気が乗らないデートは行かなくてよい。
「ちなみに、その本は知らない」
間をおいて、
「でもタイトルから内容が想像できる。時代小説だ。本好きの兵士が先人の知識を活かしながら次々と強い敵を打ち負かし、やがて皇帝へと駆け上がる立身出世ものに違いない」
彼女の知ったような口ぶりが面白くて、
「ちょっと違うかな。本のない世界に転生した子が、本を読みたい一心で、平民から領主へ駆け上がるお話だよ」
「ほお。蓮理は転生の話に興味があるのか」
当てずっぽうに言った粗筋が外れたことに意を介す素振りも見せぬまま、陽翼は凛とした表情で尋ねた。
「そうだね。他にも幼女戦記とか転スラとか、異世界転生小説は色々あって、アニメにもなっているんだ。みたことある?」
「ない」
陽翼は迷わず首を横に振った。
「そっか。見る見ないは自由だし、アニメは深夜に放送してるから夜ふかししないと見れないからね。録画や動画配信を利用する手もあるけど、見たい作品じゃないとそこまでしてみないよね」
「まったく見ないわけではない。好みの問題だ。それにしても、最近は内容がわかるような長いタイトルをつけると聞いたことがあるのに、その本は違うのだな」
「そんなことないよ。正式名称は『本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』なんだ」
「そのタイトルだと、ノンフィクションかエッセイだ。およそ三一〇〇万冊の蔵書数を誇る世界最大、アメリカ議会図書館司書として働こうと堅固に初心を貫き通した人の、野心に満ちた作品に感じる」
「ぜんぜん違うんだけどね」
ふふ、と蓮理は笑みがこぼれてしまった。
「おかしかったか?」
彼女は怪訝そうな表情をした。
そんなことないよ、と口に手を当て首を横に振る。
「えっと、タイトルの役目って、読者を集めるだけでなく、選別もあるんだ」
「書籍の売れ行きか?」
「書籍化が決まればそれもあるだろうけど、とにかく読んでもらうためだよ。小説を掲載する巨大なサイトがあるんだ。そこで読まれるためには、掲載画面を開く前に中身がわかるのはとても重要なんだ」
「粗筋を読めばいいではないか」
「そうなんだけど、粗筋を読むためには手間がかかるんだ」
蓮理は読みかけの本を脇に置くと、ブレザーのポケットからスマホを取り出し、小説サイトのアプリを起動させた。
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