちを見つめてくる可愛い生き物にまたイタズラしたくなってきた。」


「殿下、気持ちはわからないでもないですがさすがに我慢してください。」



ゲームやアニメでモブ量の事なんて気にしたこともなかったけどこうして現実になるといろいろな思惑が混ざり合ってこの状況が出来てるんだとなんだか感慨深く思う。


でも確かアリシアナはそれとは違う理由で出来た子供だったのよね。これも裏ルートで誰かが言ってた。


けどあれ?誰だったっけ?

………………………………ちょっと待って。そもそも裏ルートって何だった?





……………思い、出せない…。


嘘でしょ!?これも!?



ううん、大丈夫。きっと大丈夫。そう、大丈夫。



まずは落ち着け、私。


こんな時は覚えてることを整理しよう。

まず、君恋には決められた順番でプレイすると開放されるルートがいくつか存在する。かなりめんどくさい設定だったからよく覚えてる。


まず1つ目が初期で初めからプレイできる攻略キャラを全てクリアすると開放される【ジークフリート王子ルート】。

2つ目がその【ジークフリート王子ルート】をクリアすると開放される【隠しキャラのルート】。

3つ目がその【隠しキャラのルート】をクリアする途中である手順を踏むと手に入る"アリシアナの日記"を持って【隠しキャラのルート】をクリアすると開放される【各キャラの謎解明ルート】。通称、"2週目ルート"。またジークフリート王子の2週目ルートのみ呼び名がもうひとつある。"ホラゲー"だ。このルートは各キャラのルートで出てきたそれぞれの謎が解き明かされるルートだ。ちなみに私はこのルートの後半も思い出せない事が判明している。

そして最後、4つ目が【各キャラの謎解明ルート】以外の全ルートで少しずつ手に入るあるアイテムを全て集め終えてから【ジークフリート王子・謎解明ルート】をクリアすると開放される【裏ルート】。


順番は【各初期キャラルート】→【ジークフリート王子ルート】解放、攻略→【隠しキャラのルート】解放、攻略→【各キャラの謎解明2週目ルート】解放、攻略→色んなルートでアイテム回収→【ジークフリート王子・謎解明ルート】解放、攻略→【裏ルート】攻略の順だ、ったはずだ。


うん、おかしい。


裏ルートに行くまでははっきり思い出せる。アイテムの場所も覚えてる。そりゃそうだ。裏ルートに行くために何度もプレイすれば覚えもする。問題はそこじゃ無い。他ルートはどれも一部うろ覚えはありつつも大雑把なストーリーくらいは思い出せるのに裏ルートと各謎解明ルートの最後だけ一切思い出せない。私ならプレイしたはずなのに内容に関する記憶が無いなんて絶対おかしい。


なぜ覚えてないのか。

考えられるとすれば、何者かに消されたかそれに類する干渉を受けた可能性かな。


あ、もうひとつあった。

【裏ルート】や【ジークフリート王子・謎解明ルート】のストーリーが怖くて私が投げ出した可能性。

ホラゲーの苦手だった私はジークフリート王子の2週目ルートを最後まで残した。ネットの情報で『王子ルート2週目もやばい。いや、2週目のがひどい。面白かったけど超ホラーだった!』と書かれてたのを見てしまっていたから。結果、ジークフリート王子2週目ルートをクリアした私は精神的な疲労で限界に近かった…はずだからそこで裏ルートまであんな感じホラゲーだったら多分クリアせずに投げ出している可能性がかなり高い。というか投げ出した後ゲームソフトごと封印して棚の奥にしまい込んだ可能性まである。


「ねぇ、今度は青い顔して震えてるよ。何を考えてるんだと思う?僕を見て震え出すなんてちょっとショックなんだけど。」


「殿下に恐怖するのは正常だと思いますけど。」


「君ってサラッと失礼だよね。」


「じゃあ聞きますが震える妹を見て本当はどう思いました?」


「…小動物みたいで可愛いよね。もっといじめて反応を見てみたくなる。」


「ほら正しいじゃないですか。」


「にしても何考えてるんだろう。照れたり驚いたりプルプル震えたり面白いね。」


サラッと話を流したジークフリートをリオンはジト目で見つつ肩をすくめる。


「さぁ?シアの事は兄として生まれた時から見てますが、妹の思考回路は理解不能ですから。今のシアもそうなのかはわかりませんが、同じであれば知ろうとすればするほど聞きたいことが増えるだけです。」


考えがそれたわ。

あれ、そもそもなんでゲームの事なんて思い出したんだっけ?

そうだわっ!

美少女に囲まれたジーク様がなんで私にご執心なのか疑問に思ったんだったわ。けど、いろいろ考えてわかった事は分からないことがわかったって事だけね。

それにいくら考えても今のジーク様はゲームのジークフリート王子とはもはや別人なんじゃないかと思うくらい違う時があるし、ここはゲームによく似た世界だけどゲームでは無いんだものゲームとの違いも……う~ん?…ゲームとの違い?


アリシアナはジークフリートの顔に違和感を覚える。


(なんだろう…何かが違う様な…。)


考えに夢中なってまた無反応になっていたアリシアナがジークフリートを見つめたまま首を傾げた。


「シア?どうかしたの?」


しばらく考えてもわからないアリシアナは、ジークフリートにずいっと近づくと鼻がつくかつかないかという至近距離でじっくり観察する。


(うーん…喉元まで出かかってるのにわからない。)


「シ、シア?」


ピンクゴールド色の大きな目をこれでもかと見開いて穴があきそうなほど見つめるアリシアナにジークフリートは驚き戸惑う。


「殿下この状態の時のシアには話しかけても気づいて貰えませんよ。」


ジークフリートがしびれを切らして、アリシアナにイタズラを仕掛けかけた瞬間アリシアナが違和感の正体に気づいた。


「あっ!」


「えっなに!?ごめん!」


「リオンお兄様、ちょっと失礼します。」


そういうと、アリシアナはリオンの頭に手をやってぐいっと近くに寄せる。


「うん?、シアどうし…っ!?」


今度はリオンを至近距離で観察するアリシアナ。

「シア、いくら兄弟とはいえ少し近ずきないかな?ねぇ、シア?」というジークフリートの抗議はアリシアナにはもちろん聞こえていない。


(あれ? リオンにはない。)


アリシアナは首を傾げてリオンから離れると少し考えた後、もう一度ジークフリートの顔をじっと見る。


「やっぱりキラキラしてる…なんでジーク様の目だけキラキラしてるの?」


「………………………ねぇ、君の妹はなんの話をしてるの?」


「それは私も聞きたいですね。」


心做しか2人の声色に疲れが見える気がする。

起きたばっかりで早朝なのになんでそんな徹夜明けみたいな疲れ方してるんだろう?


昨日私を助けるために無理し過ぎたせいかしら。

きっとそうね…!

次からは気をつけないと、スキルに自分も周りも殺されるわね。


アリシアナは見当違いな考えをしつつも改めて気をつけようと心に決めた。


*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*


あと、2〜3話でこのくだりが終われればいいなと思って1話1話の文字数多めになってます。


早く登場させる予定の新キャラが書きたいです。

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