第823話 幼馴染連携
☆紗希視点☆
ブラジルとの対戦第1セット。 私達日本は23ー21でリード中で逃げ切りを図る。
「ホンマ骨折れるで……」
「そうね。 あとちょっと、まずはセット取るわよ」
「気張っていくぞー」
残り2点。 第1セットを取って流れを掴まないといけないわね。
「あと2点やろ? ウチに任しとき」
「弥生? いくらあんたでもそんな簡単じゃないでしょー?」
たしかに弥生の実力は本物だわ。 世界トップクラスとだって渡り合えるパワーもあるにはあるけど……。
「任しとき」
もう一度同じセリフを口にした弥生。 その弥生からは何とも言えない威圧感……これは。
「ゾーンに入ってるわね、これ」
「だ、大丈夫なんですの?」
ゾーンっていうのはいわゆる究極の集中状態。 無駄な情報が完全にカットされた状態で、その時その時、状況に応じて最適な動きでプレーする事が出来る。 考えるより先に身体が勝手に動くような感覚らしいわよ。 私はゾーンとかにはなった事ないからわからないけどねー。
問題はゾーンに入ると、普通にプレーするより遥かに疲労が溜まりやすくなる事らしい。
「大丈夫や。 スイッチのオンオフぐらいは何とか出来るで……」
本来ゾーンへの移行は一流のアスリートでも稀にしか体験出来ないと聞く。 基本的には調子の良し悪しやプレーへの集中力の高まりなんかの条件が色々と合わさり、偶発的に入れるものみたいだけど……。
「亜美ちゃんと同じ領域まで……本当化け物ですわね、貴女も」
超一流と呼ばれる一部のアスリートの中には、ある程度ゾーンへの出入りをコントロールしてしまう人間もいるみたい。
亜美ちゃんがそうなんだけど、弥生もどうやら出来るみたいよ。 本当に怖いわね。
「わかりましたわ。 このセット残りは月島さんに任せましょう」
作戦は決まり。 サーブは私よ。 パワー系のサーブが中々通用しないブラジルさん。
だけど生憎、私はパワー系のサーブしか持ってないのよね。
「ま、弥生が何とかしてくれるわよ、ねっ!」
パァンッ!
気にせずサーブを打ち込んでいく。 パワーでは残念ながら奈々美や弥生よりは劣る私。 そんなサーブではブラジルには簡単に拾われてしまう。
「頼むわよ弥生」
おそらく今は聞こえてないんでしょうけどね。
ブラジルの攻撃が返ってくるわ。 前衛の弥生、奈央、遥がそれぞれブロックに入る。
奈央がクイックを警戒してのコミットブロックに跳ぶも、ここはクイックは無し。 というかブラジルチームは極端にクイックが少ない。
「せーの!」
遥と弥生がブロックに跳ぶ。
うへー、弥生が放つプレッシャーがヤバイヤバイ。 あんなブロック通せる気がしないってば。
パァンッ!
「触ったで」
弥生のワンタッチでスパイクの威力は半減。 これぐらいなら私でも余裕で拾えるわよん。
「ほいっ!」
「ナイスですわ紗希!」
「ウチに合わせぇ!」
そう言いながら逆サイドへ走る弥生。 ブロード攻撃ね。 動きが速くブラジルブロックもついていけていない。
横っ跳びしながら腕を振る弥生に、奈央がトスを合わせる。
パァンッ!
ピッ!
「っし!」
「完璧ね。 ゾーンってやっぱヤバイわ」
「あんま頼りとうないけどな。 ホンマ疲れんねんこれ」
「あと1点頑張って」
「あいよー」
◆◇◆◇◆◇
ピッ!
そのままゾーンに入った弥生が無双して25点目を取り、あのブラジルからまずは1セットを先取よ。
これでキューバチームと同等ぐらいの実力がある事は証明出来たんじゃないかしら?
「よーし! お前達良いぞー! ブラジル相手にこの戦いっぷり! さすが俺が選んだ最強日本だー!」
「あはは……でも弥生ちゃん大丈夫? 最後ゾーンに入ってたよね?」
「大丈夫や。 ちと疲れはしたけど、この試合ぐらいやったら何とかなる」
「おー、弥生ちゃんもゾーンのコントロールを?」
「ま、完全やないけどな。 あんまり長いこと入ってたら抜けられんようになりそうやよ」
「それでも凄いわよ」
「皆化け物じみてきよったな。 ウチら姉妹を見習えや」
「人間だよ!」
と、ベンチメンバーは暇を持て余しているわ。 まあ今日は見ててもらいましょ。 って言っても、次の相手がキューバになったら今日のメンバーで戦うみたいだけど。
「2セット目もこの調子で頼むぞお前達ー!」
「ですが、1セット目もギリギリだったので、同じ立ち回りでは取られかねませんわよ」
「だがなー。 お前達に出来る事は全部やってもらっとるわけだし」
「まだまだこんなものじゃないですよ監督」
「そういう事ですわよー」
「んん? 何かあるのか?」
「まあ、ちょっとは」
私と奈央で顔を見合わせて頷き合う。
監督を始め、弥生や奈々美も首を傾げる。
「よ、よくわからんが期待して良いのか?」
「まあ、少しぐらいなら」
まあブラジルの意表を突くぐらいはできるでしょ。
「とにかく行ってこいー!」
「はい!」
てなわけで見せてやりますか。
2セット目はブラジルサーブで始まるわ。 ここまで来るとブラジルさんのパワーサーブにも慣れて来たところ、特に希望ちゃんは凄く良い動きを見せている。
パァンッ!
「はい!」
もう完璧にブラジルのサーブを捌いているわ。 さすがだわー。
そして早速見せてやりましょうかね。
私はバックアタックだけどクイック気味の助走に入る。 当然私に対してブロックが1枚ついてくる。 他の皆は時間差攻撃準備の為に遅れて助走に入っているわ。
奈央がジャンプトスに跳ぶのと同時で私も跳ぶ。
私はスパイクを打つと見せかけて奈央にトスを上げる。
逆に奈央はトスを上げると見せかけて片手で私のトスを押し込むように相手コートへ。
ピッ!
「よし決まったー」
「まあ意表は突けましたわね」
「何よ今の? 聞いてないわよそんな攻撃」
「教えてないもの。 ていうか、あれもノーサインでその場のノリでやるプレーなのよ」
「はぁ? 行き当たりばったりって事かいな?」
「そうよーん。 どっちが何するか知らないの」
「じゃあ、紗希ちゃんがトスするっていうのを奈央ちゃんも知らなかったのぅ?」
「ええ、お互い跳んだ時に、あ、紗希がトスするなって思ったぐらいよ」
幼馴染だからできる芸当ってやつね。 合図も何もなしの行き当たりばったりプレーが私と奈央の新しい武器よ。
「何か心臓に悪い連携だな?」
「だいじょぶよー。 私と奈央の絆を信じたまえ」
「ま、そゆことですわよー」
「ほらほら、弥生サーブサーブ」
「お、おう、わかっとる」
ふむ、どうやらチームメイトの意表も突いちゃったみたいね? 今までやってこなかった連携ではあるけど……。 とにかくここからはこの、私と奈央の行き当たりばったり幼馴染連携も織り交ぜていくわよん。
……名前何かないかしら?
「デコボコンビアタック!!
「ダサすぎて嫌ですわよ!」
私の抜群のネーミングセンスに文句をつける奈央。 デコボコンビアタックって私達にぴったりだしかっこいいと思うんだけど何が気に入らないのかしらね?
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