第4話 僕の運命の人(ジークフリート視点)


僕がアリシアナ嬢の事を知ったのは1週間と1ヶ月前だ。


人づてに『グラスフィリア公爵家の御息女はとても美しいらしい』という噂は聞いていたが僕と直接関わることになったのはその時からだ。


グラスフィリア公爵から『娘が何者かに襲われ、目を覚まさなくなった』との知らせを父である国王と聞いた時だ。


その時は1週間後に目を覚ましたと知らせを受けたのだが、すぐに眠りにつき今度は1週間では目を覚まさなかった。



今も彼女はここで眠っている。

今日でちょうど1ヶ月だ。


眠っている彼女は何かの芸術品のようで触れると消えてなくなりそうな儚い美しさがあった。


そんな彼女に僕はこの1ヶ月間毎日、魔力を送り続けている。


なぜこんなことになっているかというと、1ヶ月前彼女が2度目の眠りについた時、近くに日記が落ちていて、その日記に見覚えのない文字があるからそれを僕の加護の力で読んで欲しいと父様に頼まれたのが始まりだ。


眠っているのが公爵家のご令嬢だと聞き、最初はあまり乗り気ではなかった。


どうせまた、10歳にもなって婚約者候補の一人もいない僕の婚約者候補にでもしたいと父様が企んでいるのだろうと思ったからだ。


『眠ったまま目が覚めない。』


『様子がおかしい。』


『娘に誰も近づけない。』


そう聞いた時はまたいつもの嘘かと思った。

日記の字を読んで欲しいなら、その部分だけ書き写すなりしてそれだけよこせばいいのにと思ったからだ。


だが結局断れずに僕は父様の指示で魔法師団長と護衛を連れてすぐにグラスフィリア邸に行かされた。


グラスフィリア邸につくと公爵が出迎えてくれた。


公爵は寝ていないのか少し顔色が悪かった。


最初、公爵は娘の部屋に僕を入れることを嫌がり断っていたのだが、魔法師団長が説得するといやいや許可してくれた。



くれぐれも娘に何もするなとかなり念押しをされたが…。


そんなことをすれば婚約が確定上に公爵や魔法師団長もいるのにやるわけないだろと思ったのだが、中に入り彼女をみてあまりの美しさと想定外の状況に言葉を失ってしまった。


目を覚まさないと聞いていたのでベットで寝ているかと思ったのに彼女はベットの上の球状の光の中に浮いていた。


「グラスフィリア公爵…あなたの御息女はなぜこのようなことに?」


魔法師団長があまりの光景に聞いていた報告以外にも何かあったんじゃないかと尋ねる。


「いや、それが私にもさっぱりで…。1回目覚めたんですがね…記憶がないみたいで家族や毎日一緒にいた侍女の事もわからない様子で…その後すぐに本人が『疲れたから寝るので1人にして欲しい』と言うので部屋の警備を強化して部屋を出たんですが…。」


「しばらくして様子を見に来たら、こうなっていたと………なるほど、この謎の光の球以外は報告通りですか…。」


「魔法師団長殿…どうにかしてこの中から娘を助けてくれないだろうか…私にはこの中の娘に近づくことすら出来んのですよ。」


そう言う公爵はいつもの迫力は全くなく、泣きそうな顔をしていて僕はびっくりした。


公爵の嘆願に魔法師団長は光の球にそっと近づいていく。


「やれるだけやってみますがこんなことは私にも初めてで…(バチッ)痛っ………やはり私でもダメですか……」


その後、一緒に来ていた僕の護衛や魔法師団長の部下も試したが無理だった。


僕はその様子を眺めていて何となく僕なら触れる気がした。


僕がアリシアナ嬢のいる光の球に近づくと護衛の慌てた声が後ろから聞こえてきた。


「で、殿下っ!危ないですから近づかないでください!」


「大丈夫だ、分かっている。」


「分かっているって、じゃあ近づかないでください……えっ……。」


僕が近づくと僕の手の甲の神様からの加護の証が光った後、光の球はパンッと割れて消え、中のアリシアナ嬢はゆっくりと落ちてきた。


僕は慌てて彼女を、受け止める。


彼女は思ったよりもずっと軽かった。


僕が彼女を抱えたまま公爵達の方に向き直ると魔法師団長が呟いた。


「やはり、殿下にしか無理ですか…。」


「レイン、お前…いや、今は辞めておこう。公爵、彼女は今回に限りレインより私の方が適任のようだ。」


レインとは魔法師団長のファーストネームだ。


「殿下が…ですか?」


僕の言葉に公爵が顔を顰めながら言う。

大好きだった妻の忘れ形見だ、たいそう可愛いのだろう。

一応まだ敬意は感じるが、『アリシアナに近づくなと』全身が語っている。


…溺愛していると噂は聞いていたがここまでとは…僕は一応王族なんだが…。


「心配しなくても私は眠っている人に手を出すような外道では無い。魔力を循環させるだけだ。流石に毎日ここに通うことは出来ないからな…大事な御息女なのは分かるが許してくれないだろうか。」


「……………………………侍女を同行させます。いいですかな?」



公爵は笑顔ではあるものの、『何かあれば覚えてろよ』と顔に書いてある。



「彼女に詳しいものが着いてきてくれるのはありがたい。グラスフィリア公爵、他にも話はあるが彼女の処置を優先させたいので話はまた後日。」


「分かりました殿下。」

公爵は今度こそ思いっきり嫌そうな顔をした。


そして僕はというと、あの公爵がここまで溺愛するアリシアナ嬢に少し興味が出てきたのだった。




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